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2015年12月31日 (木)

2015年に面白かった小説2つノンフィクション5つ

 去年も似たような事をかいたが、真面目に選ぶといつまでたっても決まらないので、ほとんど気分で選んだ。当然、順番はつけてない。去年は小説3ノンフクション3だったが、今年はノンフクションの収穫が大きかったんで、バランスを気にせず2+5とした。

【小説】

ジェイムズ・バイロン・ハギンズ「凶獣リヴァイアサン 上・下」創元SF文庫 中村融訳
 アイスランドの孤島で行なわれている、怪しげな実験。それは最終兵器「リヴァイアサン」を生み出そうとするものだった。最新のバイオ・テクノロジーをつぎ込んで誕生したソレは、世界の全てを滅ぼそうとする欲望と、人智を超えた思考能力を持つ怪物で…
 日本では2003年発売。最新科学で生み出された最強最悪の怪獣が、制御不能になって暴れまわるという、由緒正しい様式の怪獣物語。炎を吐いたり戦車砲に耐えられたり強靭な再生能力を持ってたりと、リヴァイアサンのスペックは無茶苦茶なのに、一応はソレナリの理屈をつけてあるのが嬉しい。
リチャード・バック「かもめのジョナサン 完全版」新潮社 五木寛之創訳
 1970年代のベストセラーに、著者自らが最終章を付け足した完全版。食糧あさりに余念のない仲間たちから離れ、ジョナサンは奇妙な事ばかりをしている。どうすれば、思いっきり遅く飛べるのか。逆に速く飛ぶにはどうすればいいか。両親はジョナサンを心配するが…
 今も昔も、この作品は読者が勝手に自分の主義主張を投影して、好き勝手に解釈しているけど、実の所は「新人パイロットが飛行技術をマスターする話」なのだと、次の作品「イリュージョン」の解説に書いてあった。何かの技術・技能を身につけようと頑張っているうちに、人としての生き方・考え方も変わってきた、そんな経験がある人は、そういう話だと思って読むと、心地よく読めます、きっと。

【ノンフィクション】

ラリー・コリンズ/ドミニク・ラピエール「パリは燃えているか? 上・下」早川書房 志摩隆訳
 1994年。ノルマンディより上陸した連合軍は着々と前進を続け、パリ奪回も時間の問題となる。だが連合軍総司令官アイゼンハワーは、パリ解放を後回しにするつもりだ。補給が追いつかないのである。その頃、新たにパリ司令官となったフォン・コルティッツに、ヒトラーは命令を下す。「パリを死守せよ。不可能なら、瓦礫の山に変えろ」と。同じ頃、パリでは共産党系を中心としたレジスタンスが、拳銃と火炎瓶で蜂起を画策していた…
 私の大好きなジャーナリスト・コンビ、ラリー・コリンズ&ドミニク・ラピエールのデビュー作。同じ頃、瓦礫の山となってしまったワルシャワに対し、パリはいかにして救われたのか。まさしく危機一髪でルーブルが救われた事がわかるばかりでなく、様々な軍事・政治勢力と思惑が絡み合う戦場のややこしさや、戦場となった土地に住む人々の暮らしが皮膚感覚で伝わってくる20世紀のドキュメンタリーの傑作。
デイヴィッド・ダンマー/ティム・スラッキン「液晶の歴史」朝日新聞出版 鳥山和久訳
 テレビ・パソコン・スマートフォンの画面として大流行の液晶。その名前は知っていても、どんなモノかを知っている人は少ないだろう。液晶とは何か、それは液体や固体と何が違うのか、いつ・誰が・どのように液晶を発見し、どのように応用されていったのか。現代科学技術の象徴とも言える液晶を通し、科学から技術そして産業へとテクノロジーが普及していく過程を描く。
 実はかなりとっつきづらい雰囲気の本だし、実際に中身も相当に専門的だ。だが、ビビらずに取り組もう。じっくり読めば、素人でもちゃんと理解できるようになっている。実は液晶の原理だけでなく、化学の光異性体や亀の甲、数学のテンソルなど、液晶を理解するのに必要な基礎知識について、幅広くかつ分かりやすく説明しているのが嬉しい。歯ごたえはあるが、読了後の満足感も半端ない。
ジェレミー・スケイヒル「ブラックウォーター 世界最強の傭兵企業」作品社 益岡賢・塩山花子訳
 ブラックウォーター、現在はアカデミと名乗っている。世界中に二万名以上の傭兵を派遣する、世界最大の民間軍事企業だ。その設立からイラク戦争による急成長を通し、現在の戦場にはびこる傭兵の実態を明らかにすると共に、彼らが戦場に及ぼす影響、そして合衆国政府との関わりを暴く、衝撃のドキュメンタリー。
 なぜ民間軍事企業が注目され、問題視されるのか。なぜアフガニスタンやイラクの情勢がいつまでたっても落ち着かないのか。ブラックウォーター社の急成長の秘密は何か。世界的な傭兵企業の成長過程を明らかにしつつ、合衆国の軍事政策やネオコンが勢いを得た理由までも暴く、衝撃的なルポルタージュ。中東情勢に興味があるなら、是非とも読んでおきたい一冊。
アニー・ジェイコブセン「エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実」太田出版 田口俊樹訳
 エリア51。アメリカ合衆国ネヴァダ州ネリス試験訓練場にある、謎の区画。宇宙人が隠れていると噂され、映画「インディペンデンス・デイ」などでも取り上げられた。そこで、実際には何が行なわれているのか。合衆国とCIAは、何を隠しているのか。丹念な取材から見えてきた実態は、意外なものだった。
 思いっきり怪しげなタイトルで大損している本。ある意味、中身を素直に表しているし、本書が暴く実態もショッキングな代物なのだが、このタイトルじゃ適切な読者に届かないと思うw というのも、本書が扱う内容の半分近くが、合衆国の核開発の話だからだ。これがまた、実に身の毛もよだつ話の連続で。日本人なら、是非とも読んでおきたい作品。
ジョン・ダワー「増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 上・下」岩波書店 三浦陽一・高杉忠明・田代泰子訳
 1945年8月、3年8ヶ月に及ぶ総力戦は終結、大日本帝国は降伏する。だがその後の米軍による占領は、1952年4月までの6年8ヶ月に及んだ。空襲により荒廃した国土の中で、日本人はどの様に生き延びたのか。戦前の大日本帝国から日本国へ、国家はどう転換したのか。そして占領軍は、何を考えていたのか。明治維新以来の国家体制の大転換を、飢えに苦しむ民衆から国家の指導者、そして占領軍司令官マッカーサーなど様々な視点で描く、歴史的な問題作。
 太平洋戦争を語るには様々な視点がある。その中で、「敗者である日本」という視点は、この本ならではのもの。喰うものにもこと欠く庶民の暮らしも切ないが、孤児たちは更に厳しい。そんな中で、なんとか旧体制の保全を図る政治家や、煙のごとく消えた軍需物質などの話もキチンと書いてあるし、東京裁判の茶番もキッチリと描いている。これだけ大規模かつ総合的であると同時に、細かい部分にも目の行き届いた作品が書けてしまうのが、アメリカン・ジャーナリズムの底力なんだろう。憲法議論が熱い今だからこそ、多くの日本人に読んで欲しい作品。

【おわりに】

 軍事とその周辺が多くなっちゃったけど、面白かったんだから仕方ない。ノンフィクションは他にも スーザン・フォワード「となりの脅迫者」パンローリング 亀井よし子訳 が面白かったなあ、とか言ってるとキリないので、この辺で止めよう。長く生きていると、いい加減に面白そうな本が尽きると思っていたが、現実には逆で、次から次へと読みたい本が増殖していくから不思議だ。

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