SFマガジン2015年12月号
「そんなことをして大丈夫なのか? いろいろな意味で」
――小林泰三「ウルトラマンF」「わかってる。それでもみんなテキサス人の死体は見飽きてるのよ。いつもどこかに吊るされてる。ニューメキシコでも見たわ。メリーベリー教の布教テントとテキサス人がフェンスから吊るされてた。オクラホマ州でも、テキサスに通じる道路は全部そうよ。だれも気にしない」
――パオロ・バチガルピ「終末を撮る」中原尚哉訳
376頁。今回の特集は《SF Animation×HAYAKAWA JA》として、Project Itoh,コンクリート・レボルディオ~超人幻想~,蒼穹のファフナーを取り上げる。
コンウリート・レボルディオの対談「『超人』の時代」辻真先×會川昇×日下三蔵。いきなりジョージ・R・R・マーティンの「ワイルド・カード」が出てきて、「ああ、そういうことだったのね」と妙に納得。山村正夫の使いまわしの手口には笑った。
小説は、まず第3回ハヤカワSFコンテストより、大賞受賞作の抜粋で小川哲「ユートロニカのこちら側」,佳作受賞作抜粋でつかいまいこと「世界の涯ての夏」。夢枕獏「小角の城」第35回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第6回,新連載の小林泰三「ウルトラマンF」,パオロ・バチガルピ「終末を撮る」中原尚哉訳,シオドラ・ゴス「ビューティフル・ボーイズ」鈴木潤訳,川端裕人「青い海の宇宙港」第6回。
小川哲「ユートロニカのこちら側」。第3回ハヤカワSFコンテストの大賞受賞作の抜粋。十数年ぶりに故郷の村に帰ったリード。村はハリケーンで土砂に埋まってしまった。両親の葬儀の後、姉のロージーにメッセージを送った後は、一切の連絡を絶ち、姉からのメッセージも無視していたが…
十代後半の男の子ってのは、いろいろと難しいもんで。まして家出するまでこじれてたのなら、尚更。いろいろとあって職につき、仕事に熱中しはじめた頃に聞かされる、両親の真実。映画の喩えはなかなか巧いし、〆方も心に染みてくる。
つかいまいこと「世界の涯ての夏」。第3回ハヤカワSFコンテストの佳作受賞作。あの夏、ぼくは子供だった。<涯て>は本土の向こう側にある。ぼくたちは幼い頃に島にきたので、<涯て>を見たことはない。定期検査で学校を休み、久しぶりに登校したら、二つ後ろの席に見知らぬ女の子が座っていた。
島の少年、<中継者>を勤める老人、フリーのキャラクター・デザイナーの三者の立場で、奇妙な現象<涯て>が起きた世界を語る。舞台は終末が迫る近未来の地球、それも日本らしいのだが、特に軍事的に危険な雰囲気はなく、今の日本の延長らしく平穏で、でも妙な閉塞感が漂っている。
それと、今回の入賞作は、どちらもジョン・ヴァーリーの「残像」みたいな喪失感を感じるんだよなあ。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第6回。謎の敵<クインテット>に潜入したウフコックの視点で、クインテットの内情を語る回。リーダーらしいハンターの能力を、存分に見せ付けられる。この力、普通の社会で巧く使えば国、いや世界だって支配できると思うんだが、そうはいかないのがマルドゥックなんだろうなあ。つかストレッチャーの能力って、ボイルドっぽくないか?
小林泰三「ウルトラマンF」。ウルトラマンが去った世界。その生物はゴモラそっくりだったが、大きさは4mほど。出動した科学特捜隊の機動部隊は、迷っていた。怪獣なら速やかに殲滅すべきだが、野生動物なら保護しなければならない。正体を見極めたいが、被害が出ては困る…
言われてみれば確かに科学特捜隊の能力は凄まじい軍事力なわけで、そりゃ大騒ぎになるよなあ…と最初の場面は緊張感漂うお話なのだが、これが他国のパートになると、トダバタのギャグ・テイストになる。「いろいろな意味で」とか「可哀そう」とかw 元帥さん、ストレス溜まるだろうなあw
同じ特集《TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERS》『多々良島ふたたび』刊行記念トークショー山本弘×桜井浩子。山本弘の「おかしいのはわかっちゃいるけど、それに理屈をつけてくのが楽しいんじゃないか」に大笑い。怪獣好きの子供が、そのまま大人になって、でも楽しんでる姿が微笑ましい。
パオロ・バチガルピ「終末を撮る」中原尚哉訳。長編「神の水」のスピンオフ。水不足に見舞われたアメリカで、CAP(中央アリゾナ計画)の水路を訪れたジャーナリストのルーシーと、カメラマンのティモ。ティモが見つけたのは、CAPのフェンスにぶら下がる男の遺体に群がる、数匹の野犬。
インターネットが発達した近未来のジャーナリストの視点で、水不足をきっかけに州の対立が高まったアメリカの風景を描く。所々にスペイン語らしき単語を混ぜて、南部っぽさを醸しだしている。昨今のシリア難民の姿と、水不足でテキサスから逃げ出す人々の姿が重なって、読後感はやたらよ生々しい。
シオドラ・ゴス「ビューティフル・ボーイズ」鈴木潤訳。<ビューッティフル・ボーイ>、学名<プエリ・プールクリ>。細く引き締まった体、頬にはうっすら不精髭、アフターシェーブ・ローションと煙草の匂いがする。身長は180cm~190cm、体重75kg~88kg。肌の色はさまざまで、犯罪行為に関わることも多い。そして女性との関係は…
女性向け。うん、まあ、アレだ。可愛い女の子は空から降ってくる。そして、カッコいい男の子は、どこかよくわからない所から湧いてきて、どこかに行ってしまうのだ。
川端裕人「青い海の宇宙港」第6回。今回は天羽駆たちの担任教師、田荘千景の視点で始まる。サードインパクトはワザとかw ガオウは沖縄で言うウタキみたいなモノだろうか。実は私の家の近所にも、よく分からない立ち入り禁止の場所があるんだけど、由来を知らなかったらタダの藪なんだよなあ。後半の宇宙創成の説明がとってもわかりやすい。なんで小学生向けの雑誌ではなくSFマガジン連載なんだろう。是非、子どもに読んで欲しい。
東茅子「NOVEL&SHORT STORY REVIEW」。ヒュー・ハウイーの「キャラクター選択」 Select Character が面白そう。戦闘アクションゲームの中で、家庭菜園を楽しむ主婦の話。良くできたソフトは、往々にして制作側の思惑を超えた使われ方をするもので。ガンパレード・マーチで仲人プレイなんてのを編み出した人の発想も尊敬してしまう。
樫本輝幸「世界SF情報」。ここ暫くジョージ・R・R・マーティンが大暴れしてたローカス・ベストセラーリスト、今回もマーティンが暴れてるが、同時にチャールズ・ストロスがハードカバーとペーパーバックの両方にランクインしてるのに驚いた。日本じゃすっかりご無沙汰なのに。
巽孝之「2015ワールドコン・レポート」。アンディ・ウィアーが飛行機恐怖症って、ホンマかいなw にしてもパピーズは、ヒューゴー賞乗っ取りなんか企てるから反感を買うんで、自分たちで新しい賞を作るんなら文句のつけようがないんだよなあ。つかソードアート・オンラインとかは、パピーズにウケる気がするんだけど、どうなんだろ?
同じく「2015ワールドコン・レポート」、藤井太洋。英語の練習を兼ねてナンパとは、やるなあ←違います
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