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2015年11月24日 (火)

小宮信夫「犯罪は『この場所』で起こる」光文社新書

 犯罪のほとんどは、二つの基準が満たされた場所で起きていることが、欧米の最近の研究から分かってきた。その一つは「入りやすい場所」であり、もう一つは「見えにくい場所」である。
  ――プロローグ

 犯罪に強い要素のうち、ソフトな要素は、(略)管理意識(望ましい状態を維持しようと思うこと)、縄張意識(侵入は許さないと思うこと)、及び当事者意識(自分自身の問題としてとらえること)である。
  ――第三章 犯罪に強いコミュニティデザイン ソフト面の対策

地域安全マップとは、犯罪が起こりやすい場所を表示した地図である。言い換えれば、領域性と監視性の視点から、地域社会を点検・診断し、犯罪に弱い場所、すなわち、領域性や監視性が低い場所を洗い出したものが地域安全マップである。
  ――第三章 犯罪に強いコミュニティデザイン ソフト面の対策

【どんな本?】

 犯罪を減らすには、どうすればよいか? 本書では、犯罪者を更正させる従来のアプローチに対し、犯罪を犯す機会を減らすことが重要だと主張する。

 そういった発想を元に、犯罪が起きやすい場所の特徴を具体的に分析し、そのような場所を減らす方法を示すと共に、イギリス・アメリカそして日本で既に行なわれている、犯罪の機会を減らす活動を挙げ、その目的・特徴・成果を紹介してゆく。

 町内会や小中学校の学区から、市町村などの自治体での活動の指針となるばかりでなく、個人でも、犯罪に巻き込まれやすい場所を見極めて避ける役に立つ、一般向けの防犯の啓蒙書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2005年8月20日初版第1刷発行。新書版で縦一段組み、本文約239頁。9.5ポイント41字×15行×239頁=約146,985字、400字詰め原稿用紙で約368枚。文庫本の長編小説なら、少し薄い一冊分だが、図版や写真を豊富に収録しているので、文字数は7~8割ぐらいだろう。

 文章は少し硬い。ただし内要は難しくないので、じっくり読めば充分に理解できる。現実に日本で行なわれている「地域安全マップ作り」は、小学生が主体となって活動しているケースもあるので、基本的な部分は中学生でも理解できるだろう。

【構成は?】

 前の章を受けて次の章が展開する形なので、素直に頭から読もう。

  • プロローグ
  • 第一章 機会なければ犯罪なし 原因論から機会論へ
    • 1 欧米の犯罪対策はなぜ成功したのか
      日本の犯罪増加率が欧米を上回る/集団志向性が低犯罪率を支えてきた/ライフスタイルの欧米化で犯罪が増加/「原因追求」の呪縛を解く/犯行に「都合の悪い状況」を作り出す
    • 2 新しい犯罪学 犯罪をあきらめさせるアイデア
      予防に勝る対策なし/原因のブロックと機会のライン/犯罪機会の需要と供給/盗む機会があるから盗人が生まれる?/神戸児童連続殺傷事件
  • 第二章 犯罪に強い空間デザイン ハード面の対策
    • 1 「防犯環境設計」で守りを固める
      犯罪に強い三要素/人格でなく状況を変える/大阪小学校内児童殺傷事件/学校の安全/公園の安全/道路の安全/住宅の安全/安全・安心町づくり
    • 2 監視カメラが見守る、監視カメラを見張る
      「バルガー事件」で得た支持/自治体が管理するロンドンの監視カメラ/地方都市にも進出/日本に多い「プライバシー侵害」の意見/個人データとしての画像の扱い方/犯罪防止効果はあったのか/カメラだけに頼らない/「機械の目」と「人の目」が不安を解消する
  • 第三章 犯罪に強いコミュニティデザイン ソフト面の対策
    • 1 「割れ窓理論」で絆を強める
      「割れた窓ガラス」が象徴するもの/秩序違反行為が犯罪の呼び水になる/ニューヨークのゼロ・トレランス/「検挙」か「予防」か/高度化する犯罪情勢の分析/警察官を導く「価値」が必要/住民を警察のパートナーにする/裁判所も地域に目を向け始めた/ワンストップサービス/まちづくり組織による清掃と警備/生活の質を支えるイギリスの裁判所/秩序違反の切符を交付/自治体と警察のパートナーシップ
    • 2 被害防止教育の切り札「地域安全マップ」の魅力
      地域力 コミュニティのパワーアップ/だれでも作れる「地域安全マップ」/被害に遭わない力が伸びる/地域探索で「ふるさと再発見」/「犯罪発生マップ」や「不審者マップ」にならないように/地域に潜む危険性に気づくことが目的/子どもの意識改革と生きる力の向上/地方自治体に広がるマップづくり/マップが誘拐殺人犯から街を守った? 八尾市/訪犯ブザーや護身術だけでは足りない/地域のリーダーが「場所の犯罪誘発性」を学ぶ/城づくりの教訓 犯罪者が近づきにくい街に/問題解決型パトロール 「人」ではなく「場所」に注目する/地域を越えた「共有知」の必要性
  • 第四章 犯罪から遠ざかるライフデザイン もう一つの機会論
    • 1 立ち直りの「機会」をどう与えるか
      犯罪の機会を減らした後で/レジリエンス(回復力) 困難を乗り越えていく/人生を「分岐点の連続」と考える/児童虐待から抜け出す「機会」/メンター 「あこがれの先輩」の存在/有償のボランティア「アメリカ部隊」/犯罪の道から救い出す社会関係資本/イギリスの「少年犯罪チーム」の支援力/早期介入で危険因子を取り除く/親業命令 少年の立ち直りを疎外する親の無関心/日本版「少年犯罪チーム」の実現を
    • 2 非行防止教育で「対話」と「参加」を促す
      すべての少年に保護因子を与える/消費を煽る社会 いきなりキレる背景/人間と結びつくための「社会性」を育てる/想像力を豊かにする対面的コミュニケーション/修復的司法 加害者、被害者、地域が話し合う/少年が地域と再犯防止の契約を結ぶ/オートバイ盗にも修復可能な話し合い イギリス/社会と結びつくための「市民性」を高める/少年の規範意識は低下したのか/「誰も排除されない社会」を目指して/住宅建設という地域貢献活動で未来も建設 アメリカ/治安再生の処方箋 加害者も被害者も生まないために
  • エピローグ
  • 索引

【感想は?】

 犯罪機会論というと何やら難しそうだが、実は本能的に感じている事と同じだったりする。

 誰だって、暗い夜道を一人で歩くのは怖い。街を歩いていても、「この辺はヤバそうだな」と感じる場所はある。こういった場所を分析し、その特徴を理論的に分析して具体的に挙げ、減らす方法を紹介する本だ。これは多くの人が参加する社会活動の指針となるばかりでなく、個人的に危ない場所を避けるのにも役立つ。

 なぜ犯罪が起きるのか。凶悪犯罪が起きるたびに、マスコミは犯人の境遇や犯行の動機に注目する。「どんな人間が、どんな目的で」犯罪に走ったのか。そういう発想を、著者は原因論と名づける。それに対し、極論すれば「出来るからやった、出来なければやらなかった(かもしれない)」とするのが、著者の主張する機会論だ。

 とはいえ、原因論を否定するわけじゃない。「犯罪対策にとって、原因論と機会論は車の両輪」だと認めた上で、機会論に立った予防策を充実させましょう、と主張する本だ。

 読んでいくと、「当たり前じゃないか」と思うところもある。そういう「当たり前」を、要因を分析して明文化し、統計的にウラを取るのは、学者の仕事だ。そういう意味では、学者だから書けた本だろう。

 第二章では、「危ない場所」の要因を分析して明文化してゆく。それは抵抗性・監視性・領域性である、と。こう書くと難しそうだが、よく読むと、誰もが頷くような事ばかりなので、我慢して読もう。

 抵抗性は、鍵をかける事だ。犯罪がメンドクサイまたはバレやすいようにする事で、犯人を諦めさせる。監視性と領域性は、場所に関わっている。

 犯罪は、人目のない所で起きやすい。逆に、多くの人が見ている所では、犯罪が起きにくい。これが監視性だ。分かりやすい例が、監視カメラだろう。カメラがあり、かつカメラがあるとハッキリ判るように示すことで、犯罪を防ぐ効果がある。逆に、死角が多いと、犯罪が起きやすい。

 これについては、公園や街路の写真を掲載し、直感的にわかるようになっているのが嬉しい。木々やブロック塀に囲まれた場所は、いかにも危なそうに感じるのに対し、見通しのいい公園は、いかにも安全そうだ。公園の緑は憩いにもなるが、同時に危ない感じにもなる。その辺のバランスは難しそうだけど。

 塀も、ブロックでは見通しが利かないので、危険な感じになる。そこで金網のフェンスや鉄格子にして見通しをよくすればいい。

 領域性は、縄張り意識を呼び覚ますものだ。他人の縄張り内だと、犯罪を起こしにくい。塀で囲えば、その中と外に分かれる。公園で、「児童向けの地域を、円形の地面に濃い色を塗ることで、大人が足を踏み入れにくい空間」になる、なんていうのは、簡単な仕掛けだけど、確かにそういう部分はあるなあ。

 などの理論を受け、実践に向かうのが、第三章以降だ。

 今までの話は、物理的な話が中心だったが、これ以降では、ソフト的、つまり人々の行動で、抵抗性・監視性・領域性を強めよう、そういう話になる。

 まず、最初に出てくるのが、割れ窓理論(→Wikipedia)だ。私も名前だけは知っているが、その理屈はちゃんと分かってなくて、「ヤバそうな雰囲気にするとヤバい事が起きやすい」ぐらいにしか考えていなかったが、少し違うのだ。

割れた窓ガラスが放置されているような「場所」では、縄張意識が感じられないので、犯罪者といえども警戒心を抱くことなく気軽に立ち入ることができ、さらに、当事者意識も感じられないので、「犯罪を実行しても見つからないだろう」(略)と重い、安心して犯罪に着手するのである。

 逆に、綺麗に掃除が行き届いている所は、掃除している人が「俺のシマでフザケた真似すんじゃねえ」と考えている、そう犯罪者が感じとるだろう。加えて、掃除する人が頻繁に出入りしている証拠でもあるので、犯罪がバレやすい、と犯罪者が感じる。掃除のオバチャンも、防犯に役立っているんだなあ。

 これらは地域ぐるみでやると、大掛かりな事も出来る上に、もっと重要な効果がある。地域全体で、縄張り意識が高まる、つまり領域性がますのだ。「俺の町で勝手はさせねえ」、そういう気持ちが地域全体で育ち、犯罪を起こしにくくなる、という理屈だ。

 そんなわけで、地域安全マップ作りが出てくる。私も勘違いしていたんだが、これは「変な人の出没マップ」では、ない。監視性と領域性の薄い場所、つまり「入りやすい場所」「見えにくい場所」を書き込んだ地図だ。大事なのは「危ない場所」であって、「危ない人」ではない。

 これを小学生に作らせる運動が面白い。子どもにとっては、防犯教育にもなる上に、地元への愛着も湧く。地図作りの途中で、地域の人へのインタビューをする事もある。子どもに尋ねられて不機嫌な対応をする人は少ない。話をする事で、子どもも大人も地元意識が盛り上がり、これは領域性を高めて犯罪を減らす効果があるだろう。

 終盤のデジタル/アナログ論などは、ちょっと短絡的で勇み足かな、と思うが、場所や機会に注目し、また地域の結びつきを活用する発想は、かなり面白い。著者はデジタルがお好きでないようだが、イングレスのような形で Google Map を活用する手もあるんじゃないかと思う。

 手軽に読める割に、意外と日常生活でも活用できそうな、楽しくて役に立つ本だった。

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