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2015年10月26日 (月)

梶尾真治「怨讐星域 Ⅱ ニューエデン」ハヤカワ文庫JA

「私はわかっています。いつもお祖父さんが迷っていたのは、どう優先順位をつけるか、ということだった。何を捨てて、何を取るべきかということ。すべてが幸福にできるなら、迷うことはないのですからね。
 最善の道を探しているのでしょう。皆のために。お祖父さんと同じだと思うから。すごく似ているから」
  ――深淵の選択

【どんな本?】

 ベテランSF作家の梶尾真治が、約十年に渡りSFマガジンに連載した連作短編シリーズ三巻の第二巻。

 破滅が確実となった地球から、抜け駆けのように巨大な世代間宇宙船ノアズ・アークで脱出したアジソン一味。彼らが目指すは172光年先の惑星だった。取り残された人類は、急遽開発した転送装置で、多くの犠牲を払いながらも一足先に同じ惑星に降り立つ。何もない状態から必死に生き延び、文明を再建し…

 あらゆるSFの要素を取り込みながら、壮大な物語を組み上げるベテランの連作短編集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年5月25日発行。文庫本で縦一段組み、本文約433頁。9ポイント41字×18行×433頁=約319,554字、400字詰め原稿用紙で約799枚。文庫本としてはうやや厚め。

 文章は抜群の読みやすさ。実はSFが扱うガジェットをこれでもかと贅沢に詰め込んでいる作品なのだが、なぜか不思議ととっつきやすい。親しみやすい割りに幅の広いSFテーマを扱っているので、SF初心者には格好のお薦め品であると共に、SFを読みなれた人には嬉しいクスグリが随所に仕込んである。

 連作短編集ではあるが、それぞれの作品は比較的に独立しているので、美味しそうな所から読み始めてもいい。「怨讐星域 Ⅰ ノアズ・アーク」に続く巻だが、基本的な設定さえ分かっていれば、この巻から読み始めても充分に楽しめるだろう。

【どんな話?】

 太陽の暴走により、地球の破滅が確実となった。合衆国大統領フレデリック・アジソンらは秘密裏に世代型の巨大宇宙船を作り、選ばれた者たちと共に抜け駆けのように地球を脱出する。目指すは172光年先の惑星。残された者たちは、同じ頃に開発された転送装置で同じ惑星へと向かう。

 多くの犠牲者を出し、ほとんど何もない状態で惑星に降り立った人々は、未知の生態系に苦しみ、また人類同士の衝突に悩まされながらも、原始の状態から着実に文明を再建してゆく。置いてけぼりにしたアジソン一味の物語と、復讐と誓いを受け継ぎながら。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出 の順。

降誕祭が、やってくる / SFマガジン2009年2月号
 ニューエデンの文明は、爆発的に進歩した。今は移住してから第四世代から第五世代にさしかかっている。イースト専門校に通うタツローは、降誕祭の出し物に悩んでいた。今までも、イースト専門校の出し物は人気が高いだけに、プレッシャーも大きい。同じ委員のセルジオとアンリーと相談するが…
 次の二作と合わせ、三連作を構成する開幕編。作品そのものも面白いが、同時にベテラン作家の貫禄か、創作のプロセスや秘訣を惜しげもなく披露しているのにも注目しよう。この三連作を読むと、自分でも何かを書けるんじゃないかって気になってくる。にしても、年寄りにはカブト虫がいきなり強烈だったw
アジソンもどき / SFマガジン2009年8月号
 精魂こめたアンリーの台本には、真っ赤に修正が入ってしまう。タツローらはガックリきたが、本人のアンリーはかえって意欲をかき立てられたらしく、書き直しに熱中している。だが出し物を完成させるには、細かいものから大きな事まで、問題は山積みだ。特に重要なのは…
 好きな小説やゲームや漫画が映像化されると聞いて、大喜びしたのはいいが、イザ完成品を見てみると「違う!」とガックリきた経験をした人は多いだろう。なぜそうなるのかが、この三連作でよくわかる。私の場合、ガンパレードマーチはゲームと小説は同じ物だけど、アニメは別のシロモノと思えばソレナリに楽しめた。まれに「違うけどコレはコレで」と思えるのもあって、W・P・キンセラの小説「シューレス・ジョー」を映画化した「フィールド・オブ・ドリームス」は、互いが互いを補い合う幸運な例だった。
失われし時をもとめて / SFマガジン2009年11月号
 なんとか主役を見つけ引っぱってきたが、不安はつのる。記憶も失ったらしく、自分の名前すら思い出せない。まして演技の経験はない。だが幸いにして凶暴ではないし、言葉の覚えも早い。どころか、かなり知能が高いらしく、一人で様々な道具を作り上げていた。
 三連作の完結編。何度でも撮りなおしが利く映画やドラマと違い、舞台は一発物だ。音楽でもライブは日によって出来が違う。それが生で見る楽しみでもあり、舞台に立つ側にとっては怖さでもある。にしても、最後のタツローとアンリーは、どんな気持ちだったのやらw
減速の蹉跌 / SFマガジン2010年2月号
 約二年九ヶ月前に、悲劇が起こった。ノアズ・アークの中央近くで事故が起き、船長室と制御室にいた全員が亡くなった。おまけに放射性物質で汚染され、立ち入りが不可能となってしまった。幸いに居住区画など他の所には被害が及んでいないが、このままでは中間地点での転回ができない。つまり、目的地を通り過ぎてしまう。
 宇宙船を回転させ、加速を減速に切り替えなければ、今までの長い旅が無駄になると同時に、ノアズ・アークは虚空を彷徨う羽目になる。回転は制御室から行なうが、その制御室に入る事はできない。ジリジリと減速に切り替える時は迫り…というサスペンスもの。
生存の資質 / SFマガジン2010年5月号
 ダン・マエバシの仕事は、カリフォルニアⅢの空調管理や清浄機の定時管理などだ。単調な毎日を、同じ年の同僚マイクとぼんやりと過ごしている。二人とも、そろそのN-ホーンに黄色表示が出るようになった。ぼちぼち配偶者を選べ、相性のいい相手を紹介するよ、という意味だ。
 つまりは出会い系ですね。しかも政府主催の。少子化が問題となっている今、そういう制度があったら…うーん、どうなんだろう? 今の所は民間の結婚相談所が活発に営業してるから、そんな話は出てこないだろうけど。
ノアズ・アークの怪物 / SFマガジン2010年8月号
 ジョン・ブッファの孫アル・ブッファは、オクラホマⅠの治安官だ。といっても兼業で、普段は浄水局の仕事をしている。治安官の仕事も、住民同士の諍いを宥めるようなものが多い。だが、今回の呼び出しは違った。オクラホマⅡとⅢの通路付近で、怪物が出たというのだ。相棒のネビルと共に初動捜査に赴くと…
 ヘッポコ警察官のバディ物を思わせる出だし。治安官とは言っても警察ってほどの迫力はなく、むしろ風紀委員に近いかも。にしても、このオチはなんともw
テンゲンの山頂にて / SFマガジン2010年11月号
 大伯父のタツローに、ミツヒロはずいぶんと可愛がってもらった。だが、今のタツローは老衰で随分と弱っているらしい。日々の学業で忙しかったミツヒロは暫くぶりに会いに行く。迎えてくれた大伯母のアンリーは、今もしゃんとしている。だがタツローは…
 日本人が大好きな、タマゴご飯をテーマとした二連作。熱いご飯に生卵、それに醤油ってだけの単純な料理なのに、みんな大好きなタマゴご飯。ところがニューエデンで同じ物を再現しようとしたら、これが大変な苦労で。食べ物関係の本を読むと、どれもこれも生態系と強く結びついていて、料理ってのはやっぱり地元文化と切り離せないものなのかも。
アダムス小屋 / SFマガジン2011年2月号
 既に絶滅したと言われるシャドーカラオケ。今の所、手がかりは大伯父のタツローの言葉に出てくるテンゲン山だけだ。山の経験はないが、今は電子化情報や書物で色々と調べることができる。情報を集め、準備を整えてテンゲン山に向かうミツヒロは、幸いにテングという道に慣れた同行者を得たが…
 山男ってのは、妙に世間離れした、でもなんか憎めない奴が多くて、その強靭なマイペースっぷりが時おり羨ましくなる。終盤は、これまた何かの映画を下敷きにしたらしい、緊張感が漂う展開。
深淵の選択 / SFマガジン2011年5月号
 ノアズ・アークの船内人口は、現在約一万九千人。あと十年ほどで、<約束の地>にたどり着く。十七代大統領キース・ランバートは、マッキントッシュ補佐官とアンダースン船長に支えられ職務をこなしている。いよいよゴールが迫るという時に、重大な問題が発覚した。
 多くの人々の運命を担う、指導者の孤独と苦悩を描く作品。ここまで来といて、そんな殺生な…と思ったが、案外とそんなモンだろうなあ。先の「アダムス小屋」から続き、ヒタヒタと迫る接触の時を、ジワジワと感じさせる、この連作短編集の後半を感じさせるパート。
ウィリアム・ガズの部屋 / SFマガジン2011年8月号
 <約束の地>に降り立つためのシャトルの建造が始まり、ノアズ・アークの区画も大きく変わっている。居住区画もシャトルの建造に使われる事となり、ニューヨークⅣも全ての住民に移住してもらわねばならない。サチオ・マエバシはその説得にあたる臨時移住局員だ。困った事に住民の一人ウィリアム・ガズ氏は、閉じこもったまま顔も見せてくれない。
 引き篭もりの老人ウィリアム・ガズは、いかなる人物なのか。次第に見えてくる彼の若き頃の姿は、実に意外なもので…。ちょっとネタバレっぽいが、私はあの人(ネタバレあり、→Wikipedia)を連想した。
自由教会にて / SFマガジン2011年11月号
 ニューエデンの旧市街、『怒りの剣』のモニュメントから暫く歩くと、自由教会がある。ここを訪れるのは観光客と老人が大半で、若者は珍しい。だが彼ヤツシは一人でやってきた。迎えた<兄>の聖職者ダニエルは、意外と高齢だった。外の通りでは“正義の人類党”の街宣車が騒がしい。
 <自由教会>の発想が面白い。騒ぎが絶えないエルサレムにも、こんな教会を作ったら少しは静かに…いや、無理だろうなあ。聖職者のダニエルさんも、アブラハムの宗教というより禅宗の坊さんみたいな印象なんだけど、実際の神父さんはどんな感じなんだろう?
七十六分の少女 / SFマガジン2012年2月号
 ジョナ・ハリスンは、カリフォルニアⅣの製造工場で働いている。作っているのは、主にスペースシャトル機の部品だ。幼い頃からモノを作るのは好きだったし、今の仕事は気に入っている。今日、突然に舞い込んだ仕事は急ぎで、営繕室フロアの複写装置のところへ届けなければいけない。
 若く独身で、仕事に打ち込んでいるエンジニアには身に染みる作品。特に現代の技術系の仕事は変化が速くて、十年先にどうなっているのかなんて全く分からない。でもとりあえず目先の仕事は沢山あるし、それをこなすしかないよね、とか思っていると、まあ、アレだ。
Ⅱによせて(あとがき)

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