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2015年10月 7日 (水)

アーヴィング・ゴッフマン「スティグマの社会学 烙印を押されたアイデンティティ」せりか書房 石黒毅訳

スティグマをもつ人たちをめぐる状況は、簡単に彼らをも同類中の有名になった英雄、または悪党の世界に住まわせることになるのである。
  ――Ⅰ スティグマと社会的アイデンティティ

スティグマのある人は<同類>の人びとを、そのスティグマが明瞭で目立つ程度に応じて差別化する傾向を示す。
  ――Ⅲ 集団帰属と自我アイデンティティ

【どんな本?】

 身体的な障害,犯罪の前科,変わった性的嗜好,少数民族,珍しい宗教…。この本は、いわゆる「常人でない」属性をスティグマと呼ぶ。スティグマを持つ者は、どのように振舞うのか。社会の中で、どのような立場に置かれ、どのように行動する事を期待されるのか。自らをどう規定し、どう社会に適応するのか。

 社会学者による、スティグマをテーマとした、人と社会のかかわりを考察する専門書…だと、思う。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は STIGMA : Notes on the Management of Spoiled Identity, by Erving Goffman, 1963。日本語版は2001年4月6日改訂版第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約238頁。9ポイント42字×17行×238頁=約169,932字、400字詰め原稿用紙で約425枚。文庫本の長編小説なら標準的な一冊分の分量。

 文章は硬い。典型的な「学者の書いた文章」だ。だが、意外と中身は難しくない。特に哲学や社会学の前提知識も要らないので、硬い文章にビビらなければ、高校生でも読めるだろう。

【構成は?】

 基本的に前の章の内容を受けて次の章が展開する構成なので、素直に頭から読もう。

  • Ⅰ スティグマと社会的アイデンティティ
    • 予備的考察
    • 同類と事情通
    • 精神的経歴
  • Ⅱ 情報制御と個人的アイデンティティ
    • すでに信頼を失った者と信頼を失う事情のある者
    • 社会的情報
    • 可視性
    • 個人的アイデンティティ
    • 生活誌
    • 生活誌上の他人
    • パッシング
    • 情報制御のさまざまな手法
    • 偽装工作
  • Ⅲ 集団帰属と自我アイデンティティ
    • 両価的感情
    • 職業的代弁者による問題呈示
    • 内集団への帰属
    • 外集団への同調
    • アイデンティティの政治学
  • Ⅳ 自己とその他者
    • さまざまな逸脱行為と基準
    • 逸脱点のある常人
    • スティグマと現実
  • Ⅴ さまざまな逸脱行為と逸脱
  • 原注・訳注
  • 訳者あとがき
  • 改訂版へのあとがき

【感想は?】

 著者が何を言いたいのか、よくわからない。

 文章が硬いせいもあるが、著作自体が研究の経過報告みたいな形で終わっている気がする。ただ、読んでいて、「うん、あるある」と思うところは多かった。

 まずはテーマであるスティグマ。烙印みたいな意味で使っているようだ。というと、どうも大げさに思われがちだが、現代となっては多かれ少なかれ誰もが持っている物じゃないだろうか。

 この本が扱っているのは、次のようなものだ。身体の障害,精神の持病,犯罪の前科または現役の職業的犯罪者,同性愛,少数民族,珍しい宗教など。この本の冒頭では「不面目」としている。先に挙げたに限らず、ちと人に知られたくない属性なら、他に幾らでもあるだろう。オタク趣味,カツラ,下痢気味の腹,老化による難聴…。

 そんなわけで、オタク趣味を持つ者の一人として読むと、「おお、あるある」と感じる所は多かった。例えば、職業的犯罪者が、驚きを告白している。カタギの人が、ペーパーバックの探偵小説に興味があるとは思わなかった、と。リア充もナウシカを見ると知り、オタクが驚くようなもんだろうか。

 世間から見たらオタクはオタクで、どのオタクも大した違いはないが、オタク内では歴然とした派閥や序列がある。アニメオタク,ゲームオタク,コンピュータ・オタク,鉄っちゃん,アイドル・オタク…。

 この記事の冒頭の二番目の引用は、そういう事なんだろうか? 同属嫌悪とでもいうか、同じオタク同士でも激しい派閥争いがあったりするし、「ライトノベルを叩いているのは誰か」なんて記事もあったりする。いやキチンと検証したわけじゃないけど、気取ったSFファンの中にはライトノベルを叩く人も多いかも。

 それとは逆に、痛車に乗るぐらい突き抜けちゃった人は、王として崇められる事もある。 …が、それはオタクの中での話で。

スティグマのある人が常人と<一緒に>いるとき、自分の同類のなかの望ましくない者が近寄ってくる

 などというのは、はなはだ嬉しくない。隠れてオタクをやっている者にとって、職場の者と一緒にいる時に、秋葉原や有明の知人と出会うのは、出来れば避けたい事態だ。この章ではズキズキくる文章が続く。

漫画、小説、民話の類には、彼らの仲間のステレオタイプ的人物の欠点が不真面目な形で展示される。

 もこっちか、もこっちの事かぁ~! まあ、そんなオタクでも受け入れてくれる世間はあるのだ。

精神病院のすぐ近所に見受けられる商店は、精神疾患者の行動に対しては相当程度に寛容さを示すようになるだろう。病院の周辺の人たちは、植皮手術を行なっているさいちゅうで、顔が見苦しくなっている人たちを平静に扱う能力をもつようになる。

 鷲宮や大洗の人も、聖地巡礼する者を生暖かい目で見守ってくれているようだし、迷惑かけずに行動すれば、相手も慣れてくれるんです、きっと。

 なんてのは無名のうちの話で、有名になっちゃうと話は別。かつての宮崎勤の事件の頃は、オタクの肩身が狭かった。世間ではオタク=連続幼児殺人犯みたいな構図になっちゃって、漫画が好きなんて滅多に言えない雰囲気になっていた。当時はコンピュータの知識がある=オタク、みたいな認識もあって、計算機屋も辛い想いをした。

 それが今じゃIT系と言えば賢そうに見られるから、世の中なんてのは理不尽なもんです。散々コキ下しといて、流行り出すと掌返すんだもんなあ。そういえばSFも…

 って、全然書評になってないな。誤解のないようにお断りしておくけど、本書の中ではオタクなんて言葉は一切出てきません、はい。あくまでも真面目な社会学の本です。

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