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2015年10月19日 (月)

書評あれこれ

 豊崎由美「ニッポンの書評」を読んで思った事をあれこれ。

この本、書評に限らずブログで映画やドラマなど「他のコンテンツ」の評論などをやっている人には、なかなか刺激的な話が詰まってて、特に最後の対談はネタの宝庫だったりする。

【キュレーション】

 「書評が求められるのはどんな時か?」というテーマで、大澤聡が鋭い指摘をしてる。日本では1920年ごろ出版物が大衆化して出版点数が激増、「出版洪水」といわれる状態になり、新聞などで書評が盛り上がった、と。

 生のコンテンツが激増して手に負えなくなった時、それを整理整頓して消費者に適したタイトルを選び提示するモノが求められる。なんか最近見たよなー、と思ったら、「2ちゃんまとめ」と「togetter」と「はてなブックマーク」だった。あと、最近は「Tumblr」があるか。あと「やる男.jp」を見てたんだけど、更新が止まっちゃったなあ。

【三行にまとめて】

 やはり大澤氏が「長い文章を読めなくなっている現状はたしかにありますね」と言ってるのに、ちと異論が。

 「長い文章が読めなくなっている」のではなく、「長い文章を読めない人もテキストでのコミュニケーションに参加し始めた」のではないかと。

 昔から文章を読まない人は沢山いた。そういう人たちは、モノゴトの伝達を直接の会話や音声で済ませていたし、世の中はそれで済む形で回っていた。でも、携帯電話やメールが普及して、「長文を読めない人」まで、文章での意思疎通を強制される社会になってしまった。

 今までは長文が読めなくても不自由のない社会だったし、書き手も長文が読める人だけを対象に書いていればよかった。でも長文が読めない人が文章での意思疎通に参加し始めた。そのため、読み手全般の平均や中央値を見ると、読解力が落ちているように感じる。

 全体としての読解力は落ちてない。ただ、今までは読解力の優れた人だけが対象だったのが、そうでない人も読み手として参加するようになった、そういう事ではないかなあ、と。

 Twitter が当たった理由の一つは、長文を読めない人の取り込みに成功し、未開拓の市場を掘り起こしたからじゃないのかなあ。まあ私も携帯電話の世界はよく知らないんだけど。今後、スマートフォンが普及するにつれ、読める人と読めない人の境界は更にぼやけてくると思う。

【私にしかできない書評】

 プロの書評家はさておき。ネットじゃ以下三つに「こりゃ格が違うわ」と感服してる。

積ん読パラダイス
タニグチリウイチ氏のサイト。数年前からSFマガジンでも書評を担当してるから、プロでもあるし、最近は更新ペースが落ちたみたいだけど。ライトノベルを中心にした書評の量がハンパじゃない。という「背景」の深さと共に、共感力というか、作中人物の立場になりきって読む姿勢は、娯楽小説の書評としての王道だと思う。
わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
書評の内容もさることながら、プロデュース力が凄い。つまりはタイトル通りの事をやってるんだけど、それを発想して企画して実行し、キッチリと事後処理も綺麗に片付ける能力も見事。まあ、それを実現するには、核となる書評力そのものも、相応しいものが必要なんだけど。
誰が得するんだよこの書評
タニグチ氏はライトノベル中心で、スゴ本はホラー・ミステリに優れてる。「SFはどうなんだろ」と思ったら、やっぱり居るんだよね、SF読みにも。「読み」の深さと視点の鋭さもあるけど、「背景」がキチンとあるのに参った。小説ばかりでなく、ノンフィクションや古典的作品にも手を出していて、それが強靭な背景を更に強化してる。

 ってな人のサイトを見ると、「こりゃとてもじゃないけど敵わん」と尻尾巻いて逃げたくなる、というか逃げられるのがネットのいい所←をい。こういう人たちになくて、私にあるものと言えば…頭の悪さ?いやほら、世の中、賢い人より頭悪い人の方が圧倒的に多いわけで、幸い私も頭悪いから、頭悪い人の気持ちはよくわかる。

 じゃ、頭悪い書評すりゃいいじゃん

 …と思ったけど、頭悪い書評って、既に世の中に満ち溢れているのであった←駄目じゃん

【提灯持ち】

 いや自覚してるのよ、自分の書評が提灯持ちだって。滅多に貶さないし。でも、それには、ちゃんと理由があって。

 なんたって素人だし。素人のいい所は、好きな本だけ読めばいい、って所。書評する本を選ぶ時点で、すでに半分は結論が出てる。そう、面白そうだから読む。興味がなかったり、つまらなそうだったら読まない。最初から、ある程度はフルイにかけた本だけを読んでる。

 おまけに、私は意地っ張りだ。自分で「面白そうだ」と判断したんだから、その判断が間違いだった、とは認めたくない。意地で面白い部分を探す。お話がアレなら登場人物の話をするし、それでも足りなきゃ気に入った場面を語る。SFだとガジェットや世界観だっていい。とにかく、気に入った所を探して、そこに焦点をあてて語る。つまらない所は無視。

 それに、「読めてない」んじゃないか、という恐怖もある。というか、実際に「私は読めてないよな」と感じるのだ。例えば「四色問題」。数学の問題を扱った本なんで、自分の数学力の限界をトコトン思い知った。また、円城塔の「Boy's Surface」も、正直言って読めてないと感じてる。

 理系の本以外で「読めてない」と感じたのが、「最後のユニコーン」。これは、ある程度ファンタジーの文脈に通じてないと面白さがわからない作品だと思うんだが、どうなんだろ。

 それと、アクセス数を稼ぎたい、という下心もある。

 このブログを見に来る人は、今のところ Google などの検索エンジン経由で来る人が大半。で、ですね。例えば「榊 ガンパレ」で来る人は、どんな人か。大半は、榊ガンパレが好きな人だろう、と見当がつく。そこで榊ガンパレの悪口を見たら機嫌悪くなるし、このブログにもいい印象は持たない。

 アクセスを稼ぎたければ、悪口は控えて、好きな所だけを書いた方が効果的じゃなかろか、というセコい計算もしてます。

 まあ、それ以前に、つまらない本のために書評で時間潰したくないしね。そんな暇があったら、他の面白そうな本を読む。読みたい本は山ほどあるのだ。

 今の私はアフィリエイトをしてないけど、してるサイトなら、やっぱり悪口は書きたくないだろう。などと考えると、ネットの書評ってのは、私に限らず好意的な方向にバイアスがかかってるのかも。

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コメント

Dainさん、ありがとうございます。
ご紹介いただいたサイトはいずれも記事の書き方が丁寧な上に、
目の付け所がそれぞれ全く違うのに驚きました。

投稿: ちくわぶ | 2016年1月10日 (日) 08時46分

「天下の」とか言われると、お尻がこそばゆいです。
もっとすごい本の目利きは、沢山いますよ。
ご存じかもしれませんが、個人運営だとこんなのあります。

■基本読書
http://huyukiitoichi.hatenadiary.jp/
質量ともに凄い! SFとノンフィクに強いです

■悪漢と密偵
https://twitter.com/BaddieBeagle
速度と感度が凄い! 天下一のキュレーターです

■物語三昧
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/
物語愛が凄い! 全身全霊で没入する姿のさらけだしっぷりがいい

■読書猿
http://readingmonkey.blog45.fc2.com/
教養が凄い! 読むだけで賢くなれます(or その方法が身につきます)

投稿: スゴ本の中の人 | 2016年1月 9日 (土) 20時59分

みずけろさん、ご愛読くださりありがとうございます。天下のスゴ本さんと並べられるとビビっちゃいますね。

投稿: ちくわぶ | 2015年10月22日 (木) 20時05分

私はスゴ本さんとちくわぶさん(と夜鳥さん=YA小説)を愛読してます!

投稿: みずけろ | 2015年10月21日 (水) 23時09分

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