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2015年10月20日 (火)

キース・ジェフリー「MI6秘録 イギリス秘密情報部1909-1949 上・下」筑摩書房 高山祥子訳 1

 本書は、イギリス秘密情報部(SIS)の歴史において画期的なものである。
 前長官ジョン・スカーレットの主導で、SISは設立100周年記念に先がけて、みずからの創設から40年間の歴史に関する、信頼に足る独自の歴史書の執筆を依頼することを決めた。
  ――序文

【どんな本?】

 007ジェームズ・ボンドなどで有名なイギリスの秘密情報機関MI6、またはSIS(Secret Intelligence Service)。この本は、そのSISが自ら1909年から1949年までの歴史を公開した、画期的な本である。

 著者のキース・ジェフリーはイギリスとアイルランドの近現代史を専門とする歴史家であり、クイーンズ大学ベルファウスト校の英国史教授を務める。国益上の観点から1949年以降の事柄は伏せられるが、それ以前に関してはジェフリー教授は公文書館の自由な利用が許可され、他省庁が管理する非公開の関連書類も参照できた。

 SISは何のために設立されたのか。どんな国で、どんな者が、どんな任務についたのか。第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけ、複雑に絡み合う各国の思惑や外交関係の中で、それぞれの国とどんな関係を築き、どう出し抜き、または出し抜かれたのか。そしてイギリス国内の陸海軍や外務省,MI5とは、どんな関係だったのか。

 秘密情報機関が自ら語る、その活動と奮闘の歴史。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は MI6 : The History of the Secret Intelligence Service 1909-1949, by Keith Jeffery, 2010。日本語版は2013年3月20日初版第一刷発行。単行本ソフトカバー上下巻で縦一段組み、本文約478頁+468頁=約946頁に加え、防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究員の小谷賢による解説6頁。9ポイント43字×20行×(478頁+468頁)=約813,560字、400字詰め原稿用紙で約2034枚。文庫本の長編小説なら四巻でもいいぐらいの大容量。

 文章は落ち着いた雰囲気で、いかにも歴史家の書いた文章だ。なにせスパイと外交が絡む本なので、ややこしい状況が多い上に、一つの文章に沢山の人物が出てくるため、注意してじっくり読む必要がある。

 扱うのは、だいたい第一次世界大戦~第二次世界大戦あたりだ。本書中でも大まかに時代背景を説明しているので、素人でもだいたい判るが、はやり20世紀前半の世界史に詳しい人ほど楽しめるだろう。

 なお、文中には予算なども出てくる。2015年10月現在のレートは1ポンド=約185円。

【構成は?】

 全般的に時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

  •  上巻
  • 序文/まえがき/SIS組織図(1923~24年)/略語リスト/地図
  • 第一部 秘密情報部の創設
    • 1 秘密活動局はいかに生まれたか
      「通風の巨人」とスパイ熱/初代長官カミングの不満/本物のスパイとの面会/ターゲットはドイツ/エージェントを動かす/戦争の接近
  • 第二部 第一次世界大戦
    • 2 組織をかためる
      三人の主人に仕えて/陸軍の横やり/陸軍省の挑発をかわす/拡大する本部の再編成/インテリジェンスの基本原則
    • 3 西部戦線を支える
      ベルギーとオランダでの成果/情報管理の混乱/「白衣の婦人」が見せた活躍/エージェント「TR/16」/スカンジナヴィアでの情報収集/スイス、イベリア半島への拡大/経済情報への需要に応える
    • 4 さらに遠くへ
      ロシアの協力者/情報使節団の役割/アメリカを味方につける/ツィンメルマン電報の傍受/作家サマセット・モームの活躍/トルコへの関心/地中海を押さえる/更に東へ潜入する/ロシアの敵
  • 第三部 両大戦期
    • 5 SISの誕生
      平時の独立した情報機関へ/合併計画との暗闘/秘密活動局の基本原則/予算削減に抵抗する/チャーチルの支援/カミングのSIS評価報告書/内部組織の充実/新長官シンクレアへ
    • 6 ソ連共産主義という、あらたな脅威
      ロシアにおける反ボルシェヴィキ活動/ソヴィエト艦船を撃沈/あるエース級スパイの最後/偽情報の蔓延/情報の信頼性/中央ヨーロッパの布陣/作戦担当官とエージェントの関係/さらなる情報網の開発/トルコの重要性/手薄な中東組織
    • 7 身近な重要問題
      政府暗号学校の創設/ジノヴィエフ書簡のまちがいはなぜ起きたか/秘密の通路のあるビルへ/ロンドン警視庁、MI5との協力と軋轢/狙われるSIS職員/組織間の不信の高まり/秘密を漏らす元エージェントたち/『ギリシャの思い出』出版差し止め裁判
    • 8 少ない財源で生き延びる
      アメリカでの活動/英米情報協力の模索/極東で遭遇した困難/ターゲットは日本だ/コミンテルンの協力者「ジョニー」/信頼と不正/支局を管理する
    • 9 近づく戦争
      ファシズムの台頭とスペイン内戦/フランス情報部との協力/ドイツに潜入する/ゲシュタポとの駆け引き/ミュンヘン危機/政治的判断への関与/Z組織の新設/通信傍受セクションの拡大/破壊工作セクション
  • 第四部 第二次世界大戦の衝撃
    • 10 沈まずにいる
      新長官選び/顧客の要望に応える/ハンキー報告書が下した評価/情報の調整と処理/チャーチルの赤い小箱/特殊作戦部を独立させる/通信セクションのめざましい働き/本部組織を改変する/エージェントを雇うには
  • 原註
  •  下巻
  • SIS組織図(1942年、1947年)/略語リスト/地図
  • 第四部 第二次世界大戦の衝撃(承前)
    • 11 ヨーロッパ戦域
      相次ぐ支局の撤退/情報か、特殊作戦か/中立国の苦悩/フェンロー事件/占領下ベルギーの情報網/フランスに潜入せよ/信心会とアリアンス/イギリスへの侵攻の脅威/女装は偽装か/MI9との連携
    • 12 ブダペストからアグダッドまで
      南東ヨーロッパ/トルコでのSIS/中東の支局/イタリアを探れ/北アフリカの攻防/シリア、イラク、イラン
    • 13 アメリカと極東
      FBIとSIS/「ワイルド・ビル」・ドノヴァン/英米情報関係の確立/BSCの情報活動/喜望峰航路の防衛/南米から日本を探る/南米での情報戦/極東でのSIS 1939-41年//
  • 第五部 戦争に勝つ
    • 14 流れの変化
      本部の更なる再編/スパイの訓練と道具/カウンターインテリジェンス/フランス領北アフリカ/イタリア戦線を支える/共産主義者を使う
    • 15 スイスからノルマンディー
      騙し合い/V兵器情報/新しい通信手段/美人スパイと二重スパイ/情報報告/SISとDデイ
    • 16 ヨーロッパでの勝利
      ベルギーとオランダの解放/ドイツへの進軍/スカンジナヴィア半島/イタリア解放/ユーゴスラヴィアの困惑/ソ連への対処/バルカン諸国への潜入/女性エージェント「聖職者」
    • 17 アジアと戦争の終結
      日本の猛攻撃/マラヤからの撤退/インドでの再編成/マウントバッテン指揮下のSIS/中国支局の役割
    • 18 戦後の計画
      組織間の綱引き/ブランド報告書/防諜と特殊作戦/ミンギスの苛立ち/報告書への反響
  • 第六部 武力戦から冷戦へ
    • 19 平和への調整
      ホワイトホール闘争/SOEの吸収/局の管理/MI5との関係/勧誘と職務条件/技術開発
    • 20 戦後ヨーロッパの勢力図
      補償と褒賞/ナチス残党か、共産主義か/コービー事件の困惑/ナチスの遺産/亡命のすすめ/東欧の厚い壁/フランスに対する懸念/国際人道組織の活用/冷戦の最前線スカンジナヴィア
    • 21 世界敵規模の職務
      パレスチナ問題の発端/移民船攻撃作戦/イスラエルの扱い/中国支局の混迷/日本支局の困難/ソヴィエト共産圏への侵入/クライマー作戦/アルバニア工作/SISとCIA
  • 第七部 結論
    • 22 三人のリーダーとSIS
      パイオニアゆえの苦しみ/秘密の男カミング/ヒュー・シンクレアの野望/有能すぎた男/ミンギスと金の卵を産むガチョウ/大四の男
  • 謝辞/解説 真実のMI6 小谷賢/原註/参考文献/索引

【感想は?】

 日本語の書名の「秘録」は正確じゃない。この本は、MI6が自ら明かす、正式なMI6の歴史だ。

 上巻は設立から第一次世界大戦、戦後の軍備縮小の困窮期、そして第二次世界大戦前のナチス・ドイツの拡張までを扱う。下巻は第二次時世界大戦から、戦後初期までだ。1949年で終わっているのは寂しいが、第二次世界大戦をフルに扱っているのは嬉しい。

 詳細な感想は、次の記事で。

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