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2015年10月21日 (水)

キース・ジェフリー「MI6秘録 イギリス秘密情報部1909-1949 上・下」筑摩書房 高山祥子訳 2

「海外におけるSIS組織の第一の原則は、現地の本部がおかれている国に隣接する国に関する情報を集めることである。というのは、一般に、代理人たちは保護してくれている国に怨まれるような可能性のある性質の情報を獲得しないよう警告されているからだ」
  ――6 ソ連共産主義という、あらたな脅威

キース・ジェフリー「MI6秘録 イギリス秘密情報部1909-1949 上・下」筑摩書房 高山祥子訳 1 から続く。まだ上巻しか読み終えていないので、ここでは上巻の感想を。上巻では、1909年の創設から第二次世界大戦前夜までを扱う。

【SISとは】

 007 のジェーイムズ・ボンドは派手に立ち回るけど、SIS(MI6) の本来の目的は情報を集める事で、直接の破壊活動は別の部署(SOE、特殊作戦執行部)の仕事だとか。ちなみに本書中にもイアン・フレミングが少し登場するけど、彼は海軍情報部であって、SIS ではないです、はい。

 それと、一版には MI6 の名で知られてるけど、本書中ではずっとSISで通してる。

 とまれ、物騒な仕事に変わりはなく。少なくとも設立時の主な仕事は「情報活動の対象である外国の地において、イギリスに対する敵対行為を時期よく警告する」こと。ちなみにライバルでもある MI5 の仕事は、イギリス国内での防諜活動。

 この辺が CIA/FBI と微妙に違うところ。CIAは国外での情報活動に加え、直接の工作もするから、SIS+SOEみたいな立場かな。FBIは国内での防諜に加え、州を越える犯罪も扱うんで、スパイより警察に近いかも。

【組織の位置づけ】

 設立時から、イギリス内でも SIS と競合する組織が幾つかある。全体を通して、競合組織との調整には苦労しているようで、何度もナワバリ争いのような話が出てくる。アメリカでもCIAとFBIの協調がとれずに911を許しちゃってるんで、こういった問題は常に起こるのかもしれない。

 SIS に関して言うと、最初は「誰がSISを仕切るか」で揉めてたり。ここに登場するのは、陸軍省と海軍省、そして外務省だ。最初のSIS長官を務めたサー・マンスフィールド・カミングは、あくまでも独立した部署だと考え、陸軍・海軍・外務省は「顧客」と見ていた模様。

 とはいえ、主な人材は陸海軍からスカウトしてるんだよなあ。この辺が、主に警察から人材を集めてる内閣情報調査室とは違う所。

 最初の長官カミングが海軍出身で、全般的に陸軍より海軍に近い印象がある。インドや南アフリカなどの植民地も含むとはいえ、基本的に大英帝国内での勤務が多い陸軍に比べ、海軍は多くの国と接触するんで、より広い視野を持つ人が多いのかも。

 陸軍・海軍・外務省の主導権争いに加え、似た組織との縄張り争いもよく出てくる。陸海軍の情報部は勿論、最初はMI5との争いが激しかった模様。これが後にはSOEと難しい関係になる。SISとSOE、いずれも海外での活動なんで人材の奪い合いになる上に、時として邪魔だったり。

派手な破壊工作は敵方の保安を強めることになり、秘密情報の獲得に必要な、もっと地味で控えめな活動を危険にさらすことになりかねない。

 SOEが敵の基地を壊したら、敵は「内部に手引きした者が居る」と考えて厳しく調べるだろう。そうなったら、別の仕事で潜入させてたSISのエージェントも捕まっちゃう。それは困るよ、って話。

【ボンドカー?】

 007 はボンドカーを始め、ケッタイなガジェットを使うけど、本書ではあんまし派手なモノは出てこない。一応、初代長官のカミングはメカ好きだったらしく、「最新技術を熱心に使った」。特に無線通信に熱心で、「フランスの情報関係の同業者と、自動車に備えつける『携帯式無線ステーション』の開発について話し合った」。

 当時は無線も揺籃期で、「外国に居る者がどうやってイギリスに情報を届けるか」に苦労していた模様。笑っちゃうのが隠顕インク(→Wikipedia)。みかん汁で書いて、あぶりだして読むとかの、アレです。なんと、1915年には「主だった探知方法に反応しない最高の見えないインクは精液だと聞いた」。はいいが、オチが酷いw 

【盗聴】

GC&CSは世界規模の暗号解読機関として、おそらく最大で、ほかのどれにもひけを取らないくらい優れており、1919年から35年においては、おそらく世界最高だった

 サイモン・シンの「暗号解読」では第二次世界大戦でのエニグマ解読に焦点を当ててるけど、その前からイギリスには実績があったのだ。それがGC&CS、政府暗号学校。主に実績を上げたのは外国政府の電報で、悔しいことに「日本の通信に関する成功が、1936年から37年の日独伊防共協定の背後に働いている思惑をイギリスが理解するのに役立った」。

 いやあ、こういう陰険な真似をやらせたらジョン・ブルは巧みだねえ←負け惜しみです

【認められたいスパイ】

 たいていのスパイは表に出るのを嫌うけど、そうでない場合もある。上巻に出てくるのは第一次世界大戦中、ドイツに占領されたベルギーで活躍した「白衣の婦人」。これはむしろレジスタンス組織で…

組織のリーダーたちは「スパイ」という言葉の使用を禁じ、彼らの情報収集者としての軍での役割を、「エージェント」や「軍人」と呼ぶのを好んだ。

 名前どおり、組織の多くは女性で、教師・店員・修道女、そして四人の娘がいる寡婦が家族ぐるみで協力してる。成果の多くは列車の監視で、線路沿いの家から通る列車を見守り、いつ・どこで・なにを・どれぐらい運んだかを調べ、報告している。これで、連合軍はドイツ軍の兵站状況がわかり、大規模な作戦を予め予想できたわけ。

 たぶん今でも陸上で大量の人と物を運ぶには鉄道が最も適していて、当時のドイツ軍も鉄道を最大限に活用してた。このあたりの事情はM.v.クレフェルトの「補給戦」やクリスティアン・ウォルマーの「鉄道と戦争の世界史」が詳しい。

 調べた情報は、連合軍に届けなきゃ意味がない。ところが、届けようにも、ドイツはソレナリの対策はしていて。「高圧電流フェンスを国境沿いに設置」してた。当時も高圧電流フェンスなんてあったんだなあ。当然、「白位の婦人」も出し抜く方法を考える。

経験豊富な密輸業者が関わって、ゴム手袋やブーツ、絶縁されたジャングルジムなど、このgフェンスを越えるためのさまざまな装置が開発された。

 密輸業者ってのがいいねw 業者はともかく、「白衣の婦人」たちは戦後に「戦争中の仕事を認められたいと望」む。そんなわけで、イギリス政府は「働いたエージェントの長い一覧を発表した」。

 エージェントと呼ぶとアレだが、当人たちにとってはレジスタンスがしっくりくる呼び方なんじゃないかなあ。こういった話は、占領地を統治する事の難しさをよく物語ってると思う。歓迎されていれば問題ないけど、住民が敵対的だと、国内にスパイをうじゃうじゃ抱え込む羽目になるわけだ。実際、アメリカはイラクで大失敗してるし。

【それぞれの国では】

 やはり得意な国と苦手な国があるようで、全般的に極東は苦手だった様子。イタリアも難しかったみたい。巧くいってるのはアメリカで、FBIと綿密な関係を築いてる。第一次・第二次を通じ世界大戦中はフランスとも仲がいい。スカンジナビア諸国も全般的に好意的。微妙なのがスイスで、「あまし派手に暴れるなよ」ぐらいの雰囲気。

 でも、やはりドイツは苦手らしい。特にヒトラーが厄介。彼の鶴の一声で事態が急変する国なので、次の動きが予測できず苦しんでいた様子。独裁者が君臨する国にも、それなりの有利な点があるんだなあ。いやそんな国には住みたくないけど。

【スパイに向く人】

 SISは現地でエージェントを雇ってる。どんな人が向くかについて、ちゃんと書いてあったり。曰く…

雇用は「その職業の性質上、敵に管理された地域に留まり、不当な疑いを招かずに通常の職業を続けられる人間」に限られた。たとえば「医師、歯科医、薬剤師、パン屋や小さな店の経営者」などで、どれも「職業上の必要から動き回るか、ほかの人の訪問を多く受ける必要のある」仕事ばかりだった。

 顔が広く、仕入れや出張でアチコチを旅行する商売の人が向くわけ。この巻にも、イスタンブールのカフェの主人の話が出てきたり。旅行がちな喫茶店のマスターは怪しい?←それはいいがかり まあ、なんにせよ、食い詰めたジャンキーとかが一攫千金を狙っても、あまし巧くいかない商売らしい。

 などと言いつつ、次の記事に続く。

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