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2015年8月28日 (金)

SFマガジン2015年10月号

 逍遥は文学において、文学そのものの価値ではない「利用価値」を否定した。つまり文学の価値は、政治や経済や娯楽に従属しないとして、「文学そのもの」が有する存在価値を主張したのである。
  ――長山靖生 SFのある文学誌 第四十二回 進化論の詩学3 奇異譚から小説への「進化」

 金曜の夕方とあって、迷子谷の山猫団は不定期の集まりを開いた。山猫団は世界でもっとも秘密の結社で、団員はふたりしかいない。
  ――R・A・ラファティ「苺ヶ丘」伊藤典夫訳

 今月も376頁。特集は「伊藤計劃特集」。まず対談が三つ。

  1. 仁木稔×長谷敏司×藤井太洋 司会&構成:編集部「2009年3月から一歩ずつ離れていくために
  2. 柴田勝家×伏見完×吉上亮 司会&構成:飯田一史 「『伊藤計劃の文法』を超えていくこと」
  3. 現役学生座談会 司会&構成:坂上秋成「心に刺さる、伊藤計劃の『問い』」

 他にコラム5本+「伊藤計劃読者に勧める『次の10冊』ガイド」。

 小説はマデリン・アシュビー「維新―イシン―」幹遥子訳,夢枕獏「小角の城」第34回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第5回,川端裕人「青い海の宇宙港」第5回,上遠野浩平「無能人間は涙を見せない」,早瀬耕「彼女の時間」,R・A・ラファティ「苺ヶ丘」伊藤典夫訳,タニス・リー「罪のごとく白く」市田泉訳。

 「伊藤計劃特集」の対談は世代別に切ったみたい。

 最初の仁木稔×長谷敏司×藤井太洋は最年長。SFファンから見たらフレッシュな顔ぶれだけど、実は全員が小川一水より年長だったりする。仁木稔と長谷敏司は「SF文壇の一員」って姿勢なのに対し、藤井太洋が独特で、この人らしい。オープンソースの影響を受けた職人というか。具体的な技術や手法に強くこだわり、貪欲に吸収しようとする職人気質と、身につけたノウハウをアッサリ公開しちゃう鷹揚さが同居してるんだよなあ。

 次の柴田勝家×伏見完×吉上亮は80年代後半~90年代初頭生まれの世代。柴田勝家の一人称が対談でもワシなんだけど、口調が「です・ます」調なのが笑ってしまう。「2010年と比べても、SFを読む学生は増えていて」ってのが嬉しいなあ。「SF冬の時代」なんて嘘みたいだ。

 そして現役学生の座談会では、SF関係の情報の仕入れ元が全員一致で「ツイッターです」に驚いた。そうだったのかあ。今までツイッターはほとんど読むだけだったけど、たまには何か書こうか…と思ったけど、ブログの更新情報ぐらいしか書く事がない。ところで来年になったら主なメディアは LINE になってるんだろうか?

 マデリン・アシュビー「維新―イシン―」幹遥子訳。舞台は近未来のアフガニスタン、ジャララバード。今は夜明けの祈り(アザーン)の時間。ブランドンはシンガーに起こされる。服を通じてわかるのだ。窓にはドローンのティンクが待っている。四枚翅の真っ黒いやつ。

 ドローンのインタフェースがUSBなあたりにリアリティを感じてしまう。電源も供給できるしね。実際に米軍やイスラエル軍も、虫型の小型ドローンを開発しているらしい。この小説の舞台はアフガニスタンだけど、あなたの近所に警察が監視用として大量投入したら、どう感じますか? 私はいいんじゃないかと思うんだけど。

 川端裕人「青い海の宇宙港」第5回。夏休みを満喫している天羽翔。今日は早起きして、夜明けと同時に林に出かけ、目的のタブノキを目指す。そこには…

 都会に住む男の子には、夢のような光景だよなあ、これ。しかも音までするとは。などのゴージャスな場面に続き、前回に苦労して造り上げたロケットの発射へと続いてゆく。しかしこの作品、なんでSFマガジン連載なんだろ? いや楽しく読んでるんだけど、小学生向けの雑誌にも連載して欲しい。やっぱり幼い頃から洗脳すれば←をい

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第5回。肝心の弁護士サムは殺されてしまった。イースターズ・オフィスの今後の方針を話し合うで会議では、意外な事実が判明する。<クインテット>へ探りを入れるため、ウフコックが潜入を試みるが…

 今回は謎の敵<クインテット>が勢ぞろいし、その能力を全開にして激しいバトルを繰り広げる回。物語はウフコックの視点で語られるが、私は完全に<クインテット>の立場で読んでしまった。連中の能力が明らかになる場面では「おい、こりゃ無敵だろ」と思ったが、その敵は更に凶悪で。

 上遠野浩平「無能人間は涙を見せない」。ウトセラ・ムビョウは製造人間だ。人間を合成人間に変える液体を生み出す。そのため、ムビョウは抗争の中心にいる。今、ムビョウのいる部屋には、一人の子供コノハ・ヒノオがいた。もう一つ、年齢不詳の女ミドリカの死体が…

 霧間誠一の作品の引用で始まる事で分かるように、ブギーポップ・シリーズと同じ世界の物語。ほとんどがウトセラの台詞で話が進んでゆく。この著者らしい、変に達観した言葉の数々は、案外と楽しんで書いてるんじゃないかなあ。

 早瀬耕「彼女の時間」。22年前。NASAへと旅立つぼくは、恋人の由美子から、最後のプレゼントとして餞別に機械式の時計を貰った。1965年、NASAがアポロ計画で採用して以来、船外活動時の時計はオメガのスピードマスターに決まっていたのだが…

 宇宙飛行士を目指してNASDAに入り、NASAの宇宙飛行士の候補にもなった直樹の一人称で、宇宙開発のマニアックな現場の事情を随所に散りばめながら、流れてきた時間・今流れている時間、そしてこれからの時間について語ってゆく。淡々と落ち着いた語り口が、翻訳作品のようなクールさを感じさせる。

 R・A・ラファティ「苺ヶ丘」伊藤典夫訳。ベリマン一家が町の外れの苺ヶ丘に住み着いて60年になる。住んでいるのは三人の兄弟。二人の兄は黒ひげのニアマイアズと白ひげのハバカック、そして妹のソフロニア。彼らは町の者から孤立し、嫌われ、奇妙な噂に包まれていた。

 ラファティにしては、あれ?と思うぐらいわかりやすいホラー・テイストの作品。発表は1976年だけど、舞台はもちっと古い感じかな? 町とはいっても、人口千人ほどだから、日本の感覚だと村になるかも。ラファティお得意の秘密結社が出てきた所で「おお、きたきた!」と思ったら。

 タニス・リー「罪のごとく白く」市田泉訳。日の沈む時刻。小人ヘラティは、庭園の凍てついた噴水の淵から、彼女を見かけた。宮殿の高みから、ヘラティには目もくれず、前だけを見て通り過ぎて行く王妃イノシン。

 原題は White as Sin, Now。White as Snow にひっかけたらしい。雪の白さ、透き通った氷の青さに、血やマントの鮮やかな赤が映える風景が印象に残る。

 長山靖生 SFのある文学誌 第四十二回 進化論の詩学3 奇異譚から小説への「進化」。今回は坪内逍遥の「小説神髄」を中心に、純文学=私小説みたいな構図が出来上がってゆく過程を解説する。たった8頁のコラムを読んだだけで小説神髄を読破した気分になれる、ある意味危険な回。

 小説そのものに価値を認めるのはいいけど、進化論は誤解してるのは困るなあ。それと、自らが観察した内面ってのを、信用しすぎてるとも思う。当たり前だけど当時はMRIとかなかったわけで、ヒトの内面を科学によって解明する、みたいな発想もなかったから、仕方がないんだろう。

 でも今はロバート・A・バートンの「確信する脳」やジョナサン・ハイトの「世界はなぜ左と右にわかれるのか」みたいな一般向けの本も出てるわけで、とすると純文学もその根底が揺らいでるんじゃないの、とか思ったり。

 七瀬由惟 NOVEL & SHORT STORY REVIEW 絵になるSF。最近、新作を見ないと思ったマイク・レズニック、雑誌<ギャラクシーズ・エッジ>の編集長をやってたのか。向うは作家が編集者になるケースが多いなあ。紹介してるダンツェル・チェリー「ダーシー先生の第一回宇宙バレエ教室」は、エイリアンの子供にバレエを教える話。触手のあるエイリアンにバレエってとこで、すでに可笑しいw

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