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2015年7月 1日 (水)

SFマガジン2015年8月号

「あなたは……」とわたしは黙っていることに耐えられず、口を開いた。「あなたは、だれなんです」
  ――神林長平「絞首台の黙示録」連載最終回

エンターテイメントとは、そういう人間の生理を利用して、受け手の感情をハックし、デザインすることです。
  ――飯田一史「エンタメSF・ファンタジイの構造
    伊藤計劃論――『アクションSF』というサブカテゴリの確立へ向けて」最終回

 隔月刊化第三号も376頁。今後はこれがレギュラー・サイズになるのかな? 特集は前回に続き「2000番到達記念特集 ハヤカワ文庫SF総解説PART3[1001~2000]」。目次がない…と思ったら、一番後ろにあった。

 小説は冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第4回,神林長平「絞首台の黙示録」最終回,藤崎慎吾「変身障害」,ケイトリン・R・キアナン「縫い針の道」鈴木潤訳,川端裕人「青い海の宇宙港」第4回,夢枕獏「小角の城」第33回。

 特集の「ハヤカワ文庫SF総解説」。最初のジョン・ケッセル「ミレニアム・ヘッドライン」から美味しそうな匂いがプンプン。オースン・スコット・カードの「第七の封印」、抹香くさいと言われるわりに終盤は触手プレイだったような。むしろ抹香くささ全開なのは「消えた少年たち」で、宗教そのものより宗教組織が持つ力を実感させられる作品だった。

 ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン「星海への跳躍」は、過小評価されてる豪快な宇宙SFだった。あの跳躍の場面は今でも印象に残ってる。やはり強く印象に残るのがマイク・レズニックの「キリンヤガ」収録の「空にふれた少女」は胸を締め付ける大傑作短編。手ごろな長さといいキレのいいストーリーといい、海外SFの入門用には最適の作品だと思う。

 という事で、次号からは「ハヤカワ文庫JA総解説」で←をい

 小説は冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第4回。クインテット以外のエンハンサーも登場し、ますます事件は混沌を増してゆく。今回も新しいエンハンサーが登場するが、それ以上にレイ・ヒューズがかっこいい。一匹狼で、二丁拳銃のスゴ腕ガンマン。エンハンサーだらけのこの物語の中、特殊技能もないのに最も危険な雰囲気を漂わせてる。ワイルドカードのヨーマンを思い出した。

 神林長平「絞首台の黙示録」最終回。最初から誰が誰だかよくわからなかったこの作品、果たしてケリはつくのかと思ったら、綺麗に決着した。禍々しい出だしからドッペルゲンガーの出現、マッドなサイエンスから宗教論へと向かい、ハラハラしながら読んでいたら、意外なぐらいスッキリした読後感だった。

 藤崎慎吾「変身障害」。《TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE》シリーズ第7弾。「米瀞メンタルクリニック」を訪れた男は、咳と呼吸困難に苦しんでいた。だが相談は違う。「この地球では『ウルトラセブン』と呼ばれています」「実は一月ほど前から、私は変身できなくなってしまったんです」

 今までのシリーズじゃこれが一番好きだ。出だしは妙に庶民的なクリニックの風景と、そこで展開するトンチンカンな会話。そして意外?で豪華なゲストの登場と、トボけた味わいの前半は笑いっぱなし。このままユーモア短編で終わるのかと思ったら…。映像化したら、きっとウケるだろうなあ、大人にも子供にも。

 イトリン・R・キアナン「縫い針の道」鈴木潤訳。月と火星を結ぶ星間輸送船<ブラックバード>は、軌道を外れつつあった。スカイキャップのニックス・セヴァーンは、異変の原因であるAIオマを修理するためメインのAIシャフトへと向かうが、その途中のコンテナ群は、狂ったような生命の氾濫に見舞われていた。

 虚空を漂っているはずの宇宙船の中が、熱帯雨林のように生命が旺盛にはびこっているのがちょっと斬新かも。元ネタが「赤ずきん」だし、舞台は宇宙でも、SFというよりファンタジイに近い感触の作品。

 川端裕人「青い海の宇宙港」第4回。大日向菜々は、大日向希実と橘ルノートル萌奈美を連れ、夜明け前の砂浜に来た。アカウミガメが産卵したのだ。中には波打ち際の危険な所に産卵する場合もあり、その時は卵を掘り出し孵化場に移すのだ。

 ロケットの仕組みを見て「ロケットのだいたいは、燃料と酸化剤!」と叫ぶ萌奈美に思いっきり拍手してしまう。私も子供向けの漫画でサターン・ロケットの仕組みをはじめて見た時、その容積の大半が液体酸素と液体水素なのに驚いた。固体ロケットのブースターも似たようなもんで、推進剤の大半は推進剤を持ち上げるために使ってる。

 改めて考えるとアホなシロモノなのだが、今でもそれしか手がないんだから仕方がない。なんとかならんのか、ってんで出てきたのが軌道エレベーターなんだけど、素材やら工法やら問題の解決はこれから。私が生きてるうちに、なんとかなってほしいなあ。

 長山靖生「SFのある文学誌 進化論の詩学2 加藤弘之の理論と実践」。今回のテーマは東京帝国大学総長や貴族院議員を務めた加藤弘之(→Wikipedia)。ダーウィンの進化論を支持したとあるが、これがありがちな誤解に基づくもので、適者生存ではなく強者生存の理屈。環境が変われば誰が適者かも変わる、という根本的な所が判っていない。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「インドの妖艶人舐め花は夜ひらく」。モンゴルのゲル(移動式住居、→Wikipedia)の床暖房が賢い。つか今Wikipediaを読んだら「モンゴルは携帯電話の普及率が一人1台を超えており」って、やっぱ移動生活する人には必需品なんだなあ。

 橋本輝幸「世界SF情報」2014年ネビュラ賞の長編部門でジェフ・ヴァンダミアの「全滅領域」が受賞してる。早速このブログも記事を直しました、はい。

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