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2015年7月 6日 (月)

火浦功「みのりちゃんの実験室 世界征服のすゝめ」朝日ノベルズ

「マッドサイエンティストになるための、三大関門ってのがあってね――タイムマシンでしょ? 不老不死でしょ? それから、永久機関」
  ――第十二話 あなたも私も不老不死

【どんな本?】

 異様に寡作で遅筆、締め切りは決して守らずシリーズ物はまず完結しない。いつ仕事をしているのか、どうやって生活しているか全く分からず、非実在作家ではないかとの噂もある謎の作家・火浦功による、珍しく完結した連作短編ユーモアSF小説シリーズ。

 仮免中のマッドサイエンティスト豪田みのり18歳が引き起こす数々の事件と、その真実を暴こうと奮闘する気鋭のジャーナリスト山下&サトルの奮闘を描く熱血巨編…の筈がない。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 元は1984年ハヤカワ文庫JAから出た文庫本「日曜日には宇宙人とお茶を」と、1987年ハヤカワ文庫JAの「大冒険はおべんと持って」。これに加筆訂正し、書き下ろし短編6頁を加えたもの。新書版縦二段組で約400頁に加えあとがき2頁。8.5ポイント23字×17行×2段×400頁=約312,800字、400字詰め原稿用紙で約782枚。文庫本2冊の合本としては短め。

 文書はこなれている。SFとはいえユーモア作品集なので、難しい理屈も出てこない。ただしギャグのセンスは昭和のものなので、クレージーキャッツを知らない人には通じないかも。

【収録作は?】

第一話 マッドサイエンティストです
第二話 タイムトンネルを掘る
第三話 とっても素敵な電送人間
第四話 いつかアルキメデスが……
第五話 ちょっと混線
第六話 日曜日には宇宙人とお茶を
第七話 ブラックホールだぜい!
番外編 犠牲者は誰だ!?
第八話 大冒険はおべんと持って
第九話 正義と真実の使徒
第十話 地上最大の決戦 Part1 The Mighty MASAKO Strikes Back
第十一話 地上最大の決戦 Part2 The Mighty MASAKO Strikes Back
第十二話 あなたも私も不老不死
第十三話 なんてったって仏滅
みのりちゃん・リターンズ 世界征服のすゝめ
あとがき

【どんな話?】

 TOKIOニュータウンメガロポリスの衛星都市・猫ヶ丘。タウン誌「月刊猫ヶ丘ジャーナル」の記者の山下と、その助手兼カメラマンのサトルは、特集「わが町のマッドサイエンティストたち」の取材のため、豪田篤胤科学研究所を訪れた。だが現れたのは年の頃17~8の可愛い少女。なんと彼女・豪田みのりは、マッドサイエンティストだったのだ…仮免許だが。

【感想は?】

 マッドサイエンティスト物のユーモアSF短編集だ…で、実は話が終わってしまう。困った。

 ユーモア小説というより、実態はギャグが近い。小難しい理屈はまず出てこないし、出てきてもッハッタリだから気にしちゃいけない。つまりは笑えるか笑えないか、それだけだ。

 全般的にセンスは昭和の雰囲気で、オジサン・オバサン向け。一応ハヤカワ文庫から出ていたためか、古いSF映画のネタも多い。「第三話 とっても素敵な電送人間」も、タイトルからのご想像通り、有名な映画のネタが幾つも出てくる。そろそろ、またリメイクされるんじゃないかな、あれ。

 冒頭からウザい奴としてツケを回される役のサトル君だが、「第四話 いつかアルキメデスが……」では意外な活躍を見せて、少し見直した。いい奴じゃん。バカだけどw つか、んなご大層なシロモン使って、真っ先にやるのがソレかいw 正直でよろしい。

 やはりサトルが大活躍するのが「第六話 日曜日には宇宙人とお茶を」。いいねえ、バカは地球を救う。しかし、なんだってこんな暑苦しい場面を挿絵にするんだw どうせなら、ヒロインをドーンと前面に押し出すべき。いやいいけどね、面白いから。

 そして強烈に昭和臭が炸裂するのが、「第八話 大冒険はおべんと持って」。朝日ノベルズも何を考えて、こんなネタを本にしたのかw 見た目は若者向けのライトノベルなのに、これじゃ若者は完全に置き去りじゃないかw 私は笑いが止まらなかったけど。

 続く「第九話 正義と真実の使徒」より、ついに登場する本書のメイン・ヒロイン、祝雅子さんことマイティ・マサコ。市営アパートに住み、商事会社に務める、生真面目で優秀なオフィス・レディ。給料の半分は故郷の両親に仕送りし、生活の足しにと朝には新聞配達までする、しっかりした女性。しかし、彼女には叶えたい夢があったのです。

 いやあ、たまりませんねえ、美人でナイスバディの眼鏡っ娘お姉様。しかも親孝行で生真面目な努力家。現代なら「ぜひウチの嫁に」と縁談が殺到する事まちがいなし。いっそのこと、彼女をメイン・ヒロインにしてシリーズを…ってのは、この著者に対しちゃ禁句かな。

 ユーモアSFというより、昭和末期のセンスのドタバタ・ギャグ短編集。仕事が巧くゆかず悩んでいる人は、トラブルが頭から離れず眠れない夜に読むと、頭がカラッポになって安眠できるだろう。

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