火浦功「みのりちゃんの実験室 世界征服のすゝめ」朝日ノベルズ
「マッドサイエンティストになるための、三大関門ってのがあってね――タイムマシンでしょ? 不老不死でしょ? それから、永久機関」
――第十二話 あなたも私も不老不死
【どんな本?】
異様に寡作で遅筆、締め切りは決して守らずシリーズ物はまず完結しない。いつ仕事をしているのか、どうやって生活しているか全く分からず、非実在作家ではないかとの噂もある謎の作家・火浦功による、珍しく完結した連作短編ユーモアSF小説シリーズ。
仮免中のマッドサイエンティスト豪田みのり18歳が引き起こす数々の事件と、その真実を暴こうと奮闘する気鋭のジャーナリスト山下&サトルの奮闘を描く熱血巨編…の筈がない。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
元は1984年ハヤカワ文庫JAから出た文庫本「日曜日には宇宙人とお茶を」と、1987年ハヤカワ文庫JAの「大冒険はおべんと持って」。これに加筆訂正し、書き下ろし短編6頁を加えたもの。新書版縦二段組で約400頁に加えあとがき2頁。8.5ポイント23字×17行×2段×400頁=約312,800字、400字詰め原稿用紙で約782枚。文庫本2冊の合本としては短め。
文書はこなれている。SFとはいえユーモア作品集なので、難しい理屈も出てこない。ただしギャグのセンスは昭和のものなので、クレージーキャッツを知らない人には通じないかも。
【収録作は?】
第一話 マッドサイエンティストです 第二話 タイムトンネルを掘る 第三話 とっても素敵な電送人間 第四話 いつかアルキメデスが…… 第五話 ちょっと混線 第六話 日曜日には宇宙人とお茶を 第七話 ブラックホールだぜい! 番外編 犠牲者は誰だ!? |
第八話 大冒険はおべんと持って 第九話 正義と真実の使徒 第十話 地上最大の決戦 Part1 The Mighty MASAKO Strikes Back 第十一話 地上最大の決戦 Part2 The Mighty MASAKO Strikes Back 第十二話 あなたも私も不老不死 第十三話 なんてったって仏滅 みのりちゃん・リターンズ 世界征服のすゝめ あとがき |
【どんな話?】
TOKIOニュータウンメガロポリスの衛星都市・猫ヶ丘。タウン誌「月刊猫ヶ丘ジャーナル」の記者の山下と、その助手兼カメラマンのサトルは、特集「わが町のマッドサイエンティストたち」の取材のため、豪田篤胤科学研究所を訪れた。だが現れたのは年の頃17~8の可愛い少女。なんと彼女・豪田みのりは、マッドサイエンティストだったのだ…仮免許だが。
【感想は?】
マッドサイエンティスト物のユーモアSF短編集だ…で、実は話が終わってしまう。困った。
ユーモア小説というより、実態はギャグが近い。小難しい理屈はまず出てこないし、出てきてもッハッタリだから気にしちゃいけない。つまりは笑えるか笑えないか、それだけだ。
全般的にセンスは昭和の雰囲気で、オジサン・オバサン向け。一応ハヤカワ文庫から出ていたためか、古いSF映画のネタも多い。「第三話 とっても素敵な電送人間」も、タイトルからのご想像通り、有名な映画のネタが幾つも出てくる。そろそろ、またリメイクされるんじゃないかな、あれ。
冒頭からウザい奴としてツケを回される役のサトル君だが、「第四話 いつかアルキメデスが……」では意外な活躍を見せて、少し見直した。いい奴じゃん。バカだけどw つか、んなご大層なシロモン使って、真っ先にやるのがソレかいw 正直でよろしい。
やはりサトルが大活躍するのが「第六話 日曜日には宇宙人とお茶を」。いいねえ、バカは地球を救う。しかし、なんだってこんな暑苦しい場面を挿絵にするんだw どうせなら、ヒロインをドーンと前面に押し出すべき。いやいいけどね、面白いから。
そして強烈に昭和臭が炸裂するのが、「第八話 大冒険はおべんと持って」。朝日ノベルズも何を考えて、こんなネタを本にしたのかw 見た目は若者向けのライトノベルなのに、これじゃ若者は完全に置き去りじゃないかw 私は笑いが止まらなかったけど。
続く「第九話 正義と真実の使徒」より、ついに登場する本書のメイン・ヒロイン、祝雅子さんことマイティ・マサコ。市営アパートに住み、商事会社に務める、生真面目で優秀なオフィス・レディ。給料の半分は故郷の両親に仕送りし、生活の足しにと朝には新聞配達までする、しっかりした女性。しかし、彼女には叶えたい夢があったのです。
いやあ、たまりませんねえ、美人でナイスバディの眼鏡っ娘お姉様。しかも親孝行で生真面目な努力家。現代なら「ぜひウチの嫁に」と縁談が殺到する事まちがいなし。いっそのこと、彼女をメイン・ヒロインにしてシリーズを…ってのは、この著者に対しちゃ禁句かな。
ユーモアSFというより、昭和末期のセンスのドタバタ・ギャグ短編集。仕事が巧くゆかず悩んでいる人は、トラブルが頭から離れず眠れない夜に読むと、頭がカラッポになって安眠できるだろう。
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