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2015年6月22日 (月)

小暮裕明/小暮芳江「アンテナの仕組み なぜ地デジは魚の骨形でBSは皿型なのか」講談社ブルーバックス

 アンテナの解説書は「やさしい」と謳う本でも、アマチュア無線の愛好家など、ある程度まで電磁気学を学んだ人を対象に書かれています。これでは一版の人には理解しにくいでしょう。そこで一般の方にもアンテナの不思議を知っていただきたいと願って書いたのが本書です。
  ――はじめに

 エレメントをハンダづけする同軸ケーブルは、インピーダンス(120ページ参照)が50オーム(Ω)の5D-2Vという製品を使います。やや細い3D-2V(やはり50オーム)でも同じように使えます。
  ――3-2 ダイポール・アンテナを作ってみよう

【どんな本?】

 テレビのアンテナは魚の骨みたいな形だし、パラポラ・アンテナは斜め上を向いている。携帯電話やスマートフォンにはアンテナが見えないが、ちゃんと電波を送受信できる。

 世の中にはどんなアンテナがあるのか。なぜ、そんな形なのか。昔の軍用レーダーはクルクル回っていたが、今のレーダーはなぜ回らないのか。電波はいつ・誰が発見し、どう使われてきたのか。ラジオの向きを変えると受信状況が変わるのはなぜか。

 現在使われている様々なアンテナと、その原理と仕組みを紹介し、またアンテナの歴史を綴る、アンテナの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年6月20日第1刷発行。新書版縦一段組みで本文約185頁。9.5ポイント43字×16行×185頁=約127,280字、400字詰め原稿用紙で約319枚だが、写真やイラストを豊富に収録しているので、実際の文字数は6~8割程度。文庫本の長編小説なら、なかり短めの分量。

 文章は比較的にこなれている。ただし、内要は私にはかなり厳しかった。「はじめに」では一般向けのように書いてあるが、残念ながら違う。自分でラジオを作れる程度には電気について知っている人向けだろう。少なくとも「アース」や「コンデンサ」が何をするか、なぜ必要なのか、インピーダンスとは何かを説明できる人向けの内容だ。

【構成は?】

 第1章・第2章は比較的にわかりやすいが、第3章でいきなり難しくなる。ついていけなかったら飛ばして第4章に進もう。

  • はじめに
  • 第1章 身近なアンテナ
    • 1-1 目にするアンテナ
      アンテナは昆虫の触覚/テレビの受信アンテナ/パラポラ・アンテナの微妙なカーブ/「はやぶさ」の快挙を支えたパラポラ・アンテナ/テレビの送信アンテナ/ケータイ基地局アンテナ/コードレス電話のアンテナ/アンテナは伸ばして立てる/ホットスポットのアンテナ/無線ルーターのアンテナ/コイル状のアンテナ/自動車の窓ガラスにあるアンテナ/車内に置くアンテナ/パッチ・アンテナ
    • 1-2 見えないアンテナ
      ケータイやスマホの内蔵アンテナ/ケータイのGPSアンテナ/電波時計の超小型アンテナ/時刻を伝える長大アンテナ/無線式ICカード/ICカードの超薄型アンテナ/商品管理に活躍するアンテナ/アンテナで万引き防止
  • 第2章 電波とは何か
    • 2-1 見えない電波は、どの様に発見されたのか
      静電気と磁気の発見/電気研究のはじまり/コンデンサの発明と動電気の登場/磁場と電場/電気が磁気を作る/磁気は電気を作る/電磁誘導の様子/電磁波を予言したマクスウェル/マクスウェルの実験器具/ヘルツ・ダイポール/電波の発見/波長の測定/電波の広がり/アンテナ周辺の電界/アンテナ周辺の磁界/光も電波も電磁波仲間
    • 2-2 「波」としての電波の性質
      電波と音波/縦波と横波/偏波の発見/波の移動とは/電子の流れ/電波は稲妻か波紋か?/アンテナ周辺の磁界と電界/波の伝わりかた/回り込む電波/電波はどこまで届くのか?/リンゴ型に広がる電波/地球の裏側まで届く電波
    • 2-3 電波による放送・通信の仕組み
      地デジの電波はデジタル?/放送電波の仕組み/電波は混ざらないのか?/周波数の割り当て/アンテナが増えると受信しにくくなる?
  • 第3章 手作りアンテナで探るアンテナの原理
    • 3-1 ヘルツ・ダイポールを作る
      ヘルツの実験/ヘルツの火花放電を再現する/ヘルツの受波装置を再現する
    • 3-2 ダイポール・アンテナを作ってみよう
      ダイポール・アンテナの設計/「バラン」を作る/ダイポール・アンテナのインピーダンス/手作りアンテナのリアクタンス/手作りアンテナの定在波比/アンテナの整合/アンテナが電波をつかまえる様子
    • 3-3 針金アンテナのルーツ
      針金アンテナへの道/ツェッペリン・アンテナ/日本人の世界的発明/日本人が知らない!?
  • 第4章 アンテナの構造と働き
    • 4-1 共振型アンテナと非共振型アンテナ
      アンテナの分類/ダイポール・アンテナ/共振の原理/出力増強の工夫/YAGIアンテナの仕組み/モノポール・アンテナ
    • 4-2 開口型アンテナ
      ホーン・アンテナ/テーパード・スロット・アンテナ/TSAの電波特性/超広帯域(ウルトラ・ワイドバンド)
    • 4-3 大地に根づく接地型アンテナ
      地球の大胆な利用法/大西洋横断無線通信アンテナ
    • 4-4 電界型アンテナと磁界型アンテナ
      磁界・電界を検出しやすい/ループ・アンテナ/方向探知機の仕組み
    • 4-5 レーダー・アンテナ
      こだまの原理/レーダーの電波/やっかいなサイドロープ/船舶用レーダーのアンテナ/航空管制レーダー/フェーズド・アレイ・レーダー/最新の気象レーダー/ミリ波レーダーで追突防止
  • 出典/参考文献/さくいん

【感想は?】

 ちょっと読者層を絞りきれていない感がある。どんな読者を想定したんだろう?

 素人向けとしては、第3章でいきなり難しくなっている。第2章までは、電気の素人にもついていける内容で、充分に親しみやすい。読んでいて、「こんなゆったりしたペースで大丈夫なんだろうか?」と不安になった。

 第1章は、世の中にある様々なアンテナを紹介している。テレビのアンテナやBS・CSのパラポラ・アンテナはよく見かけるし、コードレス電話のアンテナも身近だ。自動車のリア・ガラスのアンテナも気づいている人は多いだろう。携帯電話やスマートフォンのアンテナが見えなくなっているのは、言われて見れば確かに。

 また、SUICAなどICカードも気づかなかった。劣った性能を逆手に取った発想は、技術者として見事。

 など、第1章は主に身近なアンテナを紹介しつつ、その原理を大雑把に解説している部分で、親しみやすい上に読者に興味を抱かせる、導入部としては見事な構成だ。

 第2章は羅針盤から電力・磁力の発見へと向かいつつ、電磁波の基本的な性質を解説する理論編。歴史を辿りながら原理を説明してゆく、一般向け理系の解説書の王道のパターンに沿って、目に見えない電波を説明してゆく。ハインリヒ・ヘルツ(→Wikipedia)への敬愛がにじみ出るのはご愛嬌。

 これは愛嬌では住まないのが、問題の第3章。ここで一気に内容が難しくなり、電気の知識がない読者は置いてけぼりを食らう。この記事の冒頭の2番目の引用が、問題の第3章だ。この引用でピンとくる人は、第1章と第2章を退屈に感じるんじゃないだろうか。

 とまれ、ツェッペリン・アンテナのデザインの経緯や、有名なYAGIアンテナ発明のきっかけは楽しかった。こういう、「理屈を形にする」プロセスってのは、工夫と偶然が交じり合っていて、工学の醍醐味があるなあ。

 第4章は、再び応用編。第1部が身近なアンテナを紹介したのに対し、こちらでは空港の管制用レーダー・アンテナや軍用のフェーズド・アレイ・レーダーなど大掛かりなものもあり、ニワカ軍オタとしてはフェーズド・アレイ・レーダーをもう少し詳しく解説して欲しかった。

 アンテナにテーマを絞ったとはいえ、その根本には電磁気学がある。電流・電圧・抵抗などの電気の基本から、波の性質など物理学も必要だ。いちいち説明していたら物理学と電磁気学の教科書になってしまうし、それじゃ新書にならない。だから思い切ってはしょる必要があるけど、何を説明し何を省くかの判断が難しい。

 そういう面では、著者の興味が強く出ていて、かなりアクの強い本になっている。正直、素人向けとは言えない。第3章の目次を見て、「おおっ!」と思う人向けの本だろう。

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