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2015年5月 7日 (木)

小野寺整「テキスト9」ハヤカワSFシリーズJコレクション

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「我々は侵略を受けている」

【どんな本?】

 新人SF作家・小野寺整による、2013年の第1回ハヤカワSFコンテストで最終候補作となった作品を、加筆・修正した長編SF小説。

 他の恒星系にまで人類が進出した遠未来。強大な権限を持つと噂される謎の機関「ムスビメ」から届いた意味不明な招待状により、地球に招かれた仮定物理学者カレンが辿る、宇宙の破滅を救うための探求の旅を、大量のSFガジェットと哲学的な問いを交えて描くユーモラスなワイドスクリーン・バロック風のメタフィクション…という話のフリをした、何か全く別の物語。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2015年版」のベストSF2014国内篇でも、12位にランクインした。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年1月25日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約437頁。9ポイント45字×19行×437頁=約373,635字、400字詰め原稿用紙で約935頁。文庫本なら上下巻に分けるかどうか悩む長さ。

 新人のわりに文章はこなれている。内容的な難しさは…うーん、何と言っていいんだろう。主な舞台は遠未来だし、SF的な仕掛けも大量に出てくる。が、その仕掛けにどんな意味があるのか、というと、意味があるような、ないような。むしろ全体の構成の方が重要な気もするし、そうでない気もするし。

 人によっては、作者に遊ばれているような気になるかもしれない。それを不愉快に感じない人向け。

【どんな話?】

 仮定物理学者の恩師、サローベンに呼び出され、教授室を久しぶりに訪ねたカレン。その用件は、存在すら疑問視される謎の巨大権力機関ムスビメからの招待状だった。いや、実は招待状ではないかもしれない。意味不明な文章が並んでいるのだが、サローベンがなんとか解読したのだ。その内容は、「ぷふい! 宇宙を救ってくれ」らしい。

【感想は?】

 煮え切らなくて申しわけない。でも本当にわからないのだ。

 冒頭から、「この物語は見かけどおりじゃないですよ」と宣言している。「物語をランダムに自動生成してくれる装置」が紡ぎ出した物語を、日本語に翻訳したもの、という体裁をとっている。

 翻訳にも様々な流儀がある。なるべく原文の意味を損なわないように忠実に訳す場合もあれば、「ベッド」を「布団」に置き換えるように、読みやすさ・分かりやすさを優先する場合もある。技術書や専門書では忠実な訳が好まれるが、テンポよくストーリーが転がっていく物語では、分かりやすさ優先どころか「超訳」なんてスタイルもある。

 それぞれの単語が1:1で対応していればともかく、大抵の言語はそうじゃない。極端な例では、日本語の「メシうま」や「リア充」はどう英訳するのか。意味的に該当する単語はあるだろうが、これらの言葉が持つ軽薄で頭悪そうな雰囲気までは伝わりそうにない。

 同じ日本語を使う者同士でも、巧く伝わらない場合はある。「ヤマハ」と聞いて、オーディオ・マニアとバイク好きが抱く印象は全く違うだろう。SF者にとって「国書刊行会」はマニアックな翻訳本を出す出版社だが、お坊さんにとっては違うらしい。「コンピュータ」や「インターネット」も、好ましく感じる人もいれば、そうでない人もいる。

 とか考えると、この本で語られる物語は、果たしてどこまで信用していいのやら。

 なんて小難しく考えながら読み始めたが、物語の主人公カレンの辿る探求の旅は、冒険SF物語として普通に面白かったりする。

 なにせ出てくるガジェットが豊富で、しかも気が利いてる。

 時おり入る「補足」で展開するガジェットは、それだけで短編が書けそうな楽しいアイデアばかり。最初に出てくる「エンパシニック」から、なかなか深い考察が展開する。これは気分を変えるクスリだ。なんか麻薬みたいだが、もっとキメ細かい制御ができて…。本当にあったら、私はきっとドップリ依存するだろうなあ。

 また年寄りのSF者を喜ばせるクスグリもアチコチに埋め込んであって。「ステープルドン級」は、当然アレだろうなあ。カレンの相方となるリンジーも、右腕がアレってw かと思うと、ファインベン博士の依存症?も、なかなか楽しい。うん、こりゃ拍手するしかないよなあ。

 そして彼ら探索隊が向かう惑星タヴ、これがまたケッタイなシロモで。物語(の語り)は更に信用できないものへと変貌してゆく。

 というと難しいメタフィクションみたいだし、実際にそういう面も強いのだが、時おり唐突に入るお下劣ギャグが、読み手の真面目な考察をズタズタにしてしまう。なんだよ*って。いや私は好きですがw 結局、読者に考えさせたいのか考えさせたくないのか。

 語られる物語は、一見わかりやすい冒険物語に見える。だが大枠には、「装置が紡ぎ出した物語を翻訳したもの」という仕掛けがあり、随所に挟まれた無意味そうな数字の羅列や読者への呼びかけで、読み手の思考はメタな構造へと引き戻される。

 会話の中で交わされる「言語」や「概念」の再帰的な構造や、視点のレイヤーによる解釈の違いなど、次々と繰り出される難問に頭を抱えつつ、次第に宇宙の構造が見えてくる…ような、見えてこないような。

 最後まで煮え切らない感想ではあるけれど、確かにこの作品はSFだ。SF以外に、こんな作品を受け入れるジャンルはない。頭をシェイクされ、「よくわからないけど、なにかとんでもないものを読んでしまった」、そんな気持ちを味わいたい人向け。

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