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2015年5月28日 (木)

森青花「さよなら」角川書店

 生きるだけ生きて、死ぬときに死ねばいいのに。

【どんな本?】

 1999年に「BH85」で第11回新潮社ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した森青花による、書き下ろしSF/ファンタジー小説。アパートの一室で孤独死した、95歳の佐藤嘉兵衛。特に不満も怨みもないはずなのに、なぜか成仏しきれず現世を漂う彼が巻き起こす悲喜劇を、ユーモラスでおっとりした筆致で描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2003年9月1日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約217頁。9ポイント40字×16行×217頁=約138,880字、400字詰め原稿用紙で約348枚。長めの中編か短めの長編、といった分量。

 文章はこなれている。内容も特に難しい仕掛けは出てこない。分量も少ないし、軽く読み終えられるだろう。

【どんな話?】

 妻に先立たれた95歳の佐藤嘉兵衛は、息子と折り合いが悪い。その息子も自分の息子と仲が悪い。その孫夫婦から、小学校入学を目前に控え紹介された曾孫のさおりは、「ひいじい」と呼んで嘉兵衛になついてくれる。嘉兵衛もさおりが可愛くてしょうがない。

 だが、ある日、買い物に出かけた帰りに…

【感想は?】

 一種の幽霊譚だ。普通ならホラーになるはずなのだが、不思議とユーモラスで温かみのあるお話。

 にもかかわらず、妙にユーモラスでほんわかした雰囲気が漂っていて、読み終えた時、少しだけ気持ちが軽くなる。何より、幽霊自身の視点で語られるという時点で、ホラーの定石を完全に踏み外している。

 孤独死した老人の幽霊譚だ。しかも、老朽化した木造アパートの一室で。傍から見れば、悲惨な死に方でもある。のだが、肝心の嘉兵衛が特に嘆くでもなく怨むでもなく、淡々と自らの死を受け入れているのが、この作品の特徴。それまでの嘉兵衛の生活も、大きな不満を持つでもなく碁会所に通い、淡々と生活しているせいかもしれない。

 周囲の者からすれば迷惑かもしれないが、こんな死に方も悪くないなあ、などと思ってしまう。

 いわば幽霊になった嘉兵衛なのだが、そもそも現世に執着しているわけではない。確かに息子とは折り合いが悪いが、化けて出るほど憎いんでいるわけでもない。なんで幽霊になったのか、自分でもわからない。彼が自分の死体を見下ろす場面も、関西弁のせいか妙にユーモラスだ。

 そんなわけで、好き勝手にフラフラと漂う嘉兵衛は、アチコチで様々な事件と出会い、または事件を巻き起こす。

 この事件というのがまた、傍から見たら悲劇としか思えないシロモノなのだが、森青花の手にかかると「しょうがないか」と思えてきたり。だいたい本人の嘉兵衛からして、なぜ成仏できないのかもわかっていない。にも関わらず、「仕方ないか」で済ましてたり。暢気な幽霊だw

 この野次馬視点で見た事件の悲惨さと、意外とあっけらかんと事件を受け入れている当人の落差が、この作品の面白さなんだろうなあ。日頃から新聞をにぎわす事件の実態も、案外と似たようなものなのかも。

 人の死は重大な問題だ。だが、それは生きている人間にとっての話で、亡くなった人にとってどうなのかは、誰にもわからない。それをどう考えるかは人それぞれで、折に触れて思い出す事が大事なのかもしれないし、すっぱり忘れて前を向いて生きるのがいいのかもしれない。

 などと深刻に考え込んでもいいが、むしろ「わはは、変な作品だ」と軽く楽しむのが妥当な気もする。いずれにせよ、この著者のセンスは独特で、感覚が合うかどうかが評価の分かれ目だろう。深刻になりがちなテーマを、独特のタッチで飄々と描いた、少しだけ気持ちが軽くなる、現代のファンタジー。

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