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2015年4月30日 (木)

SFマガジン2015年6月号

「おれたちの飛行船は、ハイウェイを必要としないトラックであり、川を必要としない船であり、空港を必要としない航空機だ」
  ――ケン・リュウ 『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」
     (<パシフィック・マンスリー>誌2009年五月号掲載) 古沢嘉通訳

 隔月間化第二号も大増量376頁。特集は前回に続き「2000番到達記念特集 ハヤカワ文庫SF総解説PART2[501~1000]」。小説は酉島伝法「痕の祀り」,夢枕獏「小角の城」第32回,神林長平「絞首台の黙示録」第9回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第3回,川端裕人「青い海の宇宙港」第3回,円城塔「エピローグ<エピローグ>」,松永天馬「神待ち」,ケン・リュウ 『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(<パシフィック・マンスリー>誌2009年五月号掲載) 古沢嘉通訳。

 ハヤカワ文庫SF総解説PART2[501~1000]。気のせいか、この頃の作品は原作じゃ続きが出てるのに翻訳は出てないのが多い。ハーラン・エリスン編「危険なヴィジョン」の2と3,ロバート・L・フォワードの「ロシュワールド」,スパイダー・ロビンスン&ジーン・ロビンスンの「スターダンス」。いずれも売り上げは問題ないと思うんだけどなあ。

 ジェイムズ・P・ホーガン「断絶への航海」の社会を、坂村健が「尊敬本位主義」と言い表してるのは見事。今のブログやSNSも、煮たような理屈で動いてるし。池澤春菜押しのグラント・キャリン「サターン・デッドヒート」は、オールタイム・ベスト旧の大傑作だったなあ。ジョージ・アレック・エフィンジャーの短編集なんて出てるのか。ってことは、「まったく、なんでも知ってるエイリアン」も…。コニー・ウイリス「わが愛しき娘たちよ」、この表題作は確かに衝撃的だった。当時は大騒ぎを巻き起こしたはず。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第3回。二人の警官と共にパトカーに入ったブルーは、二人と交渉を始める。彼の能力が生み出す「カクテル」を使って。法務局が登録を認めた、09法案に従事する強化された存在としての能力だ。追いつめられたメレディス巡査部長は…

 今回は新しいエンハンサー(強化された存在)が続々と登場し物語が走り始める、序盤のお披露目回かな。ブルーの能力は、前回の仄めかしどおりの怖いシロモノ。続いて小男でキザな中年ダーウィン・ミラートーブ通称ミラー、コワモテの大男ウォーレン・レザードレイク通称レザー、大人しげなスティール。お話は更に物騒な方向へと向かい…

 松永天馬「神待ち」。カントクが頼んだラーメンには、変なものが入っていた。指だ。だが生体サイボーグ製のウェイトレスは慌てず答える。「近頃、女ノ子ノ間デ流行ッテルンデスヨ」

 タイトルの「神待ち」やリベンジポルノ、SNSや生中継など、リアルタイムの現在を感じさせるキーワードを散りばめつつ、相変わらずこの人らしいエキセントリックでマッドな世界が展開してゆく。

 円城塔「エピローグ<エピローグ>」。刑事クラビトと、朝戸&アラクネを交互に描いてきた物語も、ついに最終回。いつもの円城塔らしく、「書くこと」をテーマにお話を進めているようだが、やっぱりよく分からない。にしても「取調室でうなだれていた時間」って、なんなんだw

 神林長平「絞首台の黙示録」第9回。後上明生牧師に案内され、伊郷工(タクミ)が通されたのは、質素な部屋だった。牧師はここで寝起きしていると言う。死刑になったはずの邨江清治が、なぜ存在しているのか。なぜタクミと名乗るのか。牧師に相談したところ…

 冒頭から死刑の執行場面などという、禍々しさが漂うこの物語、終盤に来てお話は更に禍々しい様相を呈してくる。それぞれの登場人物が語る現実はいずれも食い違い、何が何やら…と思っていたら、(次回完結)。本当に完結剃るんだろうか。

 酉島伝法「痕の祀り」。《TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE》シリーズ第6弾。万状顕現隊に向かう、加賀特掃隊の面々。斉一顕現体から漏れる絶対子の濃度が強まっている。生物組織には無害なはずだが、電子機器には影響を及ぼす。赤錆色の加功機<鳥居>を駆る降矢らは、検体採取のため同行する生物学の研究者の勝津と共に…

 いつのも酉島伝法らしい、ぐにゅぐにゅねちょねちょな場面描写と、「加賀特掃隊」など独特の言葉遣いが楽しめる作品。ちょっと映画「パシフィック・リム」の終盤、カイジュウの死体の場面を思い出した。加藤直之が描く<鳥居>のイラストが見者。私はガンパレード・マーチのウォードレス可憐通常型を想像したけど、全然違った。

 ケン・リュウ 『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(<パシフィック・マンスリー>誌2009年五月号掲載) 古沢嘉通訳。<パシフィック・マンスリー>誌の取材で、私はバリー・アイクの長距離貨物輸送飛行船、東風飛毛腿(フェイマオトイ)に同乗し、蘭州からラスベガスへ太平洋を越えて飛ぶ。

 素晴らしい。何が素晴らしいといって、飛行船が舞台なのが素晴らしい。私は飛行船が大好きなのだ。しかも、ツェッペリン型の硬式飛行船である。全長92m、直径25mの堂々たる姿。気嚢にはヘリウム。現実だと飛行船は後天に弱く地上設備も大掛かりな物が必要で、メンテナンスも大変と採算が取りにくいのだが、そこはSF。幾つかのフェイクを混ぜつつも、飛行船ならではの用途を見つけ、航空機や貨物船に優るセールス・ポイントを見つけてくれるのが嬉しい。などのガジェットと共に、そこはケン・リュウ。アイクと葉玲の夫婦の、微妙なすれ違いをしっとりと描いている。

 川端裕人「青い海の宇宙港」第3回。秘密基地で騒ぎを起こしてしまった、天羽駆と本郷周太。急いで逃げたため大人には見つからずに済んだが、次の日の朝礼では千景先生が「テロに注意してください」などと言っている。どうやらとんでもない事になっているらしい。だが周太は…

 生物好きの駆と、ロケット好きの周太。その駆の目が、川と海から宇宙へと向かって行く場面が巧い。あくまでも子供の言葉で、科学や工学の法則を体で感じた時の感動を、鮮やかに伝えてくれる。ホント、あの瞬間は、意識が大きく広がっていくというか、独特の感動があるんだよなあ。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「地球は不公平な惑星」、今回はアイスランドや内陸オーストラリアなど極端な環境に住む人が何を食べているか、と いう話で始まる。エスキモーが生肉を食べる理由が「肉を焼くための燃やす木材などの燃料がない」ってのは、盲点だった。日本のように木の家に住めるっての は、世界的に見ると恵まれてるのかも。

 『コングレス未来会議』アリ・フォルマン監督インタビュウ、柳下毅一郎。「コングレス未来会議」は、スタニスワフ・レム「泰平ヨンの未来会議」を原作にしたもの。「レムは東ヨーロッパにおけるフィリップ・K・ディックです」に妙に納得。そのレム、自作を映画化したのは全部嫌っていたってのは初耳。そこで「どんな作品を作ろうと、どうせレムの遺族からは文句を言われる」と開き直って好き放題とか。わははw

 鳴庭真人のNOVEL & SHORT STORY REVIEW、今回はミリタリーSFの話。ミリタリー・ファンタジーのアンソロジー「Operation Arcana」収録のジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタインの「Blood, Ash, Braids」に期待。第二次世界大戦で活躍したソ連の女性だけの夜間爆撃隊、通称「夜の魔女」をテーマとした作品。つか今 Wikipedia の第46親衛夜間爆撃航空連隊を見たら、機体は Po-2 って複葉機じゃないか。いかにも魔女の二つ名に何相応しい。

 飯田一史「エンタメSF・ファンタジイの構造」第13回、今回のテーマはグレッグ・イーガン。「わからないけど面白い」と言われるイーガン作品が、なぜわからなくても面白いのかを分析してゆく。確かに彼の作品の「わからなさ」は説明できるけど、「面白さ」は説明しにくいんだよなあ。

 次号の藤崎慎吾には大きく期待してます。

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