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2015年4月 2日 (木)

アニー・ジェイコブセン「エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実」太田出版 田口俊樹訳

 本書は、ノンフィクションである。ここに書かれているのはすべて実話であり、本書に登場するのもすべて実在の人物だ。本書を書くにあたってインタヴューした74人はいずれもエリア51に関する希少な情報――すべて自らの体験に基づいた情報――を持っており、そのうち32人は実際にこの秘密基地内に住み、そこで働いた経験を持つ人々である。
  ――プロローグ 秘密基地

【どんな本?】

 アメリカ合衆国ネヴァダ州ネリス試験訓練場(→GoogleMap)、12,140平方kmを占める合衆国最大の政府管理区域。そこには、米本土唯一の核実験場ネヴァダ核実験場と、謎の区画エリア51(→Wikipedia)が存在する。

 合衆国政府はエリア51の存在を認めていない。だが、1998年および2007年に公開の資料では、多くが黒塗りされている中で、おそらく誤まって見落としたのであろう、2箇所にエリア51の名が出てきた。

 ここはロズウェル事件(→Wikipedia)との関係もとり沙汰され、エイリアンの体やUFOも隠しているとも噂されている。

 なぜ合衆国政府はエリア51の存在を隠すのか。そこには、何があるのか。誰が、何をやっているのか。ロズウェル事件とエリア51は関係あるのか。本当にUFOとエイリアンを隠しているのか。

 調査報道ジャーナリストの著者が、多くの取材と膨大な文書の調査を元に、冷戦時代に合衆国が行なった秘密兵器開発とその作戦投入を暴く、衝撃のノンフィクション。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は AREA51 : An Uncensored History of America's Top Secret Military Base, by Annie Jacobsen, 2011。日本語版は2012年4月17日第1版第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約500頁に加え訳者あとがき4頁。9ポイント47字×19行×500頁=約446,500字、400字詰め原稿用紙で約1,117枚。文庫本の長編小説なら2冊分ちょいの分量。

 日本語の文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくないが、第二次世界大戦後の、米ソ対立を中心とした国際情勢を知っていると、迫力が増す。また、当事の軍用機に詳しいと更に楽しめる。軍用機の名前は F-4 や F-101 などの型番しか出ないのが、素人には辛いところ。できれば F-4ファントム や F-104スターファイター などと、愛称も入れて欲しかった。

 出てくるのは F-4ファントム, F-5タイガー、F-86セイバー、F-101ヴードゥー、F-104スターファイター、F-117ナイトホーク、C-54スカイマスター、U-2ドランゴンレディ、A-12オックスカート、Mig-17フレスコ、Mig-19ファーマー、Mig21フィッシュベッドなど。つまり、そういう時代の話です。

【構成は?】

 全般的に時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

  • プロローグ 秘密基地
  • 第1章 エリア51の謎
  • 第2章 架空の宇宙戦争
  • 第3章 秘密基地
  • 第4章 陰謀の種子
  • 第5章 情報適格性
  • 第6章 原子力事故
  • 第7章 ゴーストタウンからブームタウンへ
  • 第8章 転落するネコとネズミ
  • 第9章 基地の再構築
  • 第10章 科学、テクノロジー、仲介の達人たち
  • 第11章 どんな飛行機?
  • 第12章 さらなる隠蔽
  • 第13章 汚くて退屈で危険な任務は無人偵察機に
  • 第14章 砂漠のドラマ
  • 第15章 究極の男社会
  • 第16章 ブラック・シールド作戦と、プエプロ号事件の知られざる歴史
  • 第17章 エリア51のミグ
  • 第18章 メルトダウン
  • 第19章 月面着陸捏造説と、エリア51にまつわるその他の伝説
  • 第20章 空軍の支配 カメラ室から爆弾倉まで
  • 第21章 驚くべき真実
  • エピローグ
  •  訳者あとがき/取材協力者と参考文献

【感想は?】

 残念ながら、エイリアンは出てこない。未確認飛行物体は出てくるが、異星人の乗り物ではない。

 この本を楽しめるのは、大きく分けて二種類の人だ。片方は、軍用機の開発に興味のある人。中盤では U-2 偵察機と A-12 偵察機が主役を務め、成功と引退のドラマを綴る。もう片方は、核兵器開発に興味を持つ人。特に核を否定する人は、大きな衝撃を受けるだろう。書名はエリア51だが、内容の半分近くはネヴァダ核実験場に割いている。

 いずれも、その背景には、第二次世界大戦後の米ソの冷戦がある。時は1950年代。互いに軍事力を競い合い、対立の懸念は朝鮮戦争で明らかとなった時代。今と違いインターネットも偵察衛星もなく、東側の状況は鉄のカーテンに閉ざされていた頃。

 核兵器や地対空ミサイルを充実させつつあるソ連に対し、合衆国は懸念を募らせる。空軍を率いるカーティス・ルメイは爆撃機の充実を訴えるが、CIAが横槍を入れる。「地対空ミサイルが届かない超高空を、迎撃機が追いつけない高速で飛ぶ偵察機こそ必須」と。

 敵を叩く役割を担う空軍と、情報の収集・分析が仕事のCIA。それぞれの目的に沿った主張だが、対立は収まらない。かくして、U-2偵察機は難産となるが、エリア51にて秘密裏に開発は続く。おり悪く合衆国内ではUFO騒ぎが流行る。空軍もCIAも騒ぎが収まる事を願い無関心を装うが…

「UFOの調査におけるCIAの役割」と題されたCIA文書によると、1957年の時点では、アメリカ本土でのUFO目撃例の半数以上はU-2に起因するものだった。

 エリア51やU-2の存在がソ連に知られるとマズい。だから「それはオカルト」という事にしたい。だが、ありえない速さでありえない高さを飛ぶ航空機は、本当にあった。そこで、表向きは無関心を装いつつ、コッソリUFO目撃例を調べていたわけだ。

 そこに、1960年5月1日のU-2撃墜事件(→Wikipedia)が起きる。合衆国の軍用機が、ソ連上空を、コッソリ飛んでいたのがバレたのだ。これじゃ困るという事で、次世代の偵察機A-12オックスカートの開発に弾みがつく。やがてA-12は空軍のSR-71ブラックバード(→Wikipedia)へと発展してゆく。

 この開発過程の技術的な話が、なかなかワクワクする。SR-71命名のいきさつ、ロッキード社職員の作業服のデザイン変更、素材調達の苦労、特別製の燃料、エンジン停止の恐怖…。これらを通し、終盤ではステルス攻撃機F-117ナイトホーク(→Wikipedia)や、無人機RQ-1プレデター(→Wikipedia)へと広がってゆく。

 これらは明るい話題だが、同じぐらいの分量で、恐ろしい話題も飛び出してくる。ネヴァダ核実験場を中心とした、合衆国の核開発の実際だ。

 先のU-2撃墜事件にしても、アメリカの軍用機がソ連上空を無断で飛ぶという、かなり無謀な真似をやらかしている。この無謀さは核開発でも存分に発揮しているから怖い。

 1958年8月1日。ハワイの西1200km、ジョンストン環礁。ここで二つの核爆弾が炸裂する。威力はいずれも3.8メガトン、片方は高度80km、もう一方は45km。目的は「ソ連が高高度で核爆弾を使った場合、どう探知すればいいかを調べるため」。残念ながら、計画者のジェームズ・キリアンは、オゾン層への影響を全く心配していなかった。

 しかも、一方の爆弾は、掲載したロケットが進路を外れ、観測者の真上で炸裂する。サンダルに短パンの男たちの頭上で。

 他にも、キノコ雲の真ん中を、観測用の航空機が突っ切る場面や、何の仕切りもない荒野でダーティー・ボムを炸裂させる話、水爆を載せた輸送機が墜落する話など、背筋の凍るネタが次々と飛び出してくる。そのくせ、能天気に「平和利用」と称し、パナマ運河の拡張に使おうなんて考えてるから救えない。

 中でも馬鹿極まりないのが、プロジェクト・オライオン(→Wikipedia)。地球と火星を124日で往復しようとする計画だ。16階建ての建物ぐらいの巨大な宇宙船に、2000発の核爆弾を積む。これを爆発させて船体を飛ばそう、という発想である。これが撒き散らす放射性物質の事は、何も考えていなかったらしい。

 肝心のロズウェル事件の真相は、ちと信じられない。が、合衆国がそれを隠そうとした動機(の推測)は、身の毛がよだつものだ。これについては根拠があるようなので、相当に闇は深い。

 読み終えてか考えると、著者はエリア51で読者の気を惹いて、実は合衆国の核開発の記録を暴露したかったんじゃないか、とも思う。そのいずれもが驚きのエピソードに満ちた、怪しげに見えるが中身は誠実なルポルタージュになっている。軍用機や核兵器に興味がある人なら、とても楽しく(または怖く)読める、迫真のドキュメンタリーだ。

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