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2015年4月28日 (火)

ロバート・ブートナー「孤児たちの軍隊3 銀河最果ての惑星へ」ハヤカワ文庫SF 月岡小穂訳

「今日、われわれは悪魔を地獄に送り返す! 進め!」

【どんな本?】

 合衆国陸軍情報士官の経歴を持つ著者による、ミリタリ・スペース・オペラのシリーズ第3弾。正体不明の異星人「ナメクジども」との戦闘中、成り行きで兵卒から一気に少将に昇格してしまった青年ジェイソン・ワンダーを主人公に、軍ヲタむけのくすぐりをタップリ含めて描く、宇宙冒険活劇シリーズ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原初は Orphan's Journey, by Robert Buettner, 2008。日本語版は2014年12月15日発行。文庫本で縦一段組み、本文約516頁。9ポイント41字×18行×516頁=約380,808字、400字詰め原稿用紙で約953枚。上下の2巻になってもおかしくない分量。

 文章はこなれている。私が慣れたのか訳者が馴染んだのか、巻を重ねるごとに文章がスムーズになっている気がする。SFとしても、あまり難しいガジェットは出てこない。というか、確かに変な仕掛けは出てくるんだが、昔の怪獣映画を見る感じで読もう。細かい部分にツッコミを入れてはいけない。

 それより大事なのは、軍事系の野次馬的な知識。今回のモデルはノルマンディー上陸作戦なので、その周辺の知識があると、より楽しめる。が、余り知らなくても大丈夫。基本的にノリが大事な娯楽作品なので、ノリが合うかどうかが好みの分かれ目。

【どんな話?】

 ガニメデの戦いから16年。太陽系からナメクジどもは一掃された。ジェイソン・ワンダー少将は、チベットでのヘマが元で月宙域の永久駐屯地、<ニュー・ムーン>へ飛ばされる。ここには様々な施設と共に、ナメクジどもから奪った戦利品、戦闘護衛艦ダイアウィッチがあった。ハワード・ヒブル大佐は、敵の宇宙航行技術の謎を解こうと研究を続けていたが…

【感想は?】

 「火星のプリンセス」+「アラビアのロレンス」+「史上最大の作戦」。

 ご難続きのジェイソン君も三十路を越え、多少は落ち着きも出てきた…はずが、各地に軍事顧問として派遣され大忙し。地球はナメクジどもを追い返し、やっと平和になると思ったが、前時代の対立が再び頭ももたげている。ジェイソン君も、冒頭では頼れるオード曹長と共にチベットに派遣され、中国軍相手に戦うチベットの反乱軍を支援している。

 と、時代は未来だが、世界情勢は現代みたいだ。兵器などが微妙に先祖返りしてるのも、このシリーズの特徴の一つ。出てくる自動小銃もM-60(→Wikipedia)だったりAK-47(→Wikipedia)だったり。使い込まれた7.62mm弾(→Wikipedia)が好きで、新しい5.56mm(→Wikipedia)はお気に召さないらしい。

 なぜ弾丸を小さくしたか。大きい弾丸の方が威力が大きいのは、そのとおり。その分、反動も大きくなり不正確になるし、マガジン(弾装)も重くなる。ただでさえ重たい荷物を沢山持って歩き回る歩兵にとっては、なるたけ軽くて沢山の弾丸を持てる方が嬉しいのだ。

 また7.62mmは、200mぐらいの距離で撃ち合う事を想定していた。が、ベトナム戦争などの経験で、実際には150m以下での戦闘が多い事がわかった。そこで近距離での戦闘に向く弾丸にしよう、って事で5.56mmになったようだ。

この辺、私の知識はアヤフヤで、かのよしのりの「銃の科学」によると、200m以上でも銃によっては5.56mmの方が初速が速いため命中精度は高いとか。

 そういう細かい問題はあるにせよ、現実問題として7.62mmを使うAK-47シリーズは世界に広く出回っていて、部品や弾薬を手に入れやすい。また部品が少なく、製造時にも高い精度は要らないので、工業技術が未熟な国でも量産できる利点があり、今後も暫くは自動小銃のベストセラーの地位を守り続けるだろう。

 当然ながら、弾丸が大きい方が威力も大きいわけで、こういった長所は物語後半で活きてくるのでお楽しみに。

 今回のジェイソン君、冒頭では異星にいる。どうやらガレー船団の大軍を率いて上陸作戦を企てているらしい。テクノロジー的には、ノルマンディーというよりカエサルのブリテン島上陸に近い印象を受けるが、後にわかる銃器の発達レベルを見ると、黒色火薬を使っているので、クリミア戦争ぐらいかな?

 こちらが物語の本筋で。いろいろあって異星に飛ばされたジェイソン君が出会ったのは、恐竜を乗りこなす人類(ブレン人)だったが、どういうワケが大軍を率いてナメクジどもと戦う羽目になってしまう。なぜ人類が異星にいるのか。なぜ恐竜と同じ時代に人類がいるのか。これについては、終盤でちゃんと説明がある。

 その異星にいるブレン人、これの性格が「アラビアのロレンス」的というか、アフガニスタン的というか。複数の部族に分かれていて、互いに心底憎みあい、争いあっている。これをどう統合し、連合軍にまとめあげるか。軍事顧問として各地に派遣された、ジェイソン君の経験が問われるところ。

 今までのシリーズを通し、ジェイソン君に付き添い頼れる仲間となった、お馴染みの方々も、もちろん活躍する。

 まずはズイムもといオード曹長。「お前はいつ寝るんだ」と思うぐらい常に用意周到な下士官。長い軍務経験のためか、上官である筈のジェイソン君の腹のうちも、いつだってお見通し。無茶な命令も光の速さで完璧にこなすと同時に、危機にあっては何かとヘタレがちなジェイソン君の尻を勢いよく蹴っ飛ばす気概もある鬼軍曹。

 今回も、オード曹長の頼もしさが全編を通して光っている。どんな作戦を考えても、彼の同意が得られれば成功間違い無しと思えるから不思議だ。

 対して、常に不確定要素なのが、ハワード・ヒブル大佐。情報部出身で、軍人と言うよりマッド・サイエンティスト。科学に関しちゃ頭脳の切れは文句なしなんだが、どこに興味が向くかが問題。気を惹かれた問題に深入りしちゃ大きな成果をあげるんだが、その分、目先の切羽詰った軍事・政治的な難問は頭から蒸発しちゃうのが困りもの。

 賢いんだか抜けてるんだかわからない部分もあって、常識じゃ考えられないポカもやらかす。今回のジェイソン君の災難も、ハワード大佐の非常識が招いた事態だったり。つか、そんな所でファイアウィッチを研究するなよw

 今回の仲間はもう一人、ジュードことジェイソン・ユーディ・メッツガー。ガニメデで大殊勲をあげたメッツーガーの遺した一人息子で、ジェイソンにとっても可愛い名づけ子だ。生意気盛りの16歳で、奇妙な才能を示す。父親代わりとして少しは窘めたいジェイソン君だが、自分も若い頃は無茶やってたわけで。

 お話は73章にわかれ、スピーディーに場面を切り替えながら心地よく転がってゆく。この構成は読んでいてなかなか気持ちがいい。また随所に挟んだ軽口や過去の軍人の名文句も、軍ヲタには楽しい所。

 危機また危機のスリリングな展開、キャラのたった登場人物、衝撃的なシーンの数々、迫力の戦闘場面、そして意外な真相と怒涛の終盤。ミリタリー物だけあってベタな軍隊賛美も多いが、それが気にならない人なら、気楽に楽しめる痛快娯楽冒険活劇だ。

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