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2015年3月 2日 (月)

SFマガジン2015年4月号

「あたしたちにできることがたったひとつある。生き延びるために学ぶのよ」
  ――ケン・リュウ「良い狩りを」古沢嘉通訳

 隔月刊第一号は、大増量の376頁。特集は「2000番到達記念特集 ハヤカワ文庫SF総解説PART1[1~500]」。小説は田中啓文「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」,夢枕獏「小角の城」第30回,神林長平「絞首台の黙示録」第8回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第2回,川端裕人「青い海の宇宙港」第2回,円城塔「エピローグ<10>」,谷甲州「ガニメデ守備隊」,小田雅久仁「長城」後編,ケン・リュウ「良い狩りを」。

 特集の特集は「2000番到達記念特集 ハヤカワ文庫SF総解説PART1[1~500]」は、その名のとおりハヤカワ文庫SFとして刊行された作品を、1970年8月の1番エドモンド・ハミルトン「さすらいのスターウルフ」から1982年12月の500番ゼナ・ヘンダースン「血は異ならず」までドドッと紹介。

 全般的に今は手に入りにくいのが多いのが悲しい。なんとか電子出版でもいいから復活して欲しいのがいっぱいある。ロバート・シルヴァーバーグの「夜の翼」とか、今はあんまし話題にならないけど、どんでもねえ傑作だし。フレッド・セイバーヘーゲンのバーサーカーは、コンピュータ全盛の今だからこそ日本オリジナルのアンソロジーを作って欲しい。

 誰が何を解説してるか、も一つの読みどころ。宇宙大作戦が丸屋九兵衛、A.C.クラーク「渇きの海」が難波弘之、野尻抱介がニーヴンのノウンスペースなのは順当なところ。フレドリック・ブラウン「天の光はすべて星」を藤井太洋ってのは、芸風的にわかる気がする。タイトルからして傑作だよなあ。

 仁木稔がポール・アンダースンのホーカ・シリーズってのは、ちと不穏。「妖精」はホーカ人…なわけないか。あのまっとうなスペースオペラ「約束の箱舟」の瀬尾つかさが、あの怪作クリス・ボイスの「キャッチワールド」ってのが意外。編集長の塩澤快浩自ら紹介するエルンスト・ヴルチェク《銀河の奇跡》には大笑い。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマ ス」第2回。不意の襲撃を受け、相棒のウェイン・ロックシェパードを撃ってしまったウフコック。銃の姿のままのウフコックを、<トレイン>が運ぶ。13歳のブロンドの少年。彼は廃トンネルに住むホームレスたちに育てられたが…

 冒頭から語られる<トレイン>の凄まじい生涯もショッキングながら、後に登場するブルーことアレクシス・ブルーコートの能力も、仄めかされるだけだが、なかなか怖い。元人質交渉人という背景から、あまり暴力的な能力じゃない事は見当がつくのだが…

 円城塔「エピローグ<10>」。朝戸&アラクネと、刑事クラビトが交互に登場する形だったが、今回はイザナミ・システムが主役を張って物語の背景を明かしてゆく。

 神林長平「絞首台の黙示録」第8回。教誨師の後上明正は主張する。茶を運んできた人物は私の父親ではない、父は既に死んでいる、電話を受け茶を運んだのは理事長だ、と。だが死刑囚の邨江清治に教誨した事は認めた。

 異常な事態に直面しながらも、互いが憶えている事を突き合わせ、少しづつ現状を理解しようとする後上明正と邨江清治。死んだはずの死刑囚が、伊郷タクミの名で出現するという不条理で始まったこの物語だが、邨江清治の記憶が戻るに従い、グロテスクな様相を示してくる。

 谷甲州「ガニメデ守備隊」。前の「ギルガメッシュ要塞」を、襲撃される側の視点で語りなおす短編。侵入を迎え撃ったタイタン軍の保澤准尉は、侵入者を素人と見た。死体を放置して逃げたからだ。だが、どうにも違和感は残る。ゲートを突破し監視システムを無効化する手際はプロに見えるからだ。

 今でも戦場では無人機が活躍している。今回は、その戦場の無人化を徹底して推し進め、宇宙に展開した様子を冷徹に描く一編。ガニメデ全域の警備を、准尉が一人で担当してる。こんな無茶が利くのも、ロボット兵器が極端に発達してるから。考えてみれば、宇宙服を着なきゃ何もできない人間より、ロボットに任せた方が合理的だよなあ。

 田中啓文「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」。円谷プロダクション×SFマガジンのシリーズ。セスナから島に飛び降りた陣内福太郎を迎えたのは、彼を突こうとする巨大な円錐と、ジャングルを揺るがす咆哮だった。危険ではあったが、これで大事な事を確認できた。確かにヤツはいる…

 怪獣のスペックというのはなかなか謎が多い。ウルトラ・シリーズに登場する怪獣は、30分足らずで登場し、消えてしまう。にも関わらず、なぜ身長や体重がわかるのか。まあ身長は周囲の建物の比べたり、体重は足跡の沈み込み具合で見当もつくが…という謎に迫った作品。田中啓文だかたオチはどうせ…と思ったら。

 ケン・リュウ「良い 狩りを」。原題は Good Hunting, by Ken Liu。父とぼくは、商家の中庭に隠れている。寝室から、商人の息子の呻き声が聞こえる。「ああ、小倩、愛しの小倩…」。若者は妖狐に化かされ、憑かれたのだ。妖狐は化かした男の泣き声には逆らえない。そこでおびき寄せ、妖怪退治師の父とぼくで…

 これまで紹介された作品は、どれも泣かせる物語ばかりだったケン・リュウ。相変わらず巧みな語り口で読者を引き込みつつ、今回は意外な方向へ突っ走って行く。いやあ萌えます。なんたって狐の美女だし。などと煩悩にまみれて読んでたら、大変な事になってる。いっそこのままシリーズにして欲しいぐらい、キャラクターと結末が魅力的。

 川端裕人「青い海の宇宙港」第2回。宇宙遊学で多根島に来た6年生の天羽駆。担任のちかげ先生は、学級活動の時間を使い多根島の地理と歴史の授業をしてくれた。と言っても、教えるのは島の子供たちだ。鉄砲伝来の話になると、周太は興奮して叫びだす。

 大型ロケットの打ち上げが延期になり、様々な影響が現れてくる今回。理科が好きな男の子には大きく分けて二つの派閥があって。一方は天羽駆を代表とする生き物派、もう一方は本郷周太のようなメカ派。今までは単なるガキ大将に見えた周太が、意外な素顔を見せるのが楽しい。

 小田雅久仁「長城」後編。長城の叫びに応じ、二千回にも及ぶ他人の人生を送り、そして夷狄と戦ってきた康之。だが今回は城内にいた記憶がない。"置きわすれ"だ…と思ったが、ここはまだ長城の中だ。橋の真ん中に黒い金属バットがある。これで俺の二重体を殺すのか。

 延々と他人の人生を生き、敵である夷狄を殺す。舞台設定は今流行の異世界ファンタジーっぽい仕掛けながら、主人公の康之は老いて僻みっぽい母親と二人暮らしのオッサン。金持ちの青年実業家ならバットマンみたいなヒーロー物にもなるのに、そこはクセ者の小田雅久仁。

 池澤春菜「SFのSha,ステキのS」。今回は引っ越しと本棚の話。ゃ本読みなら誰もが悩む、本の置き場所。本ってのは、ほおっておくと際限なく増殖しやがる困ったシロモノで。引っ越しする際にも、まず最初に考えるのが「本棚をどこに置くか」。それも大抵は計画通りにいかず、気がつけば隙間は全て埋まり…。いっそ図書館に住みついたろか。

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