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2015年3月13日 (金)

片瀬二郎「サムライ・ポテト」河出書房新社NOVAコレクション

「ぶん殴ってやる、ぜったい!」
  ――コメット号漂流記

【どんな本?】

 10年の沈黙を破り再デビューした新鋭作家・片瀬二郎による、SF短編小説集。自分に気づいてしまったコンパニオン・ロボットたちを描く「サムライ・ポテト」、時間の止まった世界に取り残された男を描く「00:00:00.01pm」、魔女を名乗る三人の女子中学生を描く「三人の魔女」、オープン・ソフトウェア/ハードウェアがもたらす影響を描く「三津谷くんのマークX」、そしてコンビニに閉じ込められた女子高生のサバイバルを描く「コメット号漂流記」の五編を収録。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2015年版」のベストSF2014国内篇で9位に食い込む活躍を見せた。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年5月30日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約326頁。9.5ポイント40字×18行×326頁=約234,720字、400字詰め原稿用紙で約587頁。標準的な長編小説の分量。

 小説としては、日本語はやや堅いが、読みにくいというほどでもない。近未来を舞台とした作品が多く、コンピュータやロボット関係の細かい描写が随所に出てくる。これが好きな人には楽しい部分だが、苦手な人には少し辛いかも。

【収録作は?】

 作品名の / 以降は初出。

サムライ・ポテト / 河出文庫 書き下ろし日本SFコレクションNOVA7 2012年3月
 サムライ・ポテトは、ハッピー☆バーガーのコンパニオン・ロボット。店先に立ち、愛嬌を振りまいている。転びそうになった子供を支えて助けたとき、サムライ・ポテトは気づいた。自分はそこにいた、と。気づいたのは、サムライ・ポテトだけではない。向かいのワールドスイーツ・カフェのコンパニオンのリトル・アリスと、ドラッグストア・イワサキのイワサキ先生も…
 お話そのものはわかりやすいが、細かい仕掛けは手が込んでいて、改めて読み返すとなかなかリアル。冒頭で、転びかけた子供と会話を交わす部分から、技術的な部分は良く考えられている。ロボット同士が通信する部分もそうだが、特に感心するのは、彼らが人を特定する所。
 サムライ・ポテトの視点で語られる物語なだけに、終盤はなかなか感動的ではあるものの、その姿を想像すると、一気にコメディになってしまう。なんとか続きを書いてくれないかなあ。もっと先が読みたい。
00:00:00.01pm / 河出文庫 書き下ろし日本SFコレクションNOVA8 2012年7月
 エレベーターの中で、携帯電話のメールを読もうとしたとき、寺島は異常に見舞われた。エレベーターの扉は閉まりかけで止まっている。まわりの者も、表情が固まっている。誰も動かない。エレベーターの中だけじゃない。建物の中も、ビルの外も、みんな止まっている。飛んでいるカラスまで、空の真ん中で止まっている。
 この世界の時間から弾きだされ、自分だけが動けるようになったら、どうするか。ここで寺島が取る行動が、いかにも普通の勤め人らしくて笑ってしまう。
三人の魔女 / 書き下ろし
 魔女は三人いる。<嘆きの魔女>向田佐和子、<時の魔女>中川香澄、<暗黒の魔女>目黒敦子。27年のときをへて、ついに魔女が復活した。休み時間は、いつもの所に集まる。屋上へあがる階段の踊り場だ。窓から外を見ると、両手に大きな荷物を持った女子が体育館の前を歩いている。一年C組の星野真琴だ。
 既にスマートフォンは普及しつつあり、何か事故などがあると、沢山の野次馬が現場の動画を撮っている。Google Glass(→Wikipedia)なんてのもあって、手を使わずいつでも録画できる。さすがに今の技術じゃ常時録画・常時公開は難しいが、イヤリングほどの大きさで常時録画・公開が可能になったら、どうなるだろう? という技術的な話もあるが、LINE などのコミュニティ・サービスは、若い人ほど利用に積極的だ。この両者を組み合わせた、少し未来の少女たちの社会を描いた物語…かと思ったら。
三津谷くんのマークX / 書き下ろし
 カラオケ・ボックスのバイトの帰り、三津谷はスマホをチェックする。今、あいつはどこにいるのか。充電ステーションでバッテリーを満タンにするとき以外、あいつは時速3キロで休まず歩き続ける。急いで家に帰ると、玄関で<妹>が待っている。まだ腰から下の骨格だけしか出来ていない。コミュニティでは、議論になっている。あるベンチャー企業が興味を示している、と。大きな商談になりそうだ。
 Thunderbird や Apache, Firefox など、オープンソース・ソフトウェアは既に常識となり、Linux は Android としてスマートフォンにも進出した。SourceForge や GitHub など、オープンソース開発を支援するシステムやコミュニティも充実している。最近は3Dプリンタも出回り、オープン・ハードウェアも勢いがつきそうだ。いい事ばかりではなく、3Dプリンタ銃製造事件(→Wikipedia)なんて物騒な事件もあった。誰もが優れた技術を手に入れられる時代に入りつつある今を考えると、なかなか怖い作品。
 終盤、三津谷が狙いを定めて追い詰めて行く過程の描写は、息が詰まる緊張感がたっぷりで、ドキドキしながら読んだ。
コメット号漂流記 / 書き下ろし
 日曜の朝。ミライはミハルと待ち合わせた。トイレに寄ったミハルちゃんから不細工なフレンチブルのフグを預かり、コンビニの<コメット・マート>の中でミハルちゃんを待ちながら、ドクター・ペッパーを手に取った時、それは起こった。viグラスのアナウンスは、「緊急!緊急!」と叫んでいる。
 再びアシスタント・ロボット登場。といっても、こっちのアシスタントは実体はなく、ヴァーチャルなもの。アニメ「電脳コイル」の「電脳メガネ」に似たデバイス、viグラスの視界に登場するアシスタントだ。コメット・マートのハレー・ザ・コメット君はともかく、ミライのアシスタントのナビ男くんの役立たずっぷりが笑わせる。いやホント、昔の Windows にいたイルカを思い出した。
 出だしの頭わるげな女子高生ぶりはともかく、中盤から終盤にかけてのアクションはド迫力。読み終えてから改めて考えると、とんでもねえ女子高生だな、ミライw

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