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2015年3月 5日 (木)

ジョン・ダワー「増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 上・下」岩波書店 三浦陽一・高杉忠明・田代泰子訳 2

 日本人にとって「上からの革命」は、けっしてめずらしい経験ではなかった。19世紀半ばからずっと、支配層は民衆にたいして、産業化・近代化・西洋化を進め、過去と決別し、新しい人間、新たな国家の新たな臣民になれと熱心に説き続けてきた。
  ――第六章 新植民地主義的革命

 ジョン・ダワー「増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 上・下」岩波書店 三浦陽一・高杉忠明・田代泰子訳 1 から続く。

【どんな本?】

 太平洋戦争の敗戦により、日本の民衆は飢えに苦しむ羽目になる。中国・台湾・朝鮮に頼っていた食糧輸入は途絶えた上に、1945年は記録的な凶作。おまけに外地からの復員者で養うべき口は増える。闇市は繁盛し、その価格は統制価格の30倍にも及んだ。

【感想は?】

 同じ頃、ドサクサに紛れて軍事物資や国家の軍事予算は大規模な略奪に遭う。政府は捜査に熱意を見せず、その行方は全く分からない。しかも、進駐軍の維持費が国庫を更に圧迫する。その進駐軍に対し、政府は…

8月18日、内務省は全国の警察管区に秘密電報を送り、占領軍専用の「慰安施設」を特設するよう指示した。

 女をあてがえ、というわけだ。これが半端な仕事じゃなく、「ある推計によれば、RAA(Recreation and Amusement Association)の女性が一日に相手にした米兵の数は、15人から60人であった」。無茶なんてもんじゃない。一応1946年1月に「婦人の人権」をタテに禁止を命じるが、本音は「RAAの女性は90%が性病検査で陽性となっていた」。

 これにはオマケもあって。「1946年4月、アメリカのペニシリンの製法特許が最初に日本の企業に売られたが、その最大の目的は、性病をなんとかするためであった」。同年、かの有名な赤線が指定される。これの理屈も政治家らしい。内務省曰く「女性には売春婦になる権利がある」。

 ってなご時勢に、繁盛するのは闇市。1945年8月18日、新聞広告が出る。軍需工場に対し、買い取るから見本w持って来い、というもの。広告主は関東尾津組(→Wikipedia)。ヤクザが闇市を仕切ってたわけ。まあ、別に意外でもないけど。新橋を仕切った松田組に至っては…

新入り商人への出店許可(有料だが)とか、照明とかトイレとかゴミ集めといった、なくてはならぬ実際的業務をひきうけたので、東京都と警察が背後から支援した。彼は治安の維持のために、警察よりも自分の組員を頼りにしていた。

 実際、当時は闇市が必要だったし、多くの人が集まる以上、誰か仕切る者も要る。でも四角四面な官じゃ自由市場は仕切りきれず、ある程度の暴力も要求される。となればヤクザが仕切る事になるわけで、当事の日本や今のロシアでマフィアが勢力を伸ばすのも、自然の成り行きなんだろうなあ。

 文化面では、かの有名な「額縁ヌードショー」も紹介してる。まあ、こういう方面じゃ妙に知恵が働くのはどの国も同じだろうなあ。沈黙を強いられた出版界は、紙の不足にもめげず活況を呈し、「戦争が終わった時点で、日本には約300の出版社があった。その八ヵ月後には、2000社ちかくにまで増えている」。

 1.フランス人:350冊 約26% 
 2.ドイツ人 :294冊 約22%
 3.ロシア人 :251冊 約18%
 4.イギリス人:194冊 約14%
 5.アメリカ人:104冊 約8%
 6.中国人  : 43冊 約3%
 7.イタリア人: 37冊 約3%
 8.その他  : 94冊 約7% 

 ここで翻訳書の傾向が面白い。「占領軍の統計によると、1945年11月から1948年4月のあいだに、およそ1367冊の外国語の作品が日本語に翻訳された」。著者の国ごとに内訳(左の表)を見ると…

  なんと国際色豊かなことか。敵国のはずのフランスがトップだ。ドイツが二位につけているのは、元同盟国だからか? にしても、フランス同様に敵国のはずのロシア・イギリスが三位・四位だ。占領国のアメリカは5位に甘んじている。その次の中国は、やはり古典だろうか。全般的に欧州志向もあるんだろうけど、この点に関しては、当時の方が現代の日本よりマトモな気がする。

 が、既に、現代のアメリカ一辺倒への流れは始まっている。1946年2月1日にはラジオで平川唯一の「カムカム英語」が多くの聴取者を獲得するが、その前に350万冊のベストセラーが出ている。小川菊松の「日米会話手帳」だ。当事の日本人が、時代の趨勢をどう考えていたか、よく窺える。

 この本のモデルは「日中会話の小さな手引書で、日本の中国占領のとき役立ったもの」というから皮肉。

 さて。事実上、日本の全権を握ったマッカーサー。デイヴィッド・ハルバースタムの「ザ・コールデスト・ウィンター」では日本贔屓のように書かれているが。

 ある人物曰く「アメリカ大使館の古い建物にある彼の住居と、その近くの旧第一生命ビルにある連合国最高司令官執務室のあいだを午前と午後に行き来するだけ」で、「マッカーサーと二回以上話をした人物はたった16名しかいなかった」。しかも、「占領軍は日本を直接統治するだけの言語能力と専門能力に欠けていた」。

 にも関わらず、モノゴトがスムーズにいったのは、「すでに存在している日本の政府組織をつうじて『間接的に』行なわれた」から。

 ここで当事の連合軍の対日戦後政策が色々と書かれていて、なかなかエキサイティングだ。「1945年初めの時点では、この敗戦国に民主主義革命を導入しようという計画は存在しなかった」。つまり旧憲法下の体制を容認するつもりだったわけで、早めに降伏してたら、日本はもっと右翼好みの体制になっていたらしい。

 穏健政策は米国内の知日派の見解なんだが、次第に過激派、つまり根本的な改革を求める勢力が主導権を握ってゆく。そしてGHQは、日本についての素人集団で出来上がる。だからこそ大胆な改革ができたんだ、と著者は主張している。この辺のパワーゲームはなかなか複雑で。

 マッカーサーは徹底改革&天皇制維持の姿勢を決めていた。ワシントン政府は、改革・天皇制いずれにもフラフラしてた。日本政府は、明治憲法を少しいじり、天皇制維持。結局はマッカーサーが独断専行で決めていくんだけど。

 そのマッカーサーを、日本国民は熱烈歓迎する。占領軍のボスを喜んで迎える国民ってのも珍しいが、内心じゃ軍を嫌ってたんじゃなかろか。ここで労働基準法を作り組合活動を合法化し、戦前・戦中に拘束されていた社会主義者・共産主義者が釈放される。

 これはやがてマッカーサーにとって嬉しくない流れをもたらすから、社会はめんどくさい。というのも、釈放されたマルクス主義者たちは、一躍英雄になったからだ。これは生活の苦しさも手伝い左派の活況をもたらすが、その反動としてレッドパージが始まってしまう。

 皮肉はここにもあって、労働組合の組織化が進んだ原因が皮肉。「かつて総力戦のために労働者がさまざまな会社や産業レベル、また全国レベルで組織されていたという事情があった」。これを左翼が乗っ取ったわけ。だから生産管理闘争なんてのもある。普通のストは機械を止めるが、生産管理闘争は生産を続ける。

 その目的は経営者から経営権を奪うこと。労働者が工場を経営できるなら、経営者なんか要らないじゃん、ってわけ。

 改革は教育にも及び、有名な黒塗り教科書が登場する。ここで黒塗りされたのは、「修身と国史と地理」。修身と国史は思想的な理由で、地理は大日本帝国が大陸と太平洋の領土を失ったから。理科と数学は無事だったのね。

私が数学と科学と工学を好む理由の一つがこれ。世の中がどう変わろうと、この三つは変わらない。当時、同じ気持ちで理系に進んだ人も多いんじゃないかと思う。

 などの激動は、次の記事へと続く。

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