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2015年2月25日 (水)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2015年版」早川書房

翻訳未刊行の『ブルー・マーズ』はどうなったのか創元さんに聞きたい!
  ――西村一

 私も聞きたい。

 ということで、年に一度のお祭り本。2014年に日本で刊行されたSF・ファンタジイ・ホラーを中心に、小説・ノンフィクション・映画・漫画などにも視野を広げ、話題となった作品をまとめて紹介するムック。2015年2月15日初版発行。ソフトカバー192頁。

 やはり目玉は「ベストSF2014[国内篇・海外篇]」に加え、ベストSF1990~2013のトップ10も一挙掲載。そういや私、2009年版は買いそびれてたんだよなあ。

 国内篇は「みずは無間」「新生」「サムライ・ポテト」と、未読の作品にも美味しそうなのが揃ってる。11位~20位も、「突変」「テキスト9」「機巧のイヴ」「躯体上の翼」と読みたいのがズラリ。全般的に、文芸風またはスリップストリーム寄りの作品が苦戦して、骨太のSFらしいSFが人気を集めてる感じ。

 海外篇は、国内・海外共にファンタジイが苦戦する中、キジ・ジョンスンの「霧に橋を架ける」が4位と健闘してる。「火星の人」のフィーバーぶりが凄い。11位~20位では14位のジェフ・カールソン「凍りついた空 エウロパ2113」と19位のジェフ・ヴィンダミア「全滅領域」が読みたい。

 けどネイサン・ローウェルの「大航宙時代」の姿が見えないのは納得いかない。後ろの「全回答」を見ると、何人か票を入れてる人はいるんだけど、「火星の人」に票を食われたのかな。

 寄稿は熱いのが多い。藤井太洋「『オービタル・クラウド』自作解題」では、惜しげもなくネタをバラしているので、未読の人は要注意。上田早夕里「《オーシャン・クロニクル・シリーズ》のこれから」では、「華竜の宮」「深紅の碑文」のシリーズはまだ続く、という嬉しい話。しばらく先になるけど。

 中村融「『火星の人』と宇宙開発SFの新時代」では、火星を中心に太陽系内の惑星を舞台にした作品をズラズラと挙げていく。「火星縦断」はタイトルがストレートでよかった。そして板倉充洋「グレッグ・イーガン『白熱光』講義」は、あの難解な「白熱光」のカン所を詳しく解説してくれる親切講座。

 サブジャンル別総括では、卯月鮎の「ライトノベル 伝奇アクション&異世界ファンタジイ」が、昨今の出版事情の注目点二つにフォーカスしてる。一つは「キャラ文芸」「ラノベ文芸」みたいなアレ。なかなか面白い動きだけど、SFよりファンタジイやスリップストリームと相性がよさそう。もう一つが、「小説家になろう」を初めとするウェブ小説の動き。

 「火星の人」は自サイトが元だったし、「大航宙時代」はサウンド・ブックから始まった。「Gene Mapper」も電子出版がきっかけで、虚淵玄と芝村裕吏はゲーム出身。どこからどんな人が出てくるかわかんない時代で、これはこれでとても楽しみ。

 科学ノンフィクションを軽く眺めると、真っ先に気がつくのは「書名がやたら長い」こと。「○○はなぜ××なのか」式に、具体的なテーマを絞って読者の興味を惹こうとする工夫に、出版社の営業努力を感じる。この中では「サイボーグ昆虫、フェロモンを追う」がやたら美味しそう。もちょい、工学系、それも機械工学系の本も売れるといいなあ。

 今年の出版予定だと。早川書房は丸写ししたいぐらいなんで割愛。角川書店は藤崎慎吾の深海大戦モノに期待してる。河出書房新社は、なんと谷甲州「星を創る者たち」の続編が出るとか。マジか。東京創元社はR・C・ウィルスンの新作。そして徳間書店、山本弘「宇宙の中心のウェンズディ」が今年中って、信じていいのか?

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