榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 未来へ 3」電撃文庫
「食えればなんとでもなる。うまい飯を食っとれば、どうにかなるもんタイ」
【どんな本?】
元は2000年9月28日に発売された SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。難航した開発が宣伝費を食いつぶしながらも、野心的なシステム・過酷な世界設定・魅力的なキャラクターなどが、熱心なファンを惹きつけてロングセラーとなり、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞、2010年にはPSP用のアーカイブで復活した。
そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まったのが、榊涼介の小説シリーズ。ゲームに沿ったストーリーは「九州撤退戦」で一段落し、その後「山口防衛戦」より榊氏がオリジナルのストーリーを発展させ、この巻へと続いている。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2015年2月10日初版発行。文庫本の一段組みで本文約247頁。8ポイント42字×17行×247頁=約176,358字、400字詰め原稿用紙で約441枚。長編小説としては標準的な分量。
文章は読みやすい。内要は前巻の「未来へ 2」から続いている。SFやファンタジーな小道具や設定もあるが、理屈そのものは特に難しくない。
ただし、長く続いたシリーズのため、登場人物も設定も膨大なので、それを頭に入れるのが大変だろう。できれば最初の短編集「5121小隊の日常」または時系列順に最初となる「episode ONE」から読んで欲しい。が、さすがにこの巻で43巻目なので、ゲッソリする人も多いだろう。その場合は、「未来へ 1」から読んでみよう。
【どんな話?】
1945年。月と地球の間に黒い月、地上にはヒトを狩る幻獣が現れ、第二次世界大戦は唐突に終わる。幻獣は圧倒的な数で人類を圧倒、1999年には南北アメリカ大陸・アフリカ南部そして日本列島に押し込められた。
1998年に幻獣は九州に上陸、自衛軍は戦力の8割を失いながら勝利を得た。1999年、日本政府は熊本要塞の増強と、14歳~17歳の少年兵の強制召集を決める。少年兵を盾に自衛軍を立て直す計画だった。持て余し者の学兵を集めた5121独立駆逐戦車小隊は、使いにくさで廃棄が決まっていた人型戦車の士魂号を使いこなし、大きな戦果を挙げる。
だが5月6日から始まった幻獣の大攻勢に自衛軍は壊走、九州を失う。5121小隊は撤退戦で殿を務め多くの兵を救うが、10万人ほど召集された学兵の半分以上が本州に戻れなかった。一度は山口から本州に攻め込まれた自衛軍だが、岩国要塞などで盛り返し、九州への逆上陸を果たす。
日本政府は、敵の内紛も利用し幻獣の一部と休戦を実現、青森・北海道も防衛に成功する。
北米にはワシントンとシアトル、二つの政府がにらみ合っていた。ワシントン政府の強引な招聘に応じた5121小隊は、幻獣に包囲されたレイクサイドヒルの市民を、ワシントン政府軍と協力して救い、市民の人気者となるが、同時に政界を揺るがす醜聞を明らかにしてしまう。
日本政府とは国交のないシアトルへも親善使節として立ち寄った5121小隊は、ここでも派手な戦闘を繰り広げた上に軍と政界に嵐を巻き起こし、帰国を命じられた。
デリケートな外交問題で騒ぎを起こした5121小隊は、日本政府の頭痛の種となったが、国民の人気はある。彼らに下された処分は、かつての戦場である熊本での遺骨収集だった。懐かしい熊本に帰ってはきたが、そこには共に戦った数万の学兵が白骨となって眠っていた。ばかりでなく、正体不明の生存者の影もあり…
【感想は?】
表紙は善行と素姐をバックに、花を持つののみ。素姐のツナギはウエストを絞ってるあたり、彼女のこだわりを感じるなあ。つか善行、まさか今になっても半ズボンを穿いてるのか? まあ最近は暑い季節になると、オッサンでもバミューダが許される風潮だから、アリなのかも。ちなみにスネ毛と言われるけど、実は善行にスネ毛はなかったりする。
山口・青森・北海道・北米東海岸・北米西海岸と転戦してきた5121小隊が、九州撤退戦のツケを突きつけられる巻。
展開の鍵を握るのは、前巻の終盤で捕らえた奇妙な学兵くずれ。瀬戸口の計略をきっかけにほとばしり出た彼の鬱憤が、5121小隊の面々に、九州撤退戦のもう一つの側面を思い知らせてゆく。
当然ながら、片棒を担がされた中村は、料理品としての誇りもあって、どうにも納得いかない。が、そこはスローフード連盟の首魁である。気が利くではないか。
そんな学兵くずれに、寄り添おうとするのが、これまた意外な人で。いたね、そんな奴。まあ、今まではたいした出番が無かったけど、こういう所でちゃんと見せ場を用意してあるんだなあ。
そういや石丸さんも佐藤も土木シスターズも、本来なら女子高生なんだよなあ。確かに昔は女子高の文化祭だと、校門前にシャコタンの車がタムロしてたり。最近はガードが堅くなって、高校の文化祭も招待券がないと入れなかったり。でもご近所の人には家族連れで来て欲しいし、難しいところ。
そして、なんと言っても、対応の鍵を握るのは日本政府。窓口となる高山は、今までの対応から判断すると、物資や人員の調達じゃ有能な面を見せつつも、何か腹にイチモツ抱えていそうで。彼の腹のイチモツが少しだけ覗き見えてくるのも、この巻の読みどころ。
こういう状況だと、終盤じゃきっとあの方が華々しくお出ましになるんだろうなあ。期待してます。
やはり食べ物の話は気になって。熊本は暖かいから、やはりイモならサツマイモだろうなあ。維新が西国中心になった原因が、西国じゃサツマイモが採れて豊かだったから、って説もあるし。ザリガニも食べられるけど、寄生虫がいるので充分に煮る必要があるとか。とすると、薪が沢山いるなあ。
後半に入り、次第に物騒な雰囲気が漂ってくるこの巻。そこで頼りになるのは、なんと意外な事にイワッチ。同じハンターでも、若様は財閥の産業力を活かして様々な支援を、中村は得意の料理で見せ場があるのに、このままでは単なる変態で終わりそうだった彼が、ただの変態ではない所を見せてくれる。いややっぱり変態なんだけど。
でもイワッチが作ったアレ、ゲームでも使えたら便利だろうなあ。1ターンだけ敵の命中率が下がるとか…あ、でも、幻獣には効かないか。
この巻は、読んでてどうしても残留日本兵(→Wikipedia)を連想してしまう。太平洋戦争で外地に出征し、そのまま外地に残った将兵たち。インドネシアやベトナムで独立戦争に参加した人もいるが、山や森に潜んでいた人もいる。先の学兵くずれは、小野田寛郎少尉(→Wikipedia)より横井庄一軍曹(→Wikipedia)に近い。
横井氏の著作は読んでいないが、神子清の「われレイテに死せず」という作品がある。
ハヤカワ文庫NFで、今は入手困難だが、太平洋戦争の従軍記では抜群の面白さだ。1944年、フィリピンのレイテ島に、陸軍玉兵団が上陸する。著者は歩兵第577連隊の一員として参加するが、すぐに兵団は壊滅してしまう。原隊とはぐれた著者らは、遊兵として密林を彷徨うのである。
従軍記としては型破りな作品で、敵との交戦場面がほとんどない。内容の多くは、遊兵としてジャングルを右往左往する著者たちの冒険を描いている。途中、彼ら同様に原隊とはぐれた兵たちにも出会うが、それぞれ考え方が全く違う。敵地に取り残された兵が、何を思い、どう行動するか。
戦争が生み出すもう一つの、そして往々にして見過ごされがちな側面を、この作品は切実に訴えてくる。文句なしの大傑作なのに、あまり話題にならないし、今は入手が難しい。なんとか復活して欲しい。
ガンパレに戻ろう。この物語では今まで正体がよく見えてこなかった共生派。その内幕が少し見えてくると同時に、「共生派」という一つのくくりでは捉えきれない事がわかってくる。軍や政府が何を考え計画しようと、常にその思惑をはみ出してきた5121小隊。高山の思惑もどうなることやら。私は彼のあわてふためく姿が見たいw
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