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2015年1月 6日 (火)

ポール・ジョンソン「アメリカ人の歴史 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」共同通信社 別宮貞徳訳 4

チャールズ・ディッケンズは記している。アメリカ中西部の汽車の中で彼が何かを勘違いし、「ああ、私はよそものなので」と車掌に謝ると、車掌はこう答えた。「お客さま、アメリカの人間はみなよそものですよ」
  ――第6部 「最初の国際国家」

 アイゼンハワー(大統領)が戦争を嫌ったのは、ひとつには、「限定戦争」といわれても、それが実行可能だとは思えなかったからである。アイゼンハワーが理解する戦争では、目的は、使える手段をすべて使い、できるだけ速やかに敵の力を破壊することにある。
  ――第7部 「恐れるものは恐れのみ」

 ポール・ジョンソン「アメリカ人の歴史 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」共同通信社 別宮貞徳訳 3 から続く。この記事は1912年から1960年までを扱う、Ⅲ巻の前半が中心。

【全般】

 前巻に続き、この巻の前半は物語として気持ちがいい。前巻は貧しい青年が成功し、名士となる物語。この巻は、名士となった青年が更に努力を重ね、「どうやら私がリーダーらしい」と気づき始める、そんな物語だ。

 Ⅲ巻は第6部~第8部を収録する。この記事で紹介するのは、1912年~29年を扱う第6部と、1929年~60年を扱う第7部。

 第6部は、ウッドロー・ウィルスンの登場に始まり、第一次世界大戦から1920年代の繁栄へと続く。国際社会で政治・経済・軍事的に存在感が増すばかりでなく、文化的にも絵画・映画・ジャズなどで、世界の先頭を走り始めたアメリカが描かれる。

 第7部は、大不況による長期の低迷から始まり、第二次世界大戦とマーシャルプランによる戦後処理という大山を迎え、冷戦の勃発・NATO創設・朝鮮戦争、そしてマッカーシズムの嵐と、名実共に世界のリーダーを自覚し始めながらも、今までは小さな政府だった連邦政府が、税制の改革などで大きな政府へと変わって行く姿を描く。

 相変わらず初心者には向かない本である。それぞれの政治家に対しては、著者の保守的な観点を遠慮なく反映した評価を下す。政治家ばかりでなく、個々の政策に関しても、かなり主観的な評価を下している。判断基準が明確で評価もシロクロをはっきりつけているので、読んでいて気持ちがいい反面、「かなり偏った本だよなあ」という気持ちも抱かせる。

 評価に文章を割いている分、客観的な事実の記述の割合が少ないのも難点だろう。背景事情の説明が足りないのも相変わらず。その分、私のように「歴史はよく知らないけど現代史は多少分かる」者にとっては、尻上がりに面白くなる本だ。

 特に、この巻では、第二次世界大戦でやっと日本が登場するので、自然と読む方も熱が入ってくる。

【第6部 「最初の国際国家」 1912―29年】

 今までのアメリカは、ひたすら拡大をめざす極端な自由主義の小さな政府だった。ここでは、大きな政府へと変わって行くきざしから始まる。1913年に所得税を導入するのである。といっても、「3000ドル以上(夫婦には4000ドル以上)の課税対象となる純所得に1%」。その軽さにクラクラしてくると同時に、それまで所得税がなかった事にも驚く。天国だね。

 ただし、オチもつく。「第一次世界大戦が勃発すると新しい税制には恐るべき可能性があることがわかった。最高税率が一気に77%まで上昇したのだ」。税金ってのは、新しい税を導入するのは難しいけど、導入しちゃえば税率を上げるのは簡単なんです。

 そうこうしているうちに第一次世界大戦が始まる。当事の大統領ウッドロー・ウィルソンは、国際連盟の提唱など人道的な印象が強いが、参戦に際しては実際的な政治家の面を見せている。「1918年1月8日に、アメリカの戦争目的を14カ条として発表した」。参戦の目的をハッキリさせたのだ。

そもそも戦争とは何だろう?私はクラウゼヴィッツの定義を支持してて。「戦争とは政治的な目的を武力で実現する事だ」とする立場。だから、開戦前に、政治的な目的と、達成すべき軍事的な目標を、ハッキリ示す必要がある、と思ってる。ウィルソンは、この「政治的な目的」をハッキリ示したわけ。

 かくして、「1917年1月のアメリカ軍の兵力は20万だった。それが戦争終結時には、ウィルソンの尽力で400万以上」と急膨張、西部戦線のバランスを逆転させてゆく。

 今までは無制限に移民を受け入れてきたアメリカが、制限し始めるのもこの時期。「1921年の割当移民法」で、「無制限の大量移民の時代は終わった」。(白人なら)誰もがアメリカ人になれる時代は終わり、「生粋のアメリカ人」が大勢を占める時代になったのだ。

 独自の文化も生まれ、育ってくる。フィラデルフィアの画家トマス・エーキンズ曰く。

「もしアメリカから偉大な画家が生まれたるとしたら、そしてもし若い画学生がアメリカの美術史においてある位置を占めたいと願うならば、その第一の願望は、アメリカにとどまってアメリカ生活の真髄を熟視することであるべきだ」

 話は悪名高き禁酒法へと向かうが、そのプロローグが面白い。「コークとペプシ」だ。コークの始祖はジョン・スタイス・ペンバートン、ペプシはケイレブ・D・ブラダム。いずれもドラッグストアの店主で、「19世紀のドラッグストアの主人はすべてといっていいほど、アルコールが大嫌いだった」「真の敵、つまり悪魔は、蒸留酒だった」。コーク杯は邪道なんです。

 問題の禁酒法は、犯罪組織を育ててしまう。禁酒法以前、ワシントンの合法な酒場は300軒だったのが、もぐり酒場700軒に増える。酒の密売に必要な広域の輸送ルートは、賭博・売春・麻薬などにも利用され、今のマフィアの基盤となってしまう。

 ハリウッド・ジャズ・ラジオと、アメリカの繁栄を象徴するシンボルは多いが、私はブルースとジャズの対照に興味を惹かれた。

最初のラグタイムのシートミュージックは二年後に出版されている。その形態がととのってからおよそ十年後のこと。ブルースとは対照的で、ブルースは初めて歌われてから少なくとも半世紀は楽譜に記されなかった。

 この本、ジャズに多くの頁を割きつつ、ブルースにはほとんど触れてないけど、その言い訳なんだろうか。

【第7部 「恐れるものは恐れのみ」 1929―60年】

 大きな政府への転換が、更に加速するのが、第7部。第不況で幕を開け、ハーバート・フーヴァーとフランクリン・デラノ・ローズヴェルトの介入政策の苦闘を描いてゆく。

 著者の姿勢がハッキリわかるのは、このあたりから、ニューディール政策(→Wikipedia)には今でも賛否両論があるけど、著者は「恐慌を長びかせただけ」と強く批判している。フーヴァーの最低賃金の保証も、「失業者が増えてるだろ」と手厳しい。

 そして太平洋戦争へと突入してゆく。日本人としては、著者の立場が気になる所。

 ここでは「もしかしたら戦争は避けられたかもしれない」と、興味深い説で始まる。1941年当事のドイツはイケイケだったが、やがて東部戦線は膠着状態になる。日本にも山本五十六など日米の戦力差を冷静に判断できる者もいたし、ドイツの足踏みを見れば躊躇したんじゃね?と。

兵站の専門家、岩畔大佐の報告には、日本とアメリカの甚だしい生産力格差――鉄鋼20:1、石油100:1、石炭10:1、航空機生産5:1、造船2:1、労働力5:1、全体では10:1――が示されていた。

 絶望的な戦力差だなあ。そもそも、当事の帝国陸海軍は、どんな軍事目標を達成するつもりだったんだ?←ニワカとはいえ軍ヲタのくせに、そんな事も知らんのか俺は

 真珠湾攻撃に関しては陰謀論もあるけど、著者は王道の立場で、「陰謀なんかなかった、ローズヴェルトは不意をつかれた」としている。

 帝国陸海軍に関しては、「日本の戦争準備の特徴は、息をのむような手際のよさと説明のつかない混乱が結びついている」。真珠湾攻撃には「大胆さといい複雑さといい、この種の作戦としては史上類を見ない」と評価しつつ、「新たな占領地を防衛する長期的構想といえるものは日本側には見られなかった」。詳細は大井篤の「海上護衛戦」を参照。

 著者はローズヴェルトに厳しく、トルーマンを高く評価している。先のニューディールばかりでなく、ローズヴェルトの評価を下げたのは、スターリンに手玉に取られた点。「奴の強欲を甘く見た」という評価。対して、厳しく対立姿勢を打ち出し、冷戦を形作ったトルーマンを、国際情勢に精しい現実主義者としている。

 ローズヴェルトの死去・トルーマンの登場を経て、ついに原爆が登場する。ちなみにドレスデン空襲や東京大空襲にも、ちゃんと触れてます。で、原爆に関しては…

トルーマンはそのときもその後も、自分が原爆の使用を決定したのは正しかった、それどころか避けられなかった、と頭から思い込んでいただけではなく、爆弾を落としたおおかげで、連合軍と日本とを問わず無数の生命が救われた、と死ぬ当日まで信じていた。歴史的証拠を研究した者はほとんどがこの考えに賛成している。

 これに同意する日本人は少ないだろうなあ。実は私、部分的に同意する珍しい種類の人なんだけど、自説は別の記事に書きます。

【終わりに】

 やはり日本が関わってくると興味深く、長い記事になってしまった。この本の紹介は、で終わります、たぶん。

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