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2015年1月 4日 (日)

ポール・ジョンソン「アメリカ人の歴史 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」共同通信社 別宮貞徳訳 3

 アメリカとは交渉によって結ばれた合意や協定、勅許や盟約でつなぎ合わされた人為的な国、あるいは州の集合体といえよう。つまり法律家のお膳立てと契約書という紙切れによって成立したのである。
  ――第4部 「あと少しで選ばれた人民に」

ニューヨークはオランダ人の町として始まり、それから主にイギリス人の都市として拡大し、さらに19世紀には多民族都市へと広がっていった。ドイツ人やとりわけアイルランド人に大いに気に入られ、次いで、東ヨーロッパからイタリア人やギリシア人やユダヤ人が入ってくる番になる。
  ――第五部 寄り添う群衆と金の十字軍

 ポール・ジョンソン「アメリカ人の歴史 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」共同通信社 別宮貞徳訳 2 から続く。この記事は1815年から1912年までを扱う、Ⅱ巻が中心。

【全般】

 物語としては、気持ちのいい巻だ。人物の伝記に例えると、こんな感じだろう。貧しい青年が努力の末に事業を始め、巧く回り始める。しかし幼い頃の悪事が元で破産。心機一転して再起をめざす。がむしゃらに働き、気がつけば名士として重要な責務を担う事を期待される立場になっていた。そんな感じだ。

 この巻は、第3部~第5部を収録する。第3部は1815~50年。広大な土地を元に大量の移民を受け入れ、西へ西へとアメリカが広がって行く姿を描く。第4部は1850~1870年、合衆国最大の悲劇である南北戦争を扱う。第5部は1870~1912年、戦後の大復興により大国へと成長し、それを自覚し始めるアメリカの姿だ。

 イギリスの教養人が書いた本のためか、初心者には少々不親切な本だ。前巻から「ルイジアナ購入(→Wikipedia)」とあるが、このルイジアナは現在のルイジアナ州ではない。ミシシッピ川を東端として、カナダ国境に接する現ミネソタ州から現モンタナ州を含みロッキー山脈あたりを西端とする、北米大陸中央の広大な地域を示す。

【第3部 常にそこそこの幸福感 1815-50年】

 ルイジアナ購入で西への窓が開かれたアメリカが、広大な土地を征服してゆく様子を描くのが第5部。なんたって税金が安い。なんでそれで政府が保つのかというと、土地を売るから。しかも大安売り。無限(に思える)土地を投売りして、それでも政府の懐は持ったのだ。

 問題は、いくら移民が来ようと、人が足りない事。そこで省力化のために機械化が進む。1794年にイーライ・ホイットニーが特許を取った綿繰機は、綿花の長繊維と種を分ける機械だ。これにより、従来は生産量が一人一日1ポンドだったのを、一人一日50ポンドに引きあげる。

 ちなみにホイットニー氏、機械部品の規格化にも尽力し、大量生産の礎を築いている。電池の大きさがメーカーごとに違ってたら、どうなると思います? どのメーカーのどの電池も、単三なら単三の大きさとボルト数になる。こういう統一された規格があるから、我々は楽に電池交換できるんだし、メーカーも大量生産できて値段が安くなる。規格化こそが安く大量生産するキモなわけ。

 政治的では1825年に民主党を結成している。これが奇妙な事に、当事の民主党は南部を地盤としてた点。奴隷制を擁護するアンドルー・ジャクソンを1828年の大統領選に勝たせるために出来たとか。

 やがて広大な土地を結ぶため鉄道建設が盛んになり、付随して電信網も広がってゆく。メキシコとの戦い(→Wikipedia)でテキサスとカリフォルニアを併合、太平洋への出口を確保する。しかし、建国当時から足元に刺さった棘、奴隷制が国土を二つに引き裂き…

【第4部 「あと少しで選ばれた人民に」 1850-70年】

 ここでは南北戦争を中心に、終戦後の立ち直りを描く。南部を地盤とする民主党に続き、共和党が奴隷制に反対する北部で立ち上がるのだ。現代とは逆なのが面白いが、逆転するのは第Ⅲ巻らしい。

 18960年の調査だと、南部の白人は約810万人、奴隷395万人。だが奴隷を持つ白人は約38万人。大半の白人は貧乏で奴隷を持たないのに、奴隷制に賛成だった。理由は、自由になった奴隷に職を奪われるから。いつの時代も貧乏人の大半は保守的なんだなあ。

 機械化が進む北部と遅れた南部。この違いはプランテーションにある、と著者は語る。「世界市場の相場が上がると利益もあがったが、その場合儲けた金を生産増加に回すことになりがちだった」。まあ、これはどんな事業主でも似たようなもんで、飲食店で儲けた店主は支店を出そうとするような感じかな?

 この本にある南北の国力の差は凄まじい。北:南の順で、16歳~60歳の自由な男性は4.4:1,工業生産高10:1,鉄15:1,石炭38:1,銃火器32:1,小麦412:1,とうもろこし2:1,繊維製品14:1,商船総トン数25:1,資産3:1,鉄道施設距離2.4:1,耕地面積3:1。

 著者は南軍が負けた理由を色々と書いているが、上の数字で既に結果が出てると思う。長びいた理由は単純だろう。南部にとっては独立戦争で、自国を守れば勝利だ。敵を壊滅させる必要はない。北部は南部を制圧せにゃならん。前線は遠ざかり補給線は延びる。勝利条件は北部の方が厳しいのだ。

 終戦後、大統領リンカーンは南部に寛容な姿勢を示す。要求は奴隷解放だけにして、国家統一を最優先した。後、「クー・クラックス・クランが誕生したのは1866年から71年にかけて」なんて遺恨も残るし、完全な平等は1964年の公民権法(→Wikipedia)まで待たなきゃいけないんだけど。

【第五部 寄り添う群衆と金の十字軍 1870-1920年】

 戦争も終わり、再び人は西へ西へと向かう。ここでは、アメリカの複雑怪奇な警察制度(→Wikipedia)の成り立ちが想像できる。日本だと自治体の治安は県警が担うが、アメリカは保安官だったり市警だったり。これは成立事情によるもので、開拓時代は地域で自警団を作り守ってた。これが現在まで引きつがれてるわけです。

 広い国土に人が分散してるんで、交通機関を整備せにゃならん。ってんで、まずは鉄道が発達しはじめる。これも日本と異なり私鉄が先導してる。資本は州の助成金や海外の投資に頼り、「19世紀の終わりには、70億ドルの株を外国が保有」してたけど、第一次世界大戦でチャラに。

 産業も興隆したにも関わらず、著者の政治家に対する評価は厳しい。「リンカーンとセオドア・ローズヴェルトの間に、ホワイトハウスを占有した人物はすべて二流である」。かわりに持ち上げているのが、鉄鋼王アンドルー・カーネギーや投資家J・ピアポンド・モーガン、通販王リチャード・ウォレン・シアーズなど。

 シアーズの物語はわかりやすい。交通機関が整備されていない当時じゃ、家電を買うのも一苦労だ。消費者は複数の店を見て回る閑なんかないから、自由競争の原理が働かない。そこでシアーズの通販。全国的に安い統一価格で売る。安さが半端ない。従来製品の1/3~1/6だ。扱うのは時計からはじめミシン・自転車・乳母車・二輪馬車・ストーブ…

 なぜそれでメーカーが納得したかというと、シアーズの圧力もあるが、「製造業者に安心できる市場を提供した」から。ここで気の利いたジョークが一つ。

「ロシアの共産党員に本を一冊送るとしたら、何を送ります?」
フランクリン・D・ローズヴェルト「シアーズ・ローバックの通販カタログ」

 T型フォードの物語も同じテーマを強調している。自由競争と規格化と大量生産、そして発達を続ける輸送網が、次々と新製品を生み出し、競争で価格が下がり、我々の生活が便利になると共に、生産が効率化して更に経済が発展してゆく。

 この陰には、「富裕なアメリカ人の労力節約の欲求」がある、と著者は主張している。効率化を追い求める性質だ。長時間働かせる事ばかりに熱心な日本の経営者もブツブツ… 

【その他】

 この時期、日米関係では最大級の事件である黒船襲来(1853年~1854年、→Wikipedia)が起きているのだが、本書は全く触れていない。西欧人から見た極東は、その程度のモノなんだろうか。まあいい。

 当事の合衆国は南北戦争(1861~1865年)の直前で、合衆国内部は南北の対立でガタガタだった。幕府が巧く誤魔化せば南北戦争終戦まで交渉 を引き伸ばせただろう。そういった弱みを全く見せず強気で交渉に臨んだペリーは、なかなかの外交巧者だろう。お蔭で日本は維新の準備に時間をかけられたん だけど。

 その代わりといっちゃなんだが、ハワイを飲み込む過程を1~2頁で描いている。1780年代から商人や猟師がハワイに訪れ、宣教師も進出する。 19世紀後半のアメリカは己の成功を自覚しはじめ、成功の原因はプロテスタンティズムにあると思っていた。そしてアジア各国を教化すべく、熱心に宣教師を 送り出している。

 ハワイでも、アメリカ人は読み書きや自由主義、そしてキリスト教を熱心に伝える。1891年にハワイの支配者リリウオカラニ女王が反動的な動きを 見せると、現地のアメリカ人が合衆国海軍の後ろ盾で暫定政権を樹立、やがてアメリカがハワイを吸収する。「アメリカは、良心のとがめを克服するかわりに、 パールハーバーの海軍基地を獲得したのである」。

 一歩間違ったら、日本もハワイと同じ運命を辿っていたかもしれない。実に危ういタイミイングだったと思う。

 また、著者は作家ヘンリー・ジェイムズ(→Wikipedia)に妙な執着を見せるのがおかしい。アメリカ生まれだがイギリスで活躍したジェイムズに対し、「あなたはアメリカが嫌いだけど俺はアメリカ大好きだぜ」とチクチクと嫌味を飛ばしている。何か因縁でもあるんだろうか。

【終わりに】

 という事で、次はいよいよ激動の20世紀、アメリカが超大国に成り上がる第Ⅲ巻へと続く。

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