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2015年1月 2日 (金)

ポール・ジョンソン「アメリカ人の歴史 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」共同通信社 別宮貞徳訳 1

「個人の利益以外の原理に従うように期待することは、いまだ前例のないことを求めるもので、残念ながら今後も実現しないだろう。……それゆえ、公平無私の原則に立って行動する人は、割合で言えば、ほんの大海の一滴に過ぎない」
  ――ジョージ・ワシントン

【どんな本?】

 イギリスの歴史家による、アメリカ合衆国の歴史書。時代的には大航海時代の序曲である14世紀から始まり、1997年のビル・クリントン政権までを扱う。

 既にソビエト連邦が崩壊した今日では、地球上の唯一の超大国となったアメリカ合衆国。それは政治力・経済力・科学力・軍事力など多くの点で、他国を圧倒する力を誇っており、また合衆国内で起きた三面記事的な事件は世界中の話題となるように、文化面での影響力も大きい。

 第一次世界大戦・第二次世界大戦ではなかなか参戦しようとしない、孤立主義の側面を見せた。TPP に象徴されるように、経済活動の自由化に熱心な側面もある。Amazon や Google など、新進の意欲に富む企業も多い。その反面、福音主義者など熱心な宗教信者も多く、モルモン教徒が作ったユタ州などもあり、アーミッシュも手厚く保護している。

 自由と民主主義を尊び、起業を奨励しながら、保守的な宗教意識も見せる。巨大な軍事力を持ちながら、小さな政府を志向する。愛国心を訴えつつ、独立独歩の姿勢を好む。植民地から出発して、世界をリードする先進国となった珍しい国でもある。

 アメリカ合衆国は、なぜこのように複雑な性格を持つようになったのか。先達となった植民者たちから独立・建国、そして悲劇的な内戦の南北戦争などを経て現在に至るまでを辿りながら、超大国アメリカが独特の思想を持つに至った道筋を解き明かして行く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は A History of the American People, by Paul Johnson, 1977。日本語版は2002年7月30日第1刷発行。単行本ハードカバー3巻、縦一段組みで本文約411頁+522頁+520頁=1453頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント46字×19行×(411頁+522頁+520頁)=約1,269,922字、400字詰め原稿用紙で約3175枚。文庫本なら6冊分の巨大容量。

 日本語の文章は比較的に読みやすい。ただし、内要は素人には少々厳しい。歴史の教養が豊かな著者による作品だけに、序盤は西洋史、特にイギリス史の知識がないと、外交面での背景がわかりにくい。全般的に、著者は背景事情の説明を忘れがちな傾向がある。

【構成は?】

  •   第Ⅰ巻
  • まえがき
  • 第1部 「丘の上の町」 植民地時代のアメリカ 1580―1750年
    コロンブスのr探検/スペイン、ポルトガルの来襲/ローリーの植民計画/インディアンと衝突/ロアノーク植民地の失敗/「神の選民」による建設/ジェイムズタウン創設/二方向への分岐/メイフラワー号/初代総督ジョン・ウィンスロップ/約束の地/トウモロコシとタバコ/ニューイングランドの神権政治/自由と宗教/代議制と権威主義/ロジャー・ウィリアムスの逃亡/ロードアイランドの創立/アン・ハッチソンの場合/ハーヴァード大学創立/カトリックの進出とメリーランド/信教自由/初期植民地の構造/フィラデルフィアの発展/ピューリタンの政治理論/職人たちの活躍/移植されたイギリスの政治風土/奴隷州カロライナ/慢性的な貨幣不足/ピーコット戦争/ベーコンの反乱とフィリップ王戦争/セーラムの魔女狩り裁判/コットン・マザーの悲劇/最初のフロンティア/オーグルソープとジョージア/人口の急増と経済発展/イギリス当局の認識不足/好景気にわく都市/豪壮な邸宅/総督の役割/植民地議会と憲法/大覚醒運動/独立革命への影響
  • 第2部 「憲法の自由が堅く守られんことを」 革命期のアメリカ 1750―1815年
    ジョージ・ワシントンの登場/フランスとの七年戦争/雪と砂糖の交換/お粗末なイギリス首脳部/インディアン優先の国王宣言/反イギリスへの傾斜/印紙税への反発/ベンジャミン・フランクリンの役割/広がる暴動/ボストン茶事件/トマス・ジェファソンの生い立ち/ノルマンのくびき/大陸会議/ワシントンが総司令官に/トマス・ペインの「コモンセンス」/独立宣言/マサチューセッツ憲法/連合規約/持久戦に持ち込むワシントン/フランクリン使節団/戦争終結と講和会議/アメリカ革命の影響/忠誠派と愛国派/戦争と女性/ワシントンの軍務引退/ふつうの人にも最高のものを/ハミルトンの憲法構想/マディソンの役割/憲法制定会議/三つの妥協/開かれた批准手続き/権利章典/上院と下院/市民権と参政権/衆愚政治の脅威/宗教の役割と憲法/修正第一条/ハミルトンと連邦財政/ジェファソンとハミルトンの対立/ワシントンの政治手腕/二期目の混乱/告別の辞/第二代大統領ジョン・アダムズ/ジョン・マーシャルが司法長官に/資本主義の推進者/アダムズへの攻撃/理想主義者ジェファソンの二面性/モンティセロの奇怪な邸宅/大統領への手紙/ルイジアナ購入/不評を買った出港禁止法/マディソンの失策/米英戦争の勃発/ワシントンの新兵器/ワシントン陥落/救いの神アンドルー・ジャクソン/インディアン殲滅戦/ニューオリンズの戦い/ヘント条約
  • 出典注
  •   第Ⅱ巻
  • 第3部 常にそこそこの幸福感 民主主義のアメリカ 1815―50年
    高い出生率と移民の流入/初の経済危機/驚くべき土地の安さ/開発と自由競争/第二次覚醒運動/新しい宗派/カトリックとユダヤ教/ホイットニーの綿操機/南部と奴隷制/ジョン・カルフーンの場合/ミズーリを巡る争い/ヘンリー・クレイの役割/モンロー宣言/ジャクソン流民主主義/1824年の大統領選/民主党の結成/官僚型政治家ヴァン・ビューレン/ジャクソン政権の誕生/ペギー・イートン事件/台所内閣への批判/ジャクソン主義とは何か/チェロキー共和国の興亡/銀行への嫌悪/恐慌の到来/農業革命とその背景/工業化の進展/交通・輸送手段の発達/マニュフェスト・デステニー/テキサス独立/ポーク大統領の野心/メキシコ戦争/カリフォルニアの魅力/ゴールドラッシュとその後/アメリカ風ユートピア/ツクヴィルのアメリカ視察/学校改革/「大妥協」から℃レッド・スコット裁判まで/テイラーとフィルモア/ウェブスターの「アメリカ英語辞典」/アメリカ文学の誕生/エマソンと超絶主義/ロングフェローとポー/ホーソーンとホイットマン/アメリカ文学の成熟
  • 第4部 「あと少しで選ばれた人民に」 内戦期のアメリカ 1850―70年
    南部を支援したピアス政権/カンザス・ネブラスカ法案/ブキャナンと危機の高まり/リンカーンの経歴/奴隷制とリンカーン/ダグラスとの討論/1860年の大統領選挙/ジェファソン・デイヴィスの経歴/南部のメフィストフェレス/南部の分離宣言/戦争前夜/不利だった南部/デイヴィスの失策/合衆国の統一が最優先/奴隷解放宣言/ブルランの戦い/ジャクソンとモスビー/ゲティスバーグの戦い/グラント将軍の活躍/二期目のリンカーン/戦争による苦悩/発展する西部/勝利と悲劇/黒人問題の始まり/アンドルー・ジョンソンと南部再建/大統領弾劾
  • 第5部 寄り添う群衆と金の十字架 産業化とアメリカ 1870―1912年
    大量移民の群れ/牧畜業の発展/追いやられるインディアン/フロンティアの意義/西部開拓の時代/大陸鉄道網の建設/追剥成金の時代/グラント大統領の苦境/クレディ・モビリエ社事件/二流の大統領たち/鉄鋼王カーネギー/モーガンとウォール街/モーガンの功績/労働組合とストライキ/急発展するシカゴ/超高層化するニューヨーク/都市の豊かさと貧しさ/エディソンとティファニー/電気と光の芸術/風景画の革新/カントリーハウスの流行/大量生産と大量販売/クリーヴランドからマッキンレーへ/アメリカの社会主義/ロックフェラーとスタンダード石油/T型フォードの登場/人民主義と帝国主義/米西戦争/セオドア・ローズヴェルトの時代/ビッグ・スティック/タフト政権
  • 出典注
  •   第Ⅲ巻
  • 第6部 「最初の国際国家」 人種のるつぼアメリカ 1912―29年
    ウッドロー・ウィルソンの登場/教育の近代化とアイヴィー・リーグ/幸先よいスタート/増大する政府の役割/財政長官マカドゥー/第一次世界大戦の勃発/アメリカの参戦/平和のための「14カ条」/ヴェルサイユ条約の悲劇/認められなかった国際連盟加入/ハーディング政権の誕生/女性にも参政権を/男女平等権プロジェクト/黒人排斥と集団的大移動/ハーレムの発生/メルティング・ポット/初の移民制限/ミドルアメリカの文化/コークとペプシ/禁酒法という正義/犯罪組織の成長/「悪徳の町」サンフランシスコ/新聞王ハーストの豪邸/カリフォルニア・ドリーム/完全電化の州/映画の都ハリウッド/建築家ライト/ウォルト・ディズニーの活躍/ジャズの発祥/フォスターとスーザ/ラグタイムの広がり/「黒人音楽」への偏見/下降思考の誘惑/ハーディングの判断ミス/歴史のでっち上げ/クーリッジの「法律至上主義」/沈黙の美徳/1920年代の経済繁栄/突然の引退/消費者ブームの到来
  • 第7部 「恐れるものは恐れのみ」 超大国のアメリカ 1929―60年
    連邦準備銀行の設立/経済の膨張/ウォール街の暴落/なぜ大不況は長期化したか/フーヴァーが大統領に/偉大な技術者の失敗/作家・知識人の左傾化/恩給遠征軍/フランクリン・ローズヴェルトの登場/1932年の大統領選/ニューディールの神話/テネシー川流域開発公社/遅れた景気回復/ローズヴェルトと知識人/民主党を多数党へ/裁判所改組法案/孤立主義と国際主義/日本との対決/中立法の影響/真珠湾攻撃/戦時経済の奇跡/情報戦の勝利/ヨーロッパ解放宣言/スターリンの野望/トルーマンの経歴/軍歴と地方政治の経験/核兵器の使用許可/広島そして長崎/ソ連による挑発/チャーチルの「鉄のカーテン」演説/トルーマン・ドクトリン/マーシャルとヨーロッパ復興計画/支持されたトルーマン/NATO創設/イスラエルの誕生/朝鮮戦争の勃発/マッカーサー解任/アイゼンハワーの時代/秘められた政治力/マッカーシズム/ミルズらの通俗社会学/ポトマック河畔の敬虔な心
  • 第8部 「いかなる犠牲をも払い、いかなる重荷をも担う」 問題を解決しては生み出すアメリカ 1960―97年
    メディアと世論形成/ジョー・ケネディの影/1960年の大統領選/キャメロット神話/アポロ計画/ピッグズ湾侵攻の失敗/キューバ・ミサイル危機/ケネディ暗殺事件/ジョンソン政権の発足/「偉大な社会」構想/ドミノ理論/泥沼のヴェトナム戦争/高まる戦争反対の声/ジョンソンの退陣表明/ニクソンとキッシンジャー/公民権運動/新左翼と学生暴動/「ニクソン・レジーム」への攻撃/ペンタゴン文書の漏洩/ウォーターゲート事件をめぐる攻防/辞任するニクソン/権力のバランスが議会に/カーターの無分別な冒険/冷戦の広がり/アメリカ経済の相対的衰退/フロストベルトからサンベルトへ/1980年の選挙戦/「冗談王」レーガンの勝利/レーガノミックス/軍備拡張計画/自壊する「悪の帝国」/湾岸戦争/ブッシュからクリントンへ/クリントン政権の腐敗/多様な民主主義国家/都市化と地域集団化/アンドルー・ワイエスの世界/拡大する貧富の差/増大する法律家の影響力/ミュルダールの乱暴な議論/逆人種差別的アプローチ/「政治的公正」病/法律無視の司法裁定/急速に増大する暴力犯罪/信仰心への攻撃/家庭の崩壊/未来を開く女性たち/終わりに
  • 出典注/訳者あとがき/総索引

 歴史書なので、基本的には頭から読んだほうが分かりやすい。が、Ⅲ巻に関してなら、現代史をある程度知っていれば、面白そうな所だけを拾い読みしても、意外と楽しめた。

【感想は?】

 書名が「アメリカ人の歴史」だ。「アメリカの歴史」ではない。これは巧いタイトルだと思う。

 今はⅡ巻の冒頭までしか読んだ所だ。そこまででも、現代のアメリカ人の気質が、どのように出来上がってきたのか、うっすらと分かった気になる。

 歴史の解釈は政治的な立場を反映する。著者は民主主義を賞賛しながらも、保守的な視点の持ち主だ。特にⅢ巻では露わで、共和党を強く支持している模様。そのため、リベラルには少々面白くない本かもしれない。

 歴史書には、様々なスタイルがある。ひとつは司馬遷の「史記」の様に、人物を中心としたものだ。その対極に位置するのが、ウィリアム・H・マクニールの「世界史」のように、気候風土・地形・技術・産業を中心としたもの。中間に位置するのが、ギボンの「ローマ帝国興亡史」のように、事件・事変や社会構造を中心としたものだろう。

 現代の歴史学は、マクニール寄りだろう。そういう視点で見ると、この本はマクニールとギボンの中間ぐらいに位置している。現代の基準からすると、やや保守的な立場だ。

 書名どおり、人物に関する記述が最も多い。特に政治家の記述が中心である。この点は「歴史は人が作る」とする史記に近い。二院制の議会を持ちながらも、大統領に強大な権限が集中する構造のため、大統領の決断が国家の行方を大きく左右する合衆国の歴史を描くには適しているし、人が中心だとドラマとして面白いというオマケもついた。

 次に社会構造に関する部分で、これがアメリカ人・アメリカ社会が示す独特の姿勢を理解する優れたヒントとなっている。なぜ自由を尊重するのか、なぜ小さな政府を志向するのか、なぜ起業家が多いのか、なぜ拝金主義なのか。なぜアーミッシュやユダヤ人を保護するのか。

 これは建国の事情が大きく関わっているのだ。ということで、建国の様子を描くⅠ巻は、次の記事に続く。

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