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2014年12月28日 (日)

2014年面白かった小説3ノンフィクション3

 改めて今年に読んだ本を眺めていくと、ベスト3を選ぶのは難しい。選ぼうとすると、アレもコレもということになって、いつまでたっても絞れない。迷っていてもキリがないので、思い切って気分で選んだ。明日選んだら、ガラリとメンツが変わると思う。最初は順位をつけようと思ったが、それだと更に悩むので、羅列するだけにした。

【小説編】

飯干晃一「仁義なき戦い 死闘篇・決戦篇」角川文庫
 惜しくも亡くなった菅原文太アニキの映画で有名な「仁義なき戦い」シリーズの原作本。戦後の広島を舞台に繰り広げられた広島抗争を題材に、当事の暴力団の実体を生々しく描いたドキュメンタリー・ノベル。元暴力団員の手記を元に、元新聞記者の著者が綿密な取材で肉付けし、小説の形で発表した作品。
 ドキュメンタリーにすればいいものを、なぜ創作を交え小説にする必要があるのか。読む前の私は、そんな疑問を持っていた。だが、読んで納得した。迫真性だ。その時、彼は何を食べていたか。どんな服装をしていたか。事実を書くだけなら、それはどうでもいい。だが、こういった細かい部分をキチンと肉付けすることで、物語として俄然面白くなり、主題が大きく浮き上がってくる。
 では、この作品のテーマは何か。それは、ヤクザの生態と社会だ。組の組織は、どのように構成されているのか。ヤクザ同士の抗争は、どのように起こり、どう発展して行くのか。組員たちは、誰とどう付き合っているのか。暴力団と政治家・芸能人の関係は。そして、戦後の暴力団がどう勃興し、広域化していったのか。
 暴力団という極端な世界を描きながらも、それは同時に戦後の日本の社会を形作る大きな要因の一つであることが、この本でわかる。迫力・面白さともに逸品で、話題性のみならず娯楽性も豊富な傑作。
ネイサン・ローウェル「大航宙時代 星界への旅立ち」ハヤカワ文庫SF 中原尚哉訳
 最初はオーディオブックとして出版され、後に書籍となった異色の経歴の長編SF小説。舞台は人類が恒星間航行を得て、多くの恒星系に滲出した未来。大学教授の母と二人で暮していた18歳のイシュメール・ホレイショウ・ワンは、事故で母を失うと共に、家も失う。食うために商船員となったイシュメールの旅立ちを描く。
 ジュブナイルと言っても差し支えないくらいに、まっすぐで気持ちのいい小説。シリーズ物の開幕編らしく、お話はこの後も続くのだが、この一冊だけでも一応は完結している。
 特に激しいバトルやアクションがあるわけでもなく、身寄りのない少年が身一つで潜り込んだ商船内の生活を描いているだけなのに、不思議とワクワクして続きが読みたくなってしまう作品。たぶん、合衆国沿岸警備隊勤務の経験を活かし、丁寧に書き込んだ船乗りたちの社会や、その生活風景が生きているんだと思う。
 と同時に、これを選んだのは、私の趣味も影響してる。やっぱり明るく読後感が爽やかな話が好きなんだ、私は。
藤井大洋「オービタル・クラウド」早川書房
 Gene Mapper でデビューした新鋭SF作家による、至近未来のテクノ・サスペンス。地球の低軌道を周回する大型の遺棄物の、理屈では説明のつかない異様な軌道の変化をキッカケに、全世界規模で仕掛けられた罠と、それに関わる技術者たちの姿を、ガジェット・社会ともにリアリティたっぷりに描いてゆく。
 実はとってもレビューしにくい作品。というのも、作品のメイン・ディッシュは技術的な仕掛けにあるにも関わらず、お話の進め方がスリラーなので、仕掛けを紹介するとネタバレになってしまうからだ。その仕掛けの多くは、普通に読めば「あ、これは何かの伏線だな」と分かるように書いてある。が、どういう仕掛けなのかが重要で、かつ抜群のリアリティを持つ面白さなのだ。
 と同時に、なぜアメリカが技術の分野でトップを走り続けているのかを、わかりやすく説明してくれる小説でもある。Google・Amazon・Facebook・Twitterなど、世界規模でヒットするサービスを、なぜアメリカばかりが生み出すのか。
 などと小難しい事は一切考えないでも、もちろん文句なしに楽しめる。臨場感がありながら壮大な夢を見せてくれる、今年最高に気持ちのよかった小説。

【ノンフィクション編】

中村明一「倍音 音・ことば・身体の文化誌」春秋社
 ヒトは声を聞いただけで、誰の声か聞き分けられる。最近のカラオケは採点機能なんてのがついてるけど、高得点をあげる人と、聞いて「上手だなあ」と思う歌は違う。それは何が違うのか。音楽の持つ不思議な魅力を、倍音構成をキーとして解剖しつつ、比較文化論にまで発展させてゆく、音楽と科学の楽しさが詰まった一冊。
 「音楽を科学で分析するなんて、無粋なことをするもんだ」と思う人もいるだろう。でもご安心を。この本を読んでから美空ひばりの「川の流れのように」を聴くと、彼女の芸の凄まじさが改めて実感できるから。ホンモノの芸は、タネが割れるとつまらなくなるどころか、逆に凄みが増すのだ。
ジョナサン・ハイト「社会はなぜ左と右にわかれるのか」紀伊國屋書店 高橋洋訳
 一般に保守系の政党は愛国心や秩序を重んじ、リベラルは思いやりや福祉を重視する。2ちゃんねるでは無神論者と宗教信者が罵り合っている。「正しさ」の基準が、なぜ人によってこれほどまで違うのか。なぜ政治信条や宗教が、会話ではタブーなのか。そして、福祉を重視するリベラル系の政治勢力が、その恩恵を受けるはずの貧困層に、なぜ支持されないのか。
 この本のテーマはヒトの倫理観、つかり善悪の基準だ。それをヒトはどうやって決めているのか。多くの実験や統計を通し、この本は唖然とする結論に辿りつく。ヒトは「理性の尻尾を振る直感的な犬」である、と。その上で、なぜこんなにも人により善悪の考え方が違うのか、その原因を探ってゆく。
 無神論者のリベラルが書いた、哲学と倫理と政治に関する本だ。だが、その内容は比較的に中立的だと思う。つまり、保守的な考え方や宗教にも価値がある、という結論である。ただ、その理由は相当にヒネくれていて、それだけにエキサイティングな内容だ。「正義とは何か」に興味があるなら、是非読んで欲しい。
ノーマン・デイヴィス「ワルシャワ蜂起1944」白水社 染谷徹訳
 1944年夏。スターリングラードを境に敗走を続けるドイツ軍と、それを追走するソ連軍は、ポーランドの首都ワルシャワの東にまで迫る。長くナチス・ドイツの支配下にあったポーランド国民は、自らの国と自由を取り戻すために、戦車を擁する強力なドイツ軍に対し、火炎瓶と小銃で立ち上がる。だがそれは、1989年まで続く悲劇の始まりでしかなかった。
 第二次世界大戦において連合国として英国と共に戦い、多くの犠牲を払いながらも、戦後はソビエトの支配下に置かれたポーランドの人びとの、英雄的な戦いと悲劇的な戦後を描く、迫真の戦争ドキュメンタリー。
 この本を読むまで、私はポーランドについて何も知らなかった。第二次世界大戦で、ポーランドは連合国の一員として戦ったのだ。にも関わらず、戦後は東側の一員として組み込まれてしまう。ポーランド人の意思とは関わりなく。
 ナチス・ドイツがバルバロッサ作戦で何を成し遂げようとしていたのか。その実体が、この本を読めば否応なしに飲み込めてくる。日本同様に枢軸側の国であるためか、日本ではあまり悪く言われる事はないだけに、我々日本人が戦慄する事柄を容赦なく描き出してゆく。
 と書くとサヨク的なようだが、とんでもない。特に下巻では、ソ連の狡猾で陰険な手口を、余すことなく描き出してゆく。一時期は国家存亡の危機にまで追いやられたソ連だが、スターリンの強欲さはハンパじゃなかった。
 あの戦争は、どんな戦争だったのか。ドイツとソ連は、何を目論んでいたのか。そして、国家を占領されるとはどういう事なのか。政治家や軍人だけでなく、ワルシャワに住む人びとや、戦闘に参加した将兵、そして戦後を生きぬいた人々の目を通し、生々しく描いた戦争文学の金字塔。

【おわりに】

 …などと書いていたら、ラピエール&コリンズの「パリは燃えているか」をまた読みたくなってきた。パウル・カレルの「彼らは来た」も面白そうだし、アンディ・ウィアーの「火星の人」も私のストライク・ゾーンのド真ん中っぽい。

 SFと軍事物が好きなのは相変わらずだが、今年は倫理学っぽい本に収穫が多かった。昔から乱読気味だったが、最近になって興味を牽かれる分野が更に増え、収拾がつかなくなってきている。まあ計画たてて読んでるわけじゃなし、今後もフラフラと彷徨うんだろうなあ。

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