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2014年12月 4日 (木)

グナル・ハインゾーン「自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来」新潮選書 猪股和夫訳

著者の主張は明快だ。暴力を引き起こすのは貧困でもなければ、宗教や民族・種族の反目でもない。人口爆発によって生じる若者たちの、つまりユース・バルジ世代の「ポスト寄越せ」運動、それに国家が対処しきれなくなったとき、テロとなり、ジェノサイドとなり、内戦となって現れるのだ。
  ――はじめに

【どんな本?】

 ポーランド生まれでベルリン自由大学で社会学・歴史学・心理学・経済学・シャーナリズムを学び、ブレーメン大学終身教授の著者が、歴史上および現代の統計を元に、テロ・内戦・虐殺・戦争そしてヨーロッパによる世界制覇の原因を探り、すぐそこに迫った危機を警告する本。

 テーマは明快である。冒頭の引用に挙げたように、人口爆発により急激に増えた若者たちが、大規模な暴力を引き起こす、というもの。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Söhne und Weltmacht : Terror im Aufstieg und Fall der Nationen, by Gunnar Heinsohn, 2003。日本語版は2008年12月20日発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約262頁。9ポイント43字×18行×262頁=約202,788字、400字詰め原稿用紙で約507枚。長編小説なら標準的な分量。

 文章は少々まわりくどく、また堅い。内要はそれほど難しくない。歴史上の出来事や現代世界の紛争などを随所で引用しているが、丁寧に注がついているので、素人でもだいたいの所は見当がつく。

【構成は?】

 原則として順々に論が進むので、できれば頭から読もう。

  • はじめに/日本語版に寄せて/本書のテーマについて
  • Ⅰ 古くて新しい世界敵――ユース・バルジからの過剰な若者たち
    男子の多い方が戦闘に有利/飢餓撲滅が平和をもたらすというのは幻想である/飢えとは無縁の革命家がもつ怖さ/中国は米国の敵かパートナーか?/カインとアベル――ポストをめぐる兄弟間の死闘/都会に押し寄せるユース・バルジ/人口増で勝利の御旗を高らかに掲げるイスラム国家/現下のユース・バルジはこれまでのどれよりも大きい/ヨーロッパがユース・バルジを過小評価するのは宿命/サミュエル・ハンチントンと芸リー・フラー――現代のアメリカの視点/暴力に訴えるのを良しとする宗教/「女性の子宮が戦争を決する」/「ムスリムの戦争の時代は20年以内に終わるかもしれない」/時代はアンチ・テロ戦争を演じる
  • Ⅱ 若者たちはどこに住んでいるか?
    それが正しいから、だからそのために殺す/古い聖なる書へ回帰する若者たち/かつての攻撃対象は今も守るべきものに/ドイツの男性が抱く家族というものへの不安/ヨーロッパは人口の減少を移民で補っている/南アメリカはユース・バルジの峠を越えた/南アジアとアフリカではチルドレン・バルジが沸騰/ユース・バルジの国々で暴力が常態化するのはいつか/大量殺害が長びく原因はユース・バルジだけではない
  • Ⅲ 人口統計に見る征服者の出自とヨーロッパの世界征服という「奇跡」
    歴史の推進力としての人口の急激な増加/女性医師は中世後は原始意的水準にまで低下/人口爆発と魔女殺し/産児調整は死をもって罰せられる/医者は避妊に関与しなかった/魔女迫害は最植民の残虐きわまりない手段/ヨーロッパ再植民の副産物だった世界征服
  • Ⅳ 超大国の昨日と明日――若者の増加と厳格な所得権構造
    世界征服におけるヨーロッパ特有の経済/耕地で生産し、囲いで経済活動をする/所有権がベースの征服者と占有を刻みこまれた被発見者/所有権者界の支配者は酋長でもなければ王でもない/ヨーロッパ覇権大国の興亡 1)ポルトガル 2)スペイン 3)オランダ 4)イギリスⅠ,Ⅱ 5)アメリカ合衆国(米国Ⅰ) 6)アメリカの現下の挑戦者(米国Ⅱ)
  • Ⅴ ユース・バルジと国境なきテロリズム
    家父長制モラルに対する攻撃の増加/世界の表舞台に躍り出た日本/核を保有する独裁者の予防的排除/過剰な若者は教育を受けて大軍隊に/帝国づくりへのイスラムの野望/サダムの跡を襲う者はとっくに生まれている/今も昔も偶像視されるアグレッシブな指導者/ぐらつきだした覇権国は準備にかかる/神の家どうしの爆撃の応酬/最終防衛手段としての武装解除戦争/軍事的脆弱さが増すドイツ/内戦によるユース・バルジの解体縮小/中東戦争の多重機能/ヨーロッパはイスラムを好きになれない/「ドイツがアウシュヴィッツのことでユダヤ人を赦すなんて絶対にありえない」
  • Ⅵ 入れてもらえる者、もらえない者
    とどまるところを知らないヨーロッパの死亡過剰/「人口は減るも増えるも女性しだい」/オーデル川以東――死に行くばかりの民族/経済学の知識を仲介してやることが最良の発展支援/経済が発展してもユース・バルジは収まらない/出生率の低い国は質の高さを求める/出産を妨害するのは人権違反/自分の住む街でユース・バルジによる戦闘が起こるかもしれないという不安/移民の若者につのる同化への抵抗/人口統計上の転機を希求するヨーロッパ
  • 参考文献

【感想は?】

 読むのが辛かった。色々な意味で。

 元がドイツ語のためか、文章が少々堅いのもある。それ以上に、内容が暗い。タイトルで見当がつくように、次々と多くの人が虐殺されてゆく上に、その原因がみもふたもないシロモノだからだ。

 冒頭の引用が、ほぼ全てを語っている。一人の父に一人の息子なら、問題はない。二人三人の息子がいると、問題が起きる。息子が一人なら、跡継ぎが決まっている。だが二人以上になると、次男以降は家を出なきゃいけない。父ちゃんに大きな力があって、全ての息子に職を用意できるならいい。だが出来ないなら、倅は自分でなんとかしなきゃいけない。

 これが一つの家だけで起きているなら、たいした問題にはならない。だが、国全体で同じような「行き場のない倅たち」が溢れているなら、彼らの集団は大きな変化を引き起こすだろう。

 人口が増えている国では、世代別の人口グラフが末広がりになる。その中で、15歳~25歳の人口が突出している場合を、ユース・バルジと言っている。なぜ15歳~25歳か。どの国でも、この世代は犯罪が多く、また兵隊に向いている世代だからだ。

 彼らが引き起こす変化の一つが、戦争だ。ここで著者は、恐ろしい話を持ち出す。「大事なのは若い世代の人口ではない、二人目以降の息子の数だ」と。

 一人息子が戦死した場合と、数人いる兄弟の一人が戦死した場合と、母親の嘆きはどちらが大きいか。「どっちも息子でしょ」とタテマエを言うのは簡単だが、ホンネとしては、やっぱり一人息子を失った親の方が、悲しみが深いだろう。逆に言えば、息子の数が多ければ、国民の抵抗は少なく、戦争を始めやすいのだ。

 では、今ヤバいのはどこか。本書の表から、15歳未満の人口が42%を超える国を抜き出してみた。

 ウガンダ、タンザニア、スーダン、アフガニスタン、サウジアラビア、イエメン、モザンビーク、コートジボワール、マダガスカル、ブルキナファソ、マリ、ニジェール、マラウイ、ザンビア、アンゴラ、セネガル、チャド、ソマリア、ギニア、ベナン、ブルンジ、シエラレオネ、ラオス、パレスチナ、エリトリア、中央アフリカ、リベリア、モーリタニア…

 こう見ると、確かにヤバい国が多い。しかも、アフリカとイスラム諸国が多い。ただ、若年人口が多いからヤバいのか、ヤバいから若年人口が多いのか、因果関係はハッキリしない。

 それを検証するのが、「Ⅲ 人口統計に見る征服者の出自とヨーロッパの世界征服という『奇跡』」である。ここでは、大航海時代の原因を、当事のヨーロッパで起こった人口爆発に求めている。なぜ人口爆発が起きたのか。要因の一つは黒死病で、農地の多くが空いたこと。もう一つをカトリックの「産めよ増やせよ」政策としている。正直、これはチト強引な気が。

 面白いのは、その次の「Ⅳ 超大国の昨日と明日」。ここでは、経済構造に発展の鍵を求めている。それは、占有権と所有権の違いだ。占有権は、単に持っているだけだ。だが、所有権は違う。どこが違うか。

 所有権の場合、それを担保にカネを借りられる。ただし、借金には利子がつく。利子をつけて返すためには、なんとかして借りたカネを増やさなきゃいけない。利子をつけて返すための工夫や努力が、経済を発展させたのだ、と主張しているのである。これも強引な気がするが、納得できる部分もある。

 カネを持つ者が自分で投資すれば、儲けが出る。だが、カネを持つ者が常に巧い投資先を見つけられるわけじゃない。そして、商売を始めたいがカネがない者は沢山いる。なら商売を始めたい者が開業資金を得やすい仕組みがあれば、経済活動は活発になるじゃないか。

 実際、日本でも、成長させたい産業に対し、国や自治体が様々な融資政策を講じている。それはカネがある政府だからできるんで、政府が弱い国じゃ出来ない。では民間に頼ろう。そこで利子だ。適切な利子は、カネを持つ者がカネを貸す動機づけになるだろう。

 終盤では、今日のヨーロッパが抱える弱点を露わにしていく。要は少子高齢化だ。合計特殊出生率、一人の女性が一生の間に産む子供の数が、2.05なら現状維持になる。これを満たすのはイスラエル・アメリカ・アイスランドだけ、次いでアイルランドとニュージーランド。ここで面白いのが、東欧が総じて人口縮小に転じていること。

 ヨーロッパの平均は1.40なんだが、チェコとウクライナが1.10、ロシアが1.30.2003年の統計じゃラトヴィアが1.20、エストニアとリトアニアが1.30。旧東ドイツでは1.0という記録もあった。ちなみに今調べた2012年の日本の数字は1.41。

 問題はこれだけじゃない。東欧諸国から、人が脱出しているのだ。人口800万ほどのブルガリアから100万人が西に流出し、ルーマニアじゃ年金生活者が就業者より多い。610万:420万である。しかも29歳未満のルーマニア人の約60%が脱出の機会を伺っている。

ここで「ユース・バルジが戦争の原因となる」に疑念が湧く。ボヘミア紛争は、ウクライナ内戦はどうなんだ、と。まあ、これも「ユース・バルジが戦争の原因となる、とは主張するが、戦争の原因はユース・バルジだけとは主張していない(ユース・バルジ以外の戦争の原因もある)」と言われれば、それまでなんだが。

 少子化を補うため、西欧は移民を迎え入れた。だが、それも問題を生み出している。「かつて南北アメリカに移住したヨーロッパ人は、地元の文化に染まったか?逆にカトリックに染め上げたじゃないか」と。「ムスリムは別だと、どうして言えるだろう?」 しかも、問題は潜在化している。

移民のなかで暴力に方向付けされた問題が顕在化しはじめるのは、ほとんど第2世代になってからである。親たちは国境の開放によって救けてもらったという感謝の思いから過剰に適応しようとする傾向があるが、子供世代は、このような統合では不充分であり、もっと改善されなくてはならない(略)と見がちである。

今思えば、映画「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」や「ゴッドファーザー」も、こういった移民感情を巧く描いてるよなあ。

 ばかりではない。教育現場でも、重大な問題が起きる。「学校のクラスで移民の割合が20%になると、とたんにそのクラス全体の子供たちの成績水準ががくんと下がる」。ひええ。どうないせえちゅうねん。

 そうなのだ。ほんと、どないせえちゅうねん、でこの本は終わる。明確な対案は出さない。「結局はアメリカに頼るしかないよね」とほのめかされるが、それだけだ。「ロシアも中国も、将来は大きな脅威にならないよ」で安心できるが、「でもイスラム諸国が押し寄せてくるぜ」で終わる。

 この本の予告どおりなら、しばらくアフガニスタンやイラクは静かになりそうにない。イランは少子化しつつあるようなので安心だが、隣のサウジアラビアがヤバい。帝国書院の「原油の生産トップ10と日本の輸入先」を見ると、背筋が凍る。しかもアメリカはシェールで中東への関心が薄れつつある。どないせえちゅうねん。

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