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2014年11月27日 (木)

ロバート・ブートナー「孤児たちの軍隊2 月軌道上の決戦」ハヤカワ文庫SF 月岡小穂訳

 残り時間がゼロになtったとき、人類が生き残るか絶滅するかが決まる。どっちにしても、ぼくは死ぬ。ぼくはジェイソン・ワンダー。今の所は、史上最年少で最低の少将だ。しばらくは24歳の少尉だったが、階級にかかわらず、歩兵であることに変わりはない。

【どんな本?】

 合衆国陸軍情報士官の経歴を持つ著者による、ミリタリ・スペース・オペラのシリーズ第2弾。近未来、正体も目的も生態も不明な異星人からの攻撃で人類は危機に瀕していた。米軍を中心に編成した派遣軍は、孤児を中心とした一万の兵を敵の本拠地ガニメデへ送り、からくも防衛に成功したが…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Orphan's Destiny, by Robert Buetner, 2005。日本語版は2014年6月15日発行。文庫本で縦一段組み本文約419頁。9ポイント41字×18行×419頁=約309,222字、400字詰め原稿用紙で約774枚。長編小説としては少し長め。

 文章は比較的にこなれている。SFだけど、あまし難しい理屈は出てこない。いや一部に出てくるんだけど、ハッキリ言ってハッタリだから気にしなくていい。特撮ヒーロー物の必殺技の名前ぐらいに思っていれば充分。

 シリーズ物ではあるが、この巻から読み始めても問題いなく話についていける。というのも、著者が気を利かせて、必要な時はしつこいぐらいに前巻で明かされた背景を説明しているから。「売れる作品の書き方」を心得てる。

【どんな話?】

 近未来。質量弾を大都市に落下させ「核の冬」を引き起こす異星人に対し、人類は敵の本拠地ガニメデに一万名の兵を送り込む。着地点の選択ミス、洞窟への浸透作戦、そして兵の消耗を顧みない人海戦術と厳しい戦いが続いたが、破れかぶれの作戦でからくも人類は勝利をおさめる。だが、生き残ったのは、一万のうち七百名足らずだった。

 生き延びはしたものの、地球に帰還する手段は無い。ジェイソン・ワンダーは、戦時昇進で少将となり、ガニメデに残る生存兵の指揮をとる羽目になった。生き延びるため必死で隊をまとめるジェイソンだが、情報部のハワード・ヒブル少佐はマイペースでナメクジどもが残した遺物を漁っていた。

【感想は?】

 前作は歩兵版ID4だった。今回は特攻野郎Aチームがナヴァロンの要塞に挑むって雰囲気。

 そう、Aチームだ。バリバリのB級アクションである。それもテレビドラマの。決して真面目な作品を期待してはいけない。語り口は真面目だけど、ノリは軽いし、筋書きも相当に無茶してる。読んでて「これマズいんじゃね、罠だろ」と思ったら、ソレはやっぱり罠で、ちゃんと罠が発動する。しかも、最悪の形で。

 その分、お話の語り口は巧い。全体は51の小さい章に分かれ、各章は読者の興味を惹きつける形で次の章へと続いてゆく。「ぼくの予想は間違っていた」とか、何か予想外の事が起こる由を読者に予告し、「こ、この後、どうなるんだ?」と思わせる手法だ。目まぐるしくカットが変わるテレビの手法に似ている。

 お話は、ガニメデでサバイバルを続ける派遣軍と、それを率いるジェイソン・ワンダーの苦闘から始まる。こんな状態だってのに、下士官と兵は気楽なものでw

 やはりこの作品の味は、こういったニワカ軍ヲタが喜びそうな、微妙にマニアックなクスグリにある。まず登場するのが、なんとロッキード=マーティンのベンチャースター(→Wikipedia)。スカンクワークス(→Wikipedia)とか、ツボを抑えているのが小憎らしい。

 やはり見事にツボを押さえているのが、パイロットの訛り。「鼻にかかったテキサス訛り」である。

 ID4をご覧になった方は、最後の出撃の前の大統領の演説を覚えているだろうか? それまで東海岸風のハキハキした口調だった大統領が、最後の演説ではいきなりズーズー弁になるのだ。出鱈目に見えるあの作品だが、あれは泣かせる演出だった。彼が政治家の衣を脱ぎ捨て、一パイロットに戻る姿を、一瞬で分からせる場面である。なぜズーズー弁か。

 恐らくはチャック・イエーガー(→Wikipedia)の影響だ。今調べたら彼はウエスト・ヴァージニア出身でテキサスじゃないけど、なぜか合衆国空軍のパイロットは南部訛りで喋る事になっている。のんびりした口調なので、いかにもリラックスした雰囲気が出る。冷静さが大事なパイロットでは、自らの落ち着き(と肝の太さ)を伝えるために、わざとゆっくり話すのだ。

 「ガニメデへの飛翔」でも、ハインラインの「宇宙の戦士」を思わせる部分が多々あった。ジェイソンを教えるオード曹長は、ズイム軍曹を連想させる。この巻でも、最後にオマージュがドーンと出てくる。

でも前の巻の戦闘シーンは、ハインライン版というよりバーホーベンの映画版だけどw

 この巻では、帰還の際に乗り込む<エクスカリバー>艦長のアトウォーター・ブレイス准将が、なかなかのクセモノ。秩序第一のカタブツで、思い出したのがハーマン。ウォークの「ケイン号の叛乱」に出てくるフィリップ・F・クイーグ少佐。この作品でもちょっとだけ語られる、古参の仕官と新参兵のすれ違いが、少しだけケイン号のテーマと似ているような。

 こういった「気持ち」の面で軍を語る部分は、やはり帰還の場面でもよく出ていて。戦友を失った将兵の悩みへの対処は、第二次世界大戦→ベトナム戦争を通じて、米軍が学んだ事柄。ジュディス・L・ハーマンの「心的外傷と回復」だったかな? 第二次世界大戦では大きく出なかったPTSDが、ベトナム戦争では大きな問題になった。なぜか。

 第二次世界大戦では、船で復員した。そのため、帰郷する前に戦場での心の傷を癒す時間があった。だがベトナム戦争では、航空機で慌しく帰国した。そのため、気持ちを戦場から平時に戻す余裕がなかった。もちろん、勝った戦争で英雄として帰還した二次大戦と、厭戦気分で撤退したベトナム戦争の違いもあるけど。

 この本に戻ろう。英雄として帰還したジェイソンを、政治家などが徹底的に利用しようとする。カイロの場面とかは、いかにもアメリカのB級作品らしい能天気な描き方。

 やはり日本人としてはムカつく場面が、決戦に向かうシーン。ミッドウェイ海戦…うああ、思い出したくない。でも、まあ、仮にこのシリーズが太平洋戦争を模しているなら、この巻は逆転への転換点を示しているって事で。

 ここで活躍する<マーキュリー>マーク=20とかも、ニワカ軍ヲタへの嬉しいクスグリ。どう見てもファランクス(→Wikipedia)じゃないかw んなモン宇宙船に積んでどうするw

 情報士官出身でありながら、情報部をドジ役に選んでいるのも皮肉が効いている所。最初からマイペースなハワード・ヒプル少佐、あまりのマイペースさに客寄せパンダもクビになり、変な小屋に閉じ込められ、決戦の土壇場でも自らのペースを守りぬく。いやあ、楽しい人だ。

 口調はシリアスだが、中身は能天気なアクション。コロコロと進む話と、続きに興味を持たせる語り口。油断してるとマニア向けのクスグリがあったり、B級娯楽作らしい楽しめる作品だ。

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