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2014年10月26日 (日)

SFマガジン2014年12月号

「カブリートを食いにいこうぜ」ルンドクヴィストは言った。鏡像じゃなく、リアルのほうだ。「半ブロック」先にあるんだ。とびっきりのやつだよ。あるいは12マイル先にはいつも焼きたてがすぐに出てくる店もある。馬車をとばして二時間くらいかかるけどな。どっちでもいいや。カブリートを食いにいこうぜ」
  ――R・A・ラファティ「カブリート」 松崎健司訳

 280頁の標準サイズ。特集は「R・A・ラファティ生誕100年記念特集」として、短編「聖ポリアンダー祭前夜」「その曲しか吹けない――あるいは、えーと欠けてる要素っていったい全体何だったわけ?」「カブリート」の他、インタビュウやレビュウやコラムや解説など。

 小説は他に吉上亮の PSYCHO-PASS LEGEND「About a Girl」後編,円城塔のエピローグ<7>。

 「聖ポリアンダー祭前夜」柳下毅一郎訳。いつのまにやらバーナビー・シーンの芸術秘書におさまったデイジー・フラヴス。しかも、謎に満ちた部屋、三階の書斎兼バーを仕事場にして。「この扉をくぐる者、すべての女を捨てよ」と廊下に標語を掲げていいるにもかかわらず。

 いきなしコレとは、あまりにブッ飛ばしすぎな気が。もともと意味不明な作品が多いラファティの中でも、とびっきりにワケがわからず、「なんでそうなる!?」の連続。「この扉をくぐる者、すべての女を捨てよ」はたぶん「地獄の門」(→Wikipedia)のモジリ。いや今気づいたんだけど。メアリー・モンドの正体とか、どうすりゃこんな事を思いつくのやら。

 「その曲しか吹けない――あるいは、えーと欠けてる要素っていったい全体何だったわけ?」山形洪生訳。ラッパ演奏が主専攻、郷愁民間伝承が副専攻、付録課外科目に怪獣変身を選んだトム・ハーフシェル。加えて父の助言に従い、ハード地理学を主要課外科目に選んだ。彼と三人の友人はラバにまたがり槍で雄ブタを狩り、『最後の人』祭りに出かけ…

 前作に比べ、格段に分かり易い作品。「です・ます」調の童話っぽい文体で、荒っぽいブタ狩りを描くのはなかなか禍々しくていい。つか、なんで馬じゃなくラバなの? たいていの事は上手にこなすトム、でもハーフシェル(一枚貝)の名が示すように、何か不完全。いろいろとつつきまわすうちに、彼が気づく大きな空白は…。改めて読むと、実にわかりやすく示唆されてるんだよなあ。

 「カブリート」松崎健司訳。ノルウェー人のルンドクヴィストが言い出した。「カブリートを食いにいこうぜ」。そしてアイルランド人を連れ、馬車を飛ばして店にたどり着く。アマータが話しかける。「一ペソでお話しするよ。あんたらがお話気に入ったら、もう一ペソでもう一話。それっも気に入ったら、三話目は半ペソにおまけするね」

 これまたラファティにしては、とっても分かり易いお話。カブリートはメキシコ料理で、子山羊の丸焼きだとか。なかなか豪快な料理だ。一度食べてみたい。日本で食べられるのかな。舞台はアメリカ南部かメキシコか。電気が普及する前、チロチロ燃える炎の灯りで影が揺らぐ、夜の酒場での話しだと思うと雰囲気が出る。

 先の「カブリート」など比較的に分かり易い話でも、どこか違和感が付きまとうラファティ。まして「聖ポリアンダー祭前夜」になると、もう完全にお手上げだ。この違和感を納得させてくれるのが、山形洪生の「アーキペラゴ航海記」。

ほとんど何か世界の成り立ちや本質に関する漠然とした示唆――それも異様な――を背景としている。

 そう、どうも物語の根底にある、世界観の部分でラファティは私たちと根本的に違ってるんじゃないか、彼は私と全く違う世界を見て描いてるんだけど、ラファティには「違った世界」こそが当たり前なので、書く必要を感じてないんじゃないか、そんな気がする。何か重大な部分でズレてるんだけど、私はそれに気づいていない、みたいな。

 円城塔「エピローグ<7>」。今回は朝戸連とアラクネ。人類にとってのお話の進行速度を超えた向こう側、OTCの完全支配領域にやってきた朝戸とアラクネ。朝戸の可能性を使いつぶし燃料がわりにして、なんとか存在している両者。同心円的に広がりつつある事象の中心にあるのは…

 朝戸・アラクネ両者の存在を維持する仕組みの無茶っぷりに呆れたと思ったら、物語は意外な方向へと進んでゆく。いや今までの進み方も充分に私の理解力を超えたお話なんだけど。

 吉上亮の PSYCHO-PASS LEGEND「About a Girl」後編。<聖母>こと滝崎リナが率いる<箱舟>の拠点に捕らわれた、六合塚弥生と鹿南未來。無線通信は途絶し、公安局との連絡はとれない。拠点を捜索する未來は、やっと子供を見つけた。だが、その時、失った記憶が蘇り…

 見てくれだけは愛嬌のある公安ドローン。だが公安局が守っている社会は、とてもグロテスクなもの。TV版の第一部の終盤は、それを明らかにした。

 この短編でも、安らかに見える PSYCHO-PASS 社会が、その奥に秘めたおぞましさを描きだしてゆく。この作品は、あくまで未来の「あるかもしれない社会」を舞台とした物語だ。しかし、ここに描かれた問題、この作品が突きつける構図は、今ある全ての社会が持っている。共産主義でも、社会主義でも、資本主義でも、部族社会でも。

 などとは別に、宜野座が美味しい所を攫っていくのが楽しい。監視官の頃はキレ者ながらも線の細さを感じさせたが、執行官になってキレは維持したまま、開き直ったふてぶてしさが身についてきている。

 田辺青蛙「北米に羽ばたく日本SF 円城塔が、PKD賞特別賞に至るまで」。ワールドSFコンのパネル担当のついでに、アメリカにおける日本SFの認知事情を紹介するコラム。「新宿鮫」のせいで新宿がデンジャーゾーン扱いとか、笑ってしまう。じゃ千葉やネオサイタマはどうなるんだw 「ちなみに村上春樹の次に米国で売れている作家は、書店員に聞いたところによると菊池秀行」って、やっぱり新宿はデンジャーゾーンじゃないかw

 飯田一史「エンタメSF・ファンタジイの構造」。今回は小説投稿サイト「E★エブリスタ」をネタに、スマートフォン世代にウケる小説の話。「一回につき数百文字単位でもかまわないので、高頻度で更新した方が、作品に対するアクセス数が伸びやすくなっている」。ふんふん、なるほど。このブログでも真似してみようかな…と思ったら「月間PVやUUが数千のサイトといったら、ウェブの世界では、カスです」。がび~ん。でも実際、そうなんだよなあ。私の概算だと、月間3千PV以上のサイトの数は十万サイト以上あるって計算になってる。

 橋本輝幸「世界SF情報」。2014年欧州ユートピアル賞候補に、フィリップ・キュルヴァルが挙がってる。「愛しき人類」のイマジネーションの異様さにのけぞったけど、まだ現役だったのか。邦訳出ないかなあ。

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