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2014年10月14日 (火)

ロラン・ジュヌフォール「オマル 2 征服者たち」新☆ハヤカワSFシリーズ 平岡敦訳

「オマルに果てがないのおなら、こんなふうにヒト族と戦って何になるんです?」
(略)
「…領土のために戦うことが、問題ではないんだ。たしかに土地は、無限にあるのだから。大事なのはオマルが全体として誰のものなのかを、はっきりさせることだ。敵を絶滅させて初めて、われわれは本当に安心できる」

「テナカイルが言ってたな。われわれが戦争状態にあるのは、お互い異なっているからではなく、似ているからだと」

【どんな本?】

 フランスの人気SF作家ロラン・ジュヌフォールによる、看板SFシリーズの第二弾。舞台は遠い未来の不思議な星、オマル。果てしなく広がる大地オマルに住む、三つの知的生命体があった。ヒト族・シレ族・ホドキン族だ。なぜ三種族がこの地にいるのか、様々な伝説はあるが、確たる事は誰にもわからない。

 住める土地は広大で果てしないながら、それぞれの種族は覇権を巡って争っている。同時に、三種族が共に棲んでいる都市もある。それぞれが独自の文明を築き上げたオマルの地に、重大な転機が訪れようとしていた。

 前作「オマル 導きの惑星」より700年ほど遡り、ヒト族とシレ族が激しく争っている時代に繰り広げられる、冒険と探検の物語。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は LES CONQUÉRANTS D'OMALE,, by Laurent Genefort, 2002。日本語版は2014年8月15日発行。新書版縦2段組で本文約454頁+新島進による解説14頁。9ポイント24字×17行×2段×454頁=約370,464字、400字詰め原稿用紙で約927枚。文庫本なら2冊分ぐらいの分量。

 文章は比較的にこなれている。オマルの地は地形も生物相も独特だし、そこに発達した文明も奇妙に歪んでいる上に、登場人物や地名が独特の音感なので、異郷の雰囲気がタップリある反面、SFを読みなれていない人には馴染みにくいかも。

 ネタバレが嫌なら、本文と解説の間にある謝辞は最期に読むこと。詳しいい人ならピンと来ます。まあ、見なくても、そういうのが好きな人なら、本文中の記述でなんとなく見当がついちゃうんだけど。

【どんな話?】

 ヒト族とシレ族の戦いは、延々と続いている。前線で多くのシレ族を倒した英雄のジェレミア中尉は、多くの戦いで戦功を挙げたハイダール大元帥の命令で、特別の任務に赴く。かつてシレ族から鹵獲した武器を手に入れ、徴発した原子力機関車の動力を用い、戦況を一変させる攻撃を行なえ、と。

 ヒト族・シレ族・ホドキン族の三種族の棲域がぶつかるステイ高原には、三種族の使節団が集まっていた。26年に一度のアエジール族との交渉が迫っている。鉱脈に乏しいオマルでは、アエジール族から手に入る鉱物は貴重だ。三種族すべてと平等に交渉することがアエジール族の出した条件であり、そのためステイ高原は緩衝地帯となっている。だがヒト族の大使ボロケンコは、シレ族の大使テナカイルへの陰謀を抱えていた。

 ヒト族の地図作成調査隊は、奇怪な状況に置かれていた。昼間のはずなのに、真っ暗な闇に覆われている。太陽を遮る巨大な「黒いプレート」が上空を覆い、あたりは厳寒の地となった。プレートは移動し、極寒の土地もヒト族の土地を次々と侵食してゆく…

【感想は?】

 これぞ冒険小説の王道。危機また危機、謎また謎の展開。

 前巻では微妙にほのめかされるだけだったオマルの謎が、この巻ではだいぶ明らかになる。古いSF者なら「ああ、某のアレか」と思っただろうが、微妙に違う模様。それは文中で何回か仮説として提示されるが、最後の謝辞で明らかになる。

 微妙にテクノロジーが歪んで発展しているのも、この物語の特徴。それを象徴しているのが、原子力機関車。おかしいよね。原子力が使えるなら、発電所を作って電気機関車を動かせば、もっと多くの列車を運行できるし、肥料作りや電気自動車にも使えるはず。

 が、しかし。それが出来ないのが、このオマルのクセ者な所。鉱物資源が少ないのだ。電気機関車を走らせるには、機関車に電気を供給する架線を引かなきゃいけない。けど、その架線に使う銅がないのだ。「だったらレールだって」と思うでしょ。そこはソレ、どうやってレールを調達したのか、ちゃんと説明があります。

 そんなワケで、強力な原子力はあっても、機関車ぐらいにしか使えないのであった。その分、凄まじい数の列車を引いて走るんだけど。この原子力機関車、終盤では凄まじい勢いで列車と同時に、物語そのものも引っぱっていくので、鉄道マニアは乞うご期待。ここまで鉄?道が活躍する物語も珍しいかも。

 根底に流れるテーマは、戦いと共存。無限とも思える広さを誇るオマルの地。そこに棲む、三つの知的種族。お互いが充分すぎる土地があるのに、なぜ争う必要があるのか? 戦いに使う資源を、開拓に回せば、どれだけ豊かになれることか。そんな争いの愚かさを象徴するのが、ヒト族の戦士ジェレミー大尉。

 義勇兵として軍に志願し、幾度も激戦を潜り抜けて多くの戦功を挙げ、英雄とまで言われる人物。とくれば一癖も二癖もありそうだが、意外とマトモそうに見える。少なくとも、最初は。

 彼が大元帥ハイダールに命じられた作戦は、かつて鹵獲し隠してあるシレ族の兵器を手に入れ、原子力機関車の動力を用いて作動させ、決定的な戦果を挙げること。そのために、広く危険の多いオマルの地を、数万kmに渡り長い旅に出よ、と。

 主なメンバーはジェレミー中尉を入れて四人。指揮官はタギブ大佐、ハイダール大元帥の信頼厚い老兵だ。ブリスバンは監察官、いわゆる憲兵である。最後のソリマ大尉は女性ながら、ジェレミー同様に歴戦の勇者でもある。この四人が、秘密兵器を求めて進む長い旅が、物語の中心となる。

 オマルは広い。それだけに軍の支配や治安も行き届かず、道中には様々な危険や障害が待っている。前巻でも、アレサンデルの運命は過酷だった。この巻でも、ジェレミー自身やソリマ大尉の生い立ちや、軍に志願した動機などを通して、オマルの過酷な社会が少しずつ明らかにされてゆく。

 一般にエイリアンと闘う物語だと、人類側が少数精鋭で、エイリアンが大軍ってパターンが多いんだが、シレ族との戦いだと、これが逆になってるのも皮肉な所。肉体的にもシレ族の方が大きくて力強い上に、使ってる技術もシレ族の方が上だったりする。なんたって、巨大な飛行船も持ってるし。

 などと戦いの側面を担うのがジェレミー一行なのに対し、別の側面を担っているのが、地図作成調査隊。高空を移動する謎の巨大プレートにより太陽の光が遮られ、闇に閉ざされると同時に極寒となった地をさすらう科学者の一行。

 このあたりは、冒険物語の王道とでもいうか。下手に呼吸すれば肺すら痛めてしまう凍える大気の中、彼らがかすかなカンテラの灯りの中に見る風景は、なかなか印象的。普通に季節がある生活から、いきなり厳冬に放り込まれたら、どうなるか。社会の模様も面白いか、それ以上に生物相や大地の様子が楽しめた。

 物語のもう一つの軸が、アエジール族を迎える三種族の使節団。アエジール族が出す条件により、三種族の平和が保たれている土地で、密かに進む陰謀は何か。ここでは、アエジール族の「三種族が平等」という、共存を進める条件が示されていながらも、激しく戦っているヒト族とシレ族を、悲しげな目で見るホドキン族のクウヘルが切ない。

 終盤、スタッド湖で奮闘するジェレミー君は、凄まじい狂気を感じさせると同時に、一徹な意思の強さも伝わってくる迫力あふれる場面。その目的を思えばイカれているとしか思えないんだが、やっぱり応援したくなるから物語ってのは不思議だ。

 ヒトの持つ困った性質をシレ族にも反射させ、我々の狂気を映し出しながら、その狂気がもたらす英雄的行為も雄雄しく描き出す、宝探しの旅の物語。難しい事は考えず、冒険物語として楽しんでもいい。やっぱり、力強い原子力機関車と秘密兵器には心が躍るなあ。

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