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2014年9月29日 (月)

SFマガジン2014年11月号

「……何ていうか」未來がため息を吐いた。「弥生が男だったら、ぞっとするわね」
「――どういう意味?」
  ――吉上亮 PSYCHO-PASS LEGEND「About a Girl」前編

 280頁の標準サイズ。今月はなんと梶尾真治「恩讐星域」が最終回。もっと大きい字で宣伝してもいいと思う。

 特集は「30年目のサイバーパンク」。ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」刊行30年を記念して、同時のサイバーパンクの衝撃と、それが与えた様々な影響を振り返ると共に、初訳の短編3作、ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「パパの楽園」,ラメズ・ナム「水」,キース・ブルック「戦争3.01」を収録。

 小説は他に吉上亮の PSYCHO-PASS LEGEND「About a Girl」前編,夢枕獏の「小角の城」,神林長平の「絞首台の黙示録」。

 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ「パパの楽園」。ジェイミーは家族と一緒に引っ越した。楽しい場所だった。旋回人はくるくる回り、激しく回りすぎると地面にめり込んでしまう。それを見てジェイミーも、妹のベッキーも、ゲラゲラ笑った。家に戻れば、屋根に座っていたミスター・ジーバーズが宙を飛んで迎えてくれる。「ジェイミーが帰ってきた。ジェイミーが帰ってきたよ」

 「え?あのハードワイヤードのウォルター・ジョン・ウィリアムズ?芸風変えたの?つか、どこがサイバーパンク?」と驚く、メルヘンっぽい出だし。が、しかし、当然、そんな事はないわけで。親ってのは子供に汚いモノを見せたがらないけど、果たしてそれがいいのかどうか。スポンサーがアレってのも、いかにもありそうで怖い。

 ラメズ・ナム「水」。インプラントが普及した未来。ただし費用は高い。でも安くあげる方法がある。広告を受け入れればいい。あらゆる商品は、インプラントに囁きかける。「ピュラビータのミネラルウォーターは素敵」と。そして快楽中枢を刺激し、ドーパミンが放出され、依存傾向を強めてゆく…

 今のインターネットでも、広告がウザいと感じる人は多いだろう。昔は固定の広告を貼るだけだったけど、今はクッキーなどで読者を追跡し、読者の好みにあった広告を出すようにまでなった。単にウザいだけならブロックすりゃいいが、脳内に機械を埋め込んで、そこに広告を流されたら、たまったモンじゃない。無料ブログのサービスもあるけど、大抵は広告とバーターだったり。

 キース・ブルック「戦争3.01」。ケヴィン・オファレルが街にいたとき、唐突に戦争が始まり、終わった。金曜の夜だ。給料は二日前に出たばかり。いい具合に酔ったが、ここじゃアイルランド系移民労働者はいいカモだ。特に守備隊の兵隊はヤバい。連中の目を避けながら、ケヴィンは歩き出したが…

 「水」同様に、現実世界に仮想現実を重ね合わせる技術が普及した世界。アイリッシュと英国兵の睨みあいは、昔ながらの定型なのかな。でもアイリッシュを主人公にしてるのは珍しい。6頁の短い作品ながら、現在 ISIL が盛んに Youtube や Facebook を使いこなしている状況を見ると、目の付け所はいいと思う。

 鷲巣義明「洋画に見るサイバーパンク」。ディズニー映画の「トロン」に触れてて、ちょっと嬉しい。あの映画で私が一番印象に残っているのが、社長さんの大きな机が、そのまんまデカいタッチスクリーンになってる場面。スクリーンが地面と平行なのはどうなの?と思ったが、とにかく広いモニタが羨ましかった。

 ジェームズ怒々山+マリ子さん+ススム君とゆー懐かしい顔ぶれで送る、「帰ってきた!ジェームズ怒々山のSF集中講座~サイバーパンクってなあに?」色々あるけど、私にとってサーバーパンクは黒丸尚氏のルビを多用したスタイリッシュな文体だったりする。すんません、カッコか入るタチなんです。

 ついに最終回の梶尾真治「恩讐星域」。子供たちへの教育課程<エデン正史>の一環として、自らの体験を語る事になったトーマス老。あの時、ニューエデンの人々は憎しみに凝り固まっていた。自分たちを見捨て、宇宙船ノアズ・アークで脱出したアジソンと、その一党たちへの憎しみに。

 <約束の地>を目前にして、崩壊したノアズ・アーク号を、ギリギリで脱出した人たち。アンデルス・ワルツィンゲン首長の強力な指導力の元に、彼らへの憎しみで一体となったニュー・エデン住民。前回までジリジリと描かれた接近の様子。その出会いと結末は、果たしてどうなったのか。単行本で一気に読むと、また違う感想になるんだろうなあ。

 神林長平の「絞首台の黙示録」。どうやら、おれは死刑囚の邨江清治らしい。確認する手がかりはある。執行前に会話した、教誨師がいる。彼にあって確認すればいい。工(たくみ)がPCで調べた。後上明生は見付かった。牧師であり、保育園の院長だ。取材を装って、二人で会いに行こう。

 前回のグロテスクな謎の推察から、やっと手がかりが掴めた今回。邨江清?が、意外とマメに料理を作るのに笑ってしまう。キッチリと煮干しで出汁をとってたり。刑務所暮らしじゃ料理を身につけられそうにないから、その前の独身生活で憶えたのかな?

 吉上亮の PSYCHO-PASS LEGEND「About a Girl」前編。九歳のとき、六合塚弥生はギターと出合った。父の書斎にあったレコード。クラッシュが好きだった。セックス・ピストルズには衝撃を受けた。16歳でシビュラ公認芸術家として公認され、彼女に出会った。

 時系列的には第一部の後。素直な黒髪で表情の少ない六合塚執行官が主人公。得物はテレキャスターかあ。ゴージャスな音が魅力のレスポールでも、器用にこなせるストラトでもなくて、乾いた音のテレキャスターってのが、一見クールだけど、あんまし器用じゃない六合塚さんに合ってるかも。禁欲的な彼女に対し、エロエロな志恩さんを当てる対照がたまりませんわ、ハァッハァ。シド・ヴィシャスのマイ・ウェイはこちら(→Youtube)。とかバカな事を言ってると、終盤では大変な事に。

 若島正の「乱視読者の小説千一夜」。ロンドンの<サ・ガーディアン>紙2014年1月31日号の記事「翻訳できない日本語はあるか?」のトップが tsundoku だとかw やっぱし似たような傾向の奴は、世界中にいるんだろうなあ。素敵かどうかはわかんないけどw

 飯田一史「エンタメSF・ファンタジイの構造」。前回の山田悠介でも不思議に思ったのは、彼がどうやって読者に作品をアピールしたか。今回はホラー系のライトノベルを題材に、販売路線をどうやって確保するか、というお話。レーベルで選んだり、判型で選んだり。そういえば「B-29操縦マニュアル」は、軍事ではなく航空機の棚にあって、あやうく見逃すところだった。行きつけの本屋だと、巡回コースが決まってて、興味のない棚は見なかったりするし、「書店のどの棚に置かれるか」は確かに大事だよなあ。

 大野典宏「サイバーカルチャートレンド」。今回は「プログラミング言語って、やたら沢山あるよね」というお話。Wyvern(カーネギー・メロン大学Wyvern の項) は知らなかったなあ。CSS+HTML+JavaScript+Java的なシロモノらしいけど、ならS式でいいじゃん。scheme じゃダメ?←しつこい

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