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2014年8月21日 (木)

ジョン・スコルジー「戦いの虚空 老人と宇宙5」ハヤカワ文庫SF 内田昌之訳

「ヴェスプッチ号に何名の新兵が乗っていたかおぼえていますか?」
「CDFの担当官から、新兵は千十五名だと言われたのをおぼえている」
「いまでも生きているのは何名ですか?」
「八十九名だ。なぜ知っているかというと、先週またひとり死んで通知を受け取ったからだ。ダレン・リース少佐」

【どんな本?】

 75歳を過ぎた老人だけが志願できる軍隊、CDF(コロニー防衛軍)を中心に、数多のエイリアンが群雄割拠する宇宙で生き延びようとする人類を描く痛快なスペース・オペラのシリーズ最新刊。今までの主人公ジョン・ペリーに代わり、本来は地味な任務のはずの技術顧問ハリー・ウィルスンにスポットをあてた連作短編集に、おまけの短編二本を収録。

 かつて宇宙で争いあっていた数百の種族は、コンクラーベに終結しつつある。争いのスキに乗じて地位を保っていた人類のコロニー連合は不利な立場となり、コンクラーベ非加盟の種族と友好関係を築こうと外交努力を続けている。

 だがジョン・ペリーの大暴れにより、コロニー連合と地球の仲は険悪となった。コロニー連合は兵士と植民者の供給を絶たれ、地球は圧倒的に進んだ科学技術を持つコンクラーベと向き合う格好になった。このままでは人類の将来はおぼつかない。

 コンクラーべ非加盟のウチェ族との同盟締結の秘密交渉に向かっていた外交船、ポーク号が消息を絶った。今ポーク号の代役ができるのはクラーク号のみ。いわば二軍ではあるが、大使オデ・アブムウェが率いるチームは、最近、難しい交渉を成功させた実績がある。そこで活躍したのは副大使のハート・シュミットとCDF技術顧問のハリー・ウィルスン中尉だ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Human Division, by John Scalzi, 2013。日本語版は2013年10月25日発行。文庫本で縦一段組み、本文約670頁+訳者あとがき4頁。9ポイント41字×18行×670頁=約494,460字、400字詰め原稿用紙で約1237枚。長編小説としては2冊分+αぐらいの大容量。

 にもかかわらず、文章はスラスラ読める。シリーズ物の途中だが、基本的な設定は最初のエピソードで説明されるので、この巻から読み始めても全く問題ない。とまれ、宇宙を飛び回るスペース・オペラなので、それなりにSFに耐性のある人向け。

【収録作は?】

エピソード1 Bチーム
エピソード2 処刑板を歩く
エピソード3 必要なのは頭だけ
エピソード4 荒野の声
エピソード5 クラーク号の物語
エピソード6 裏ルート
エピソード7 犬の王
エピソード8 反乱の音
エピソード9 視察団
エピソード10 ここがその場所
エピソード11 比較の問題
エピソード12 やさしく頭をかち割って
エピソード13 眼下に地球、頂上に空
付録
 ハリーの災難
 ハット・ソルヴォーラがチョロスを食べて現代の若者と話をする
  感謝のことば/訳者あとがき

【感想は?】

 ある意味、表紙詐欺。

 おそらく手前で銃を構えているのがCDF技術顧問のハリー・ウィルスン、その後ろが副大使ハート・シュミット、奥の黒人女性が大使オデ・アブムウェだろう。皆さん厳しい顔をしているから、厳しい軍隊物かと思ったら。

 いや確かに彼らの置かれた状況は厳しいし、任務も重大で危険いっぱい、一歩間違えば人類が破滅しかねない大変な局面が、次から次へと襲い掛かる緊張感溢れる物語ではあるんだけど。

 その語り口は、アメリカンなユーモアがあふれる軽やかなもの。特に会話がいい。外交大使という職にも関わらず微塵の愛想もなく、歯に衣着せぬ言葉で部下の首筋に刃を当てるオデ・アムブウェ。彼女に睨まれたら脂汗を垂らすしか能のないへっぽこ副大使のハート・シュミット、そして何故かツケを払う立場に追い込まれるハリー・ウィルスン。

 どう見ても他国と友好的な関係を築く役割のはずの外交団には向かない、厄介者の集団に見えるんだが、こういった規格外のチームが、難しい問題を知恵と勇気とアドリブと運で切り抜けてゆく、そういう物語だ。

 軽やかな語り口とは裏腹に、状況はとても厳しい。宇宙に進出はしたものの、人類の周囲は敵だらけ。今までは各種族同士がぐんずほぐれずのバトルロイヤルだったため、人類もスキに乗じて獲物を掠め取り、または実力行使で奪い奪われしてきたが。

 エイリアンたちはコンクラーベという形で終結しつつあり、ハブられた人類は少数派に転落。なんとかコンクラーベ非加盟の種族とツルんで立場を強化したいところだが。

 肝心の母星・地球と外交的に険悪な雰囲気になったんで、さあ大変。その地球にしても、未だ世界政府ができているわけでもなし、今のままではコンクラーベにも加盟できそうにない。互いに協力すればなんとか生き延びる道もあろうが、今までのコロニー連合(宇宙に住む人類たち)の政策が仇となり、それも難しい。放置すれば人類そのものが長くない。

 実際、冒頭で起きる事件も、かなり剣呑なシロモノで、多くの命が何者かの陰謀によって失われる。コンクラーベ非加盟のアチェ族と、同盟締結の交渉に向かったコロニー連合の外交船ポーク号が、正体不明の攻撃を受け、全滅してしまう。そこで急遽ピンチヒッターに指名されたのが、アムブウェのチーム。

 話は連作短編の形で、冒頭の陰謀を追いかけつつ、正体不明の敵が仕掛ける罠に、彼らが次々と陥っては脱出する形で進む。

 となれば、規格外の変人をかき集めた戦力外通知のチームが、次第にまとまってチームワークを発揮し…とはいかないのが、この人の作風。最後までハート・シュミットはへっぽこだし、アムブウェは歯に衣着せぬ冷酷な上司だし、クラーク号の船長ソフア・コロマは石頭の軍人そのもの。

 そういったキャラクターは全く変わらないものの、途中の各人のエピソードによって、少しだけ印象が変わってくる仕掛けも、連作短編ならでは。

 語り口はユーモラスだけど、最後まで状況は厳しいまま。大掛かりなシリーズの第一巻といった感じで、奇想天外なエイリアンがウジャウジャ出てくる楽しいスペース・オペラ。

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