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2014年6月 5日 (木)

SFマガジン2014年7月号 創刊700号記念特大号

長編部門では、これまで圧倒的な強さを誇っていた三強――『百億の昼と千億の夜』『果てしなき流れの果てに』『妖星伝』――をはじめとする第一世代の作品群に新作が割り込み、とくにベストテンの顔ぶれが大きく変化した。
  ――2014オールタイム・ベストSF結果発表 国内長篇部門 香月祥宏

 584頁の特大サイズ。創刊700号記念特大号として、2014オールタイム・ベストSF結果発表のほか、SF MAGAZINE ARCHIVE として日本のSFおよびSFマガジンの歴史を振り返り、SFマガジンのバックナンバーから大量の記事と広告までも再録。まんま「日本のSFこの60年」といった内容。

 ただし再録はレポート・書評などのノンフィクションだけで、小説はすべて新作が5本。グレッグ・イーガン「端役」山岸真訳,谷甲州「サラゴサ・マーケット」,夢枕獏「小角の城」,神林長平「絞首台の黙示録」,円城塔「エピローグ<3>」。ところで、とり・みきは連載なのかw

 グレッグ・イーガン「端役」山岸真訳。「わたしはサグレダ」「どこから来たのかは覚えていません」。大災厄で重力は横向きになり、東に引っぱるようになった。目覚めたサグレダに声をかけたのは、ジェーザーという名の白髪の女性だ。人々は洞穴の中で暮している。だが、この世界のしくみをじっくりと考え始めたサグレダは…

 バリトン・ベイリーばりにイカれた世界を提示しつつ、そこは堅物のイーガン。いきなり世界の力学やエネルギー収支を生真面目に考えてゆく。イカれた世界を「そういうものだ」で済ませ話を進めるというSFのお約束をあっさり反故にして、理詰めで世界の解釈を作り上げ、その上で倫理的な問題を突きつけてゆく。まさしくイーガンならではの作品。

 谷甲州「サラゴサ・マーケット」。土星の衛星イアペトゥスのアングラ・マーケットで、サルベージ屋を営む九條谷の元に、物騒な客が現れた。注文は特定サルベージ、ただし軌道要素は不明。先の外惑星動乱が終わった後、サルベージ屋は大忙しだった。物資不足で需要は多く、美味しい獲物も多かったからだ。だが今は…

 2014年4月号に続く新・航空宇宙軍史シリーズ。いきなり懐かしい名前が出てきて、古いファンは記憶の埃を払うのに苦労したり。太陽系内の遠大な距離を感じさせた前シリーズを、充分に継承したサルベージの歴史は実にワクワクする。戦後の貧乏な外惑星の懐事情も伝わってくるし。

 神林長平「絞首台の黙示録」。死刑囚だと名乗るタクミは語り始める。「おれは自分の見を守っただけだ」。だが、どうも言ってる事がおかしい。なぜ死刑囚がここにいるのか。記憶があやふやだと言うが、台所で手早く茶を入れるし、風呂でも迷わずタオルを使う。この家で何かどこにあるか、ちゃんと把握している。何者なのだ?

 今まで作家のタクミの視点で語られたのが、この回では死刑囚のタクミの視点で物語が進む。作家タクミの視点だと、理屈に合わないのは「同じ顔と名前のタクミがいる」点だけだが、死刑囚のタクミだと「なぜ生きているのか」「なぜここにいるのか」など、理屈にあわない事ばかり。この先、どう話が進むのか、全く想像つかない。

 円城塔「エピローグ<3>」。朝戸はアルゴンキン・クラスタでチェリーパイをパクついている。見た目はホットドッグなのだが。目の前ではアラクネがパフェを分解している。こっちの見た目はハンバーガーだ。アルゴンキン・クラスタは料理が発達し、構造物まで料理の技術を応用して作っている。

 相変わらず意味不明な円城塔節だけど、この回はギャグだと思えばなかなか笑える。ボケのアラクネに突っ込みの朝戸に加え、二人に絡むゲストが披露する哲学が、実にSFらしく偏ったシロモノで、私はこういう人が大好きだw やっぱり、これぐらいイカれた人が出てくると、ホッとする。それはそれで病気のような気もするけど。

 飯田一史「エンタメSF・ファンタジイの構造」、今回はカゲロウプロジェクトなどボカロ小説の面白さの解説。これが実にわかりやすい。つまり膨 大な物語をシャッフルして、小出しにしたシリーズがボカロ物である、と。次第にパズルがハマっていく面白さなんだよ、だから部分だけ見たってわからないん だ、というわけ。

 構造としては航空宇宙軍史やハインラインの宇宙史シリーズみたいなモンだけど、そこで楽曲やTVアニメなどマルチメディア展開を絡めたのが巧みな所。シリーズ物は一見さんを捕まえるのが難しいけど、そこを3分ほどの音楽でクリアするって発想は賢い。

 オールタイム・ベストは国内編・海外編ともに、上位が大きく入れ替わっている。これは読者が若返ったためかな。私が幼い頃に親しんだ作品が順位を落とすのは悲しいけど、優れた作品が続出してる事と、新しいSFファンが増えた結果だと思えば、むしろめでたい結果なのかも。でもやっぱりジョージ・アレック・エフィンジャーの「まったく、何でも知ってるエイリアン」がひっかからないのは寂しい←誰も知らねーよ

 60年代~70年代の記事は、微妙に版が汚いのが時代を感じさせる。いや多分、本から版を作ったせいなんだろうけど。罫線が切れてたり、活版だったんだろうなあ。作家の写真が多いのも、当事の誌面デザインの潮流が伝わってくる。字が小さいのも、当事のSF関係者の若さのためか。いや年寄りは小さい文字だと苦労するし。

 SFマガジンの歴史で「それまでのアメリカSFの歴史をシャッフルした感じで紹介していった」みたいな経緯があって、おかげでニューウェーヴの位置づけが混乱してしまった、みたいなのがあって。でもこれ、黎明期より後のSFファンにしても実は同じようなもんで。今流行の作品も、かつての名作も、入りたての人には「まだ読んでないSF」だから、とりあえず美味しそうな所から手をつけていく。

 そこで古株として偉そうに説教したくもなるけど、そこはグッと抑えて「これも面白いよ」とソムリエ役を務める人になれたらいいなあ。

 90年代以降の話だと、不在ながら存在感を示しているのが梅原克文。「SF冬の時代」なんて言われ、出版社から「SFってラベルがつくと売れない」なんて言われてた時代に、「マニア向けSFばっか出してるから先細りになるんだ、売れる本を出さなきゃ」とアジ飛ばして論争を起こした人。

 言い方はキツかったけど、「二重螺旋の悪魔」「ソリトンの悪魔」は文句なしに面白かったし、「裾野を広げビジネスとして成立する構造にしよう」って発想は妥当だと思うし、そのために彼自身が身を切る想いで習得しただろう「売れる作品の書き方」を、堂々と公開する太っ腹ぶりには頭が下がったなあ。

 その反動として森岡浩之が出てきたのは、皮肉だったけど。これは時代的なものもあるのかも。ガンダムやバック・トゥ・サ・フューチャーなどでSFな仕掛けが若い人に浸透したんで、いきなり話が宇宙空間で始まっても受け入れられる時代になってきたのが大きいような。

 とまれ、それを考えても、オールタイム・ベストは国内篇・海外篇ともに相当にコアでマニアックな顔ぶれで。これは裾野が充実したから頂上も高くなったのか、更にマニアックな世界になったのか、どっちなんだろう。

 最後に。戦後の日本SFの歴史を振り返る感のあるこの号を読んで、「ライトノベルってヒロイック・ファンタジイを現代風に味付けしたモノじゃないのか」などと考えたり。DTP がスリップストリームを生んだ、みたいな話もあって、とすると「Gene Mapper」を送り出した電子出版は、何を生み出すんだろう。

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