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2014年6月27日 (金)

SFマガジン2014年8月号

今の私たちには、まあだいじょうぶだよと受け流す自負と余裕が、多少なりともあると思います。
  ――大森望の新SF観光局 日本のSFの"現実"は厳しいか? より
     塩澤快浩SFマガジン編集長の言葉

 280頁の標準サイズ。特集は「PSYCHO-PASS サイコパス」。表紙からして執行官の狡噛慎也で、リキ入ってます。小説は吉上亮による PSYCHO-PASS の前日譚「無窮花 前編」、梶尾真治の恩讐星域29話「ポッド・サバイバー」、円城塔「エピローグ<4>」。加えて小特集「2014オールタイム・ベストSF プロ投票者全回答&結果分析」。

 吉上亮「無窮花 前編」。チェ・グソンの前日譚。日本に潜入していた工作員チェ・グソン。目的は日本が誇る新世代統治機構<シビュラシステム>の入手。だが、その途中で、突然の帰国を命じられる。妹スソンとの久しぶりの再会に期待したグソンだが、日本海を朝鮮半島に向かう船の中で、小舟に乗るよう指示される。

 アニメで描かれたのは、繁栄を謳歌する日本だけだった。描かれなかった海外の様子を、半島中心に描くあたりが、この作品の楽しみの一つ。こういう風に、少しづつ世界の様子が見えてくると、それだけで嬉しくなってしまうのはなんでだろう。充実した参考文献を元に構築された情け容赦のない半島の社会も読みどころ。

 梶尾真治の恩讐星域29話「ポッド・サバイバー」。ニューエデンの首長アンデルス・ワルゲンツィンは、就寝中にガウス補佐官から緊急の報告を受ける。ノアズ・アーク号が爆発落下した模様、と。地上との往復用のシャトル機が発進した形跡もなく、生存者がる可能性は少ない。だが緊急用の救命設備があるのなら…

 何もない所から少しづつ文明を再建しつつ、沸々と復讐の想いを滾らせてゆくニュー・エデン。地上の様子を何も知らず、楽園だと信じて航行を続けてきたノアズ・アーク。両者の対面の時が迫ってくる回。スプラッタなホラーも切ない物語も器用に書き分けるカジシンだけに、どう転がるか見当がつかない。

 円城塔「エピローグ<4>」。「数学をインストールしますか」との問いかけに、クラビトはいつものように No を選ぶ。コンポーネントは巨大だが、最近のソフトウェアは数学に依存するものばかり。クラビトは意地になって数学を拒んできたし、今までそれでうもなんとかなった。

 Slackware とかのシンプルな環境で Linux のシステム管理をしていた人はニヤリとする出だし。「サーバ用だから Emacs も X Window System も要らないんだって!」などと怒った所で、マシンには通じないし。最近は Apache の設定までブラウザで出来たりして、便利なんだか敷居が高いんだか。

 長山靖生「SFのある文学誌」第32回、「なつこん」記念・茨城古典SF特集中編。明治40年の江見水陰「鹿島灘」を評し…

 マニアックな趣味を持ち、パニックに陥ると変な行動をとる癖があり、あまりハンサムとも見えないのだが、なぜか女性にモテモテであり、そういう自分に自分ではまったく気づいていない男を主人公にしたドタバタ喜劇……。この展開は、ほとんどラノベと一緒ではないか。

 いや全く。読んで爽快な物語は昔から好まれてきたし、作られてきたわけで。吉川英治も、そういうマーケットで揉まれてきて、今でも現役で勝負できちゃってる事こそ、彼の偉大さを示す点だと思うんだけどなあ。50年以上前に亡くなった人の作品が、「ワンピース」や「進撃の巨人」と同じマーケットで生き延びてるって、凄い事でしょ。

 大森望の新SF観光局「日本のSFの"現実"は厳しいか?」。冒頭の引用は、朝日新聞2014年5月21日社会面のコラム「日本のSFの厳しい現実 海外でウケても本が売れない」への返答の一部。伊藤計劃が売れてたり、All You Need is Kill がトム・クルーズ主演で映画化されたり、円城塔が芥川賞を取ったり、むしろ追い風が吹いてると思うんだけどなあ。

 大野典宏「サイバーカルチャートレンド」、今回は「Chromecast と UPnP、DLNAのなかなか濃ゆい関係」。昔はケーブルにもイロイロあって、キーボード用とかマウス用とかプリンタ用とか。今は全部 USB で楽だよね、と思ったら、その先の話。テレビをレンダラーに変えるって、よくわからんがX端末みたいな?←違うと思う。

 激動だった今回の2014オールタイム・ベストSFの結果を受けての「プロ投票者全回答&結果分析」。こういうのは、他の人の投票を見て「ああ、ソレがあったか!」な作品がチラホラ見えたりするのも楽しい所。

 ゼラズニイの「フロストとベータ」は、「十二月の鍵」と票が割れちゃうんだけど、今回は統一できた模様。どっちも甲乙つけがないスケール感と余韻が漂う作品なんで、選ぶほうも辛いところ。海外長篇ではクリフォード・D・シマックの「都市」とシオドア・スタージョンの「人間以上」の名を出せば、「ソレがあったか!」と叫ぶ人が必ずいるはず。

 意外だったのが、菅浩江の「そばかすのフィギュア」。プロだと27位に入ってるのに、読者じゃ入ってない。というと玄人好みなマニア向けの作品みたく思われそうだけど、とんでもない。とっても読みやすく分かりやすく親しみやすく、それでいてSF者の心に染み渡る、売れ筋の作品。なんでもっと評判にならないのかなあ。

 投票内容も、ちょっとしたブックガイドとして使えたりする。手に入りにくい作品も多いんだけど。とりあえずグラント・キャリンの「サターン・デッドヒート」とスパイダー&ジーン・ロビンスンの「スターダンス」は入手しやすくして欲しい。いずれも、娯楽としてもSFとしても楽しめる傑作なんだから。

 あと、できればジョージ・アレック・エフィンジャーの「まったく、何でも知ってるエイリアン」とキャロル・エムシュウィラーの「順応性」を、どっかのアンソロジーで拾って…

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