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2014年6月17日 (火)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 5121小隊帰還」電撃文庫

「よかよか。政治ごっこより、ラーメンの方が重要タイ。この国には、出汁を取るという人類最大の知恵が存在せんからのー」

【どんな本?】

 2000年9月28日、 SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」が発売される。当事のハードウェアの限界を超えた野心的なシステムの開発は宣伝費を食い潰し、宣伝費ゼロというゲーム・コンテンツにあるまじき状態での発売だった。

 だがその過酷な世界設定・斬新なシステム・魅力的なキャラクターは、特定の嗜好を持つファンを惹きつけてロングセラーとなり、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞、2010年にはPSP用のアーカイブで復活して今なお新しいファンを獲得し続けている。

 榊涼介の小説シリーズは、そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まる。ゲームに沿ったストーリーは「九州撤退戦」で一段落するが、その後「山口撤退戦」より榊氏がオリジナルのストーリーを発展させ、この巻へと続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年6月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約296頁。8ポイント42字×17行×296頁=約211,344字、400字詰め原稿用紙で約529枚。標準的な長編小説の分量。

 ライトノベルのわりに、地の文章は素直で読みやすい。内容は素直に前の「西海岸編3」から続いている。

 元となったゲームの設定は壮大だし、小説独自の展開や人物も多い。出来れば最初に出た短編集「5121小隊の日常」か、時系列順で「episode ONE」から入るのが理想。またはアメリカ大陸に渡る「新大陸編1」の冒頭で世界設定の説明があるので、そこから入るのが楽かも。それさえ面倒という人は、西海岸に舞台が移る「5121小隊の日常Ⅲ」または「西海岸編 1」からにしよう。

 でもやっぱり巻頭に5121小隊メンバー紹介のイラストが欲しいぞ。再録でもいいから。

【どんな話?】

 1945年に突然現れた幻獣により第二次世界大戦は終結した。食事が不要で圧倒的な兵力を誇る幻獣は人類を席巻、撤退を続ける人類はユーラシアを失い、南北アメリカと南アフリカの一部、そして日本列島のみとなる。

 1999年、幻獣は九州に上陸。日本政府は14歳~17歳の少年兵を招集し、捨て駒として戦線に投入する。少年らの消耗で稼いだ時間で自衛軍を立て直すする目論見だった。各隊で持て余されたはみだし者を集め組織した5121小隊は、キワモノ兵器の人型戦車・士魂号を与えられ、予想外の活躍を見せる。

 だが幻獣の攻勢は押しとどめられず、5121小隊の働きにより多くの学兵を救うものの、日本は九州を失う。恒例の夏季休戦を破り山口へと上陸を始めた幻獣だが、岩国・広島の死闘を経て自衛軍は初の防衛戦に成功、勢いをかって九州の奪還へと進み、幻獣の一部戦力との和平に漕ぎつけた。

 首都・東京の政変と東北への幻獣上陸、そして北海道独立と危機を戦い抜いた5121小隊は、新大陸アメリカへと渡る。東海岸のワシントン政府と西海岸のシアトル政府に分裂したアメリカ。東海岸レイクサイドヒルで幻獣に包囲された市民を、海兵隊と共に救出した5121小隊は英雄となり、シアトルでも歓迎される。

 日本政府はワシントン政府と正式な国交があるが、シアトルとはない。国交樹立を望む政府、経済交流を願う財界。視察も兼ねシアトル入りした5121小隊は、若者らしいおイタを重ねつつも市民との交流を実現する。銀行強盗事件をきっかけに南部サンディエゴの前線に出た5121小隊は、軍の暗部を垣間見ながら幻獣の猛攻を食い止める。

 しかし、元々疲弊していた5121小隊の面々に過酷な戦闘は大きな負担となった。小隊内では、精神汚染に無頓着なシアトル政府を懸念する者と、早期の帰国を望む者の軋轢が表面化してゆくが、サンディエゴ前線での強引な介入は善行の立場を悪化させていた。

【感想は?】

 西海岸編、堂々の完結。

 最近の榊ガンパレの中では、最も5121小隊に焦点があたる巻かも。新大陸編ではフェルナンデスやプラッターがそれなりに出番があったし、西海岸編では四人組やセルジオ視点の場面も多かったが、この巻では5121小隊視点での話が中心となる。いやちゃんとセルジオ君たちの出番もあるんだけど。

 ゲストの中では、シアトルの桜沢レイちゃん的な立ち居地の肘鉄キャスターが大活躍。その名もサラ・コナーズ。レイちゃん同様の突撃型で、上昇志向も旺盛な模様。素姐さんにいじめられなきゃいいけど。しかし茜、年上の女性にモテるなあ。

 全般的に頭脳戦が中心となるこの巻では、その茜が大張り切り。この巻では、彼と森さんが小隊内の軋轢を象徴している。とにかく自分の才能を発揮する機会を見逃さない茜、早く平穏な日常に戻りたい森。この二人を筆頭に、武闘派と帰国派で小隊が分裂の危機を迎えてゆく。

 この対立の矢面に立つ善行の泣き言が、これまた実に楽しい。

 そんな中、帰国派に属しながらもマイペースなのが中村と岩田の靴下コンビ。彼らに対する素姐の「普通に過ごしていればいいから」も酷いが、素直に「合点承知」って、いいのか中村。まさか、これを機に新たな獲物を…。なにせ、連中のシンジケートが大変な事になっているのが、この漢の終盤で明かされる。大丈夫か合衆国。

 そして忘れちゃいけないタイガー。「九州撤退戦」あたりからフィクサーとしての側面を身につけ始めた彼が、この巻でも密かにアチコチへと飛び回る。コイツも例のシンジケートを広げてるんだろうか。懐かしいゲストも登場し、終盤までキーとなる活躍を見せる。しかしあの目つきの悪いハッピ男、どう考えても商売の邪魔にしかならんと思うのだが。

 戦闘班の中で、意外(でもないか)な帰国派が滝川。でも理由が…と思ったけど、いかにも彼らしいかも。欧米はコムギが主食で粉モン文化なんだけど、やっぱり味付けが違うんだよなあ。焼いてパンにしちゃう欧米と、コネてパスタにする極東の文化。にしても新井木と同じレベルだぞ、いいのか滝川。

 ちなみにあの辺、たしかサンフランシスコに世界最大のチャイナタウンがあったはず。残念だったね、滝川&新井木。

 新大陸編・西海岸編の完結編なだけに、終盤は怒涛の展開で懐かしい顔ぶれが続々と登場する。私が気になっていたのは件の小学校。ええ、そりゃもう、泣かせる人が泣かせ、笑わせる人が笑わせる、愉快な終盤を演出してくれた。つか忍び込むかお前w

 精神汚染に無防備なオルレイ代表率いるシアトル政府、密かに喉笛をかききる機会を伺うリーランド&銀狼師団、そして経済交流を望む日本の政界・財界。暴走のツケで大きな支援が望めない状況で、善行と5121小隊はどう事態を捌くのか。

 そして本当に9月10日に新シリーズが始まるのか。是非とも始めて下さい。

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