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2014年5月 1日 (木)

リサ・ランドール「ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く」NHK出版 向山信治監訳 塩原通緒訳

物理学の目的は、異なる物理量を関連づけて、観測にもとづいた予言ができるようにすることだ。

【どんな本?】

 ハーバード大学の物理学教授でもある理論物理学者リサ・ランドールによる、最新物理学の一般向け解説書。

 最先端の物理学が描く奇妙な時空の性質と、それを説明する超ひも理論・M理論などの最新理論、および最新物理のニュースでよく見かけるクォーク・ヒッグス粒子・対称性・強い力・弱い力などの用語を、数式を使わず素人向けに説明すると共に、LHC(→Wikipedia)などの大型の加速器に何が出来るかを伝える。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Warped Passage - Unraveling the Mysteries of the Universe's Hidden Dimensions, by Lisa Randall, 2005。日本語版は2007年6月30日第1刷発行。私が読んだのは2011年6月5日の第11刷。この手の本にしては破格の売れ行き。ド派手なピンク色のカバーという、デザインの勝利だろうなあ。

 ハードカバー縦一段組みで本文約596頁+監訳者あとがき7頁+訳者あとがき5頁。9.5ポイント45字×20行×596頁=約536,400字、400字詰め原稿用紙で約1341枚。長編小説なら2~3冊分の大容量。

 文章は比較的にこなれてる。が、内容はかなり難しい。数式を使わず、例え話を駆使して解説を進めているものの、語る中身は量子力学や四次元以上の空間など、直感に反する事柄ばかりの上に、ボソンだフェルミオンだと見慣れぬ言葉が次々と出てくる。それなりの覚悟をして挑もう。眠気覚ましのコーヒーまたは紅茶が必須。

【構成は?】

  • 前書きと謝辞
  • Ⅰ部 空間の次元と思考の広がり
    • 序章 なぜ見えない次元を考えるのか/本書のあらまし/未知の興奮
    • 第1章 入り口のパッセージ――次元の神秘的なベールをはぐ
      • 次元とは何か/愉快なパッセージを通って余剰次元へ/二次元から見る三次元/有効論理
    • 第2章 秘密のパッセージ――巻き上げられた余剰次元
      • 物理学における巻き上げられた次元/ニュートンの重力の法則と余剰次元/ニュートンの法則とコンパクトな次元/次元に別の境界はありうるか
    • 第3章 閉鎖的なパッセージ――ブレーン、ブレーンワールド、バルク
      • スライスとしてのブレーン/境界をなすブレーンと埋め込まれたブレーン/ブレーンにとらわれて/ブレーンワールド――ブレーンのジャングルジムの青写真
    • 第4章 理論物理学へのアプローチ
      • モデル構築/物質の中核/今後の展開
  • Ⅱ部 20世紀初頭の進展
    • 第5章 相対性理論――アインシュタインが発展させた重力理論
      • ニュートンの万有引力の法則/特殊相対性理論/等価原理――一般相対性理論の始まり/一般相対性理論の検証/宇宙の優美な湾曲/湾曲した空間と湾曲した時空/アインシュタインの一般相対性理論/最後に/まとめ
    • 第6章 量子力学――不確かさの問題
      • びっくりするようなすごいもの/量子力学の始まり/量子化と原子/電子の量子化/粒子のとらえがたさ/ハイゼンベルクの不確定性原理/二つの重要なエネルギー値と不確定性原理の関係/ボソンとフェルミオン/まとめ
  • Ⅲ部 素粒子物理学
    • 第7章 素粒子物理学の標準モデル――これまでにわかっている物質の最も基本的な構造
      • 電子と電磁気学/光子/場の量子論/反粒子と陽電子/弱い力とニュートリノ/クォークと強い力/これまでにわかっている基本素粒子/まとめ
    • 第8章 幕間実験――標準モデルの正しさを検証する
      • トップクォークの発見/標準モデルの精密テスト/まとめ
    • 第9章 対称性――なくてはならない調整原理
      • 変わるけれども変わらないもの/内部対称性/対称性と力/ゲージボソンと粒子と対称性/まとめ
    • 第10章 素粒子の質量の起源――自発的対称性の破れとヒッグス機構
      • 自発的対称性の破れ/問題点/ヒッグス機構/弱い力の対称性の自発的な破れ/おまけ/注意/まとめ
    • 第11章 スケーリングと大統一――異なる距離とエネルギーでの相互作用を関連づける
      • ズームイン、ズームアウト/仮想粒子/なぜ相互作用の強さが距離によって決まるのか/大統一/まとめ
    • 第12章 階層性問題――唯一の有効なトリクルダウン理論
      • 大統一理論における階層性問題/ヒッグス粒子の質量に対する量子補正/素粒子物理学の階層性問題/仮想のエネルギーを帯びた粒子/まとめ
    • 第13章 超対称性――標準モデルを超えた飛躍
      • フェルミオンとボソン――ありそうもない組み合わせ/超対称性の歴史/超対称性を含めた標準モデルの拡張/超対称性と階層性問題/破れた超対称性/破れた超対称性とヒッグス粒子の質量/超対称性――証拠を査定する/まとめ
  • Ⅳ部 ひも理論とブレーン
    • 第14章 急速な(だが、あまり速すぎてもいけない)ひものパッセージ
      • 初期の騒乱/ひも理論の起源/超ひも革命/旧政権のしぶとさ/革命の余波/まとめ
    • 第15章 脇役のパッセージ――ブレーンの発展
      • 発生期のブレーン/成熟したブレーンと探されていた粒子/成熟したブレーンと対称性/双対性の詳細/まとめ
    • 第16章 にぎやかなパッセージ――ブレーンの発展
      • 粒子とひもとブレーン/重力――あいかわらずの特異性/ブレーンワールドのモデル/ホジャヴァ-ウィッテン理論/まとめ
  • Ⅴ部 余剰次元宇宙の提案
    • 第17章 ばらばらなパッセージ――マルチバースと隔離
      • 私がとった余剰次元へのパッセージ/自然性と隔離/隔離と超対称性/隔離と輝く質量/まとめ
    • 第18章 おしゃべりなパッセージ――余剰次元の指紋
      • カルツァ-クウライン粒子/カルツァ-クウライン粒子の質量を確定する/実験上の制約/まとめ
    • 第19章 たっぷりとしたパッセージ――大きな余剰次元
      • 大きさが(ほぼ)1ミリメートルもある次元/大きな次元と階層性問題/高次元重力と低次元重力の関係/階層性問題に戻ると/大きな次元を探す/大きな余剰次元を加速器で探す/副産物/まとめ
    • 第20章 ワープしたパッセージ――階層性問題に対する解答
      • 歪曲した幾何と、その驚くべき帰結/歪曲した次元での拡大と縮小/さらなる発展/歪曲した幾何と力の統一/実験の意味するところ/さらに奇妙な可能性/ブラックホール、ひも、その他の驚異/最後に/まとめ
    • 第21章 ワープ宇宙の注釈つきアリス
    • 第22章 遠大なパッセージ――無限の余剰次元
      • 局所集中したグラビトン/グラビトンのKKパートナー/まとめ
    • 第23章 収縮して膨張するパッセージ
      • そのころのこと/局所的に集中した重力/まとめ
  • Ⅵ部 結びの考察
    • 第24章 余剰次元――あなたはそこにいるのか、いないのか?
      • 何を考えればいいのか
    • 第25章 結論――最後に
  • 監訳者あとがき/訳者あとがき/巻末 数学ノート/用語解説/索引

 物理学の基礎から最新理論までを順に説いてゆく本なので、素直に頭から読もう。できれば図表の目次が欲しかった。

【感想は?】

 とりあえず、物理学者が大型の加速器を欲しがる気持ちはわかった。

 一般読者向けに、最近の物理学を解説した本だ。私が最近読んだ中では、サイモン・シンの「宇宙創成」とブライアン・グリーンの「隠れていた宇宙」が思い浮かぶ。この本は、その両者に比べ、かなり硬派と言っていい。

 「宇宙創成」は現代物理学の進歩と、それに関わった人の物語が多く、ドラマとしての面白さがある。「隠れていた宇宙」は、様々な多元宇宙の奇想天外っぷりが楽しかった。ところが本書は、今現在の我々が暮している時空そのものをネタとして、相対性理論・量子力学から順々に解き始める。

 ここで最初から、ある意味ブッ飛んだ話が飛び出す。私たちは、世界が三次元だと思っている。時間を入れたって四次元だ。ところが、ひも理論だと、「六つか七つの余剰空間次元があることを前提にしている」。なんじゃそりゃ。じゃ、他の次元はどこに行ったのかというと、ものすごく小さく、もしかしたら丸まってる。うーん、よくわからん。

 といった、時空の構造を探っていくのだが、その探求の道筋が、微小の世界なのが不思議だ。全体を通して鍵となっているのが、四つの力。といっても火と風と水と土とかのファンタジーじゃなく、電磁気力・強い力・弱い力、そして重力。ここで余剰次元が必要になる理由は、重力にあるらしい。

 何度も繰り返されるが、重力は他の力に比べ異様に弱いとか。いや私は坂道を上り下りする度に重力の強大さを思い知っているんだが(←贅肉おとせよ)、そういう事ではない。電磁気力は磁石の力だ。強い力は、陽子や中性子の中でクォークを結びつける力。弱い力は、原子力発電などで利用される力らしい。

 で、これらに対し、重力は極端に弱い。これをどう説明するかが、様々な時空論のネタになっている。ここでケッタイな理論が出てくる。「もしかして重力って、とっても短い距離だと違った振る舞いをするんじゃね?」

 私たちは、こう教わった。「重力はモノの質量に比例して強くなり、距離の二乗に比例して弱くなる」。万有引力の法則だね。で、これは、地球と月・地球と太陽の軌道などで、「だいたいあってる」と確認されている。完全じゃないのは、相対性理論による補正が必要だから。ところが…

とりあえず確実なのは、0.1mmより短い距離にある二つの物体のあいだで重力がどう働くかはわからないということだ。

 なんて、逆の発想が出てくる。なんとか0.1mmまでは、逆二乗則に従っていると、実験して確かめたとか。ところが、それより短い距離だと、今の所は調べようがない。そりゃそうだよなあ。だから、短い距離だと、重力は別の法則に従ってる可能性は、今の所、否定できない。

 これが余剰次元と何の関係があるのか、というと。「もしかして、重力は他の次元に漏れてるんじゃね?」って仮説があるから。他の次元の数により、計れる大きさは極端に違ってくるんだけど。一つだと1億km以上、二つだと1mmぐらい。これ以降、二つのブレーンに挟まれた宇宙とか、ブレーンから離れるに従って重力が小さくなる宇宙とか、ケッタイな宇宙論が終盤になって飛び出してくる。

 で、この辺にケリをつけるのが、1TeVぐらいのエネルギー/質量を持つ粒子で、欧州原子核研究機構CERNが擁するLHCで実現できるエネルギーが、丁度それぐらいなんですね。巧い。

 なんていう時空の性質も面白いが、反粒子を予言できた理由や、ヒッグス場・パリティ対称性などの言葉を解説しているのも、本書の魅力だろう。本当に理解するには、ちゃんと数式で学ばなきゃいけないけど、2ちゃんで見栄はれる程度には、言葉を使いこなせるようになる…ちゃんと読み込めば。

 SF者としても、カラビ-ヤウ多様体とかカルツァ-クライン粒子とか、どっかで見たような言葉が出てくるのが嬉しかった。いや「説明しろ」と言われたら逃げちゃうけど。まあ、あれです、理解はできないけど、理解したつもりにはなれます。そこまでたどり着くには、読書ではなく「お勉強」のつもりで挑まなきゃいけないけど。私は挫折しました、はい。

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