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2014年5月11日 (日)

森奈津子「西城秀樹のおかげです」ハヤカワ文庫JA

(まだお会いしたこともないお姉様、いつかこの頬に優しく口づけしてくださいませ。そして頬だけではなく、いたるところにその熱き唇を……。ああっ! わたくしとしたことが、清らかな乙女の身でありながら、なんて淫らな想像を!)

【どんな本?】

 児童文学と官能小説を自在に書き分け、SFとSMの境界を難なく侵食する作家・森奈津子による、百合ポルノSFギャグ短編集。お約束に縛られたポルノの様式美を都合のいいSF設定で蹴散らし、息つぐ余裕を与えないハイスピードのギャグで読む者の腹筋と社会的立場を破壊する作品集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 元は2000年6月イースト・プレスより単行本で刊行。2004年11月15日に「タタミ・マットとゲイシャ・ガール」を加え早川書房より文庫本で発行。文庫本縦一段組みで本文約326頁+あとがき3頁+文庫版のためのあとがき3頁+柏崎玲於奈の解説「エロスと笑いの解放区」10頁。9ポイント39字×17行×326頁=約216,138字、400字詰め原稿用紙で約541枚。標準的な長編小説の分量。

 児童文学も手がけるだけあって、文章は読みやすい。SFといっても小難しい内容じゃない。というか、むしろ百合ポルノとギャグが主なので、SFはアレな展開に持ち込むための小道具程度に考えていい。美女と美少女のあっふんが好きな人向け。ギャグはセンスと言うかフィーリングというか、そーゆーので合う合わないが決まる部分があるんだが、書名が示すように1970年代末の風俗に詳しい人ならピッタリ。

【収録作は?】

 / 以降は初出。

西城秀樹のおかげです / SFバカ本たいやき編 1997年11月
 謎の疫病で人類は滅びた。人気のない新宿を、早乙女千絵は一人で彷徨う。セーラー服に三つ編みを黒いゴムで留めた清楚な姿で、ホテルセンチュリーハイアットから歩き出す。どこかにいるはずの、お姉さまを探して。だが、彼女が一年ぶりに出遭った人間は…
 わざとらしい耽美で悲劇的な出だしは、当然ながらすぐに裏切られ…。たしかに当事のヒデキの人気は凄かった。物語のキーとなるヤングマンはこちら(→Youtube)。元歌のヴィレッジ・ピープル版はこちら(→Youtube)。そういえば In The Navy(→Youtube)もピンクレディーがカバーしてました(→Youtube)。こういう、向うのヤバい歌を消毒してカバーする手口は、パンクやヒップホップにも使われてたりするから進歩がないというか懲りないというか。
哀愁の女主人、情熱の女奴隷 / SFバカ本 1996年7月
 時子の兄とその妻は、巨額の富と一人娘の絵美里、そして家事用アンドロイドのハンナを残して事故死した。10歳の絵美里は一ヶ月たっても泣いてばかり。時子は心配するが、人付き合いは苦手だし、子供の扱い方もわからない。そこでハンナに絵美里を慰めるよう命じたが…
 ぶっきらぼうな時子と、無駄に丁寧なハンナの会話が楽しい作品。これは二人のキャラを設定した時点で、作者の勝ちでしょう。見事なボケとツッコミのコンビになってる。
天国発ゴミ箱行き / SFバカ本ペンギン編 1999年8月
 1966年1月、アジアのどこかで若者が死んだ。果てのない階段を、若者は昇り降りし続ける。記憶は全て失った。手にあるのは、「324392」と書かれた紙だけ。時々、他の人とも出会うが、互いに挨拶するぐらいで、会話は続かない。だが、ある広場で美しい黒人女に出会い…
 何やら神秘的な出だしだが、そこは森奈津子。俗っぽい天使が出てきたと思ったら、いかにもな展開を挟んで、「何もそこまでやらんでも」な自虐ギャグへと突入してゆく。しかし松島君w
悶絶! バナナワニ園! / カサブランカ革命 1998年12月
 囚人L17890号。娑婆では有名な人気女優だった。だが、彼女には問題があった。少子化に悩む政府は、同性愛を禁止する。にも関わらず、彼女は同性愛にふけるばかりでなく、反体制組織の構成員でもあったのだ。ファンレターを使った囮捜査にひっかかった彼女は…
 熱川バナナワニ園とは、たぶん何の関係もない作品。18禁物の映像にしたら、その趣味の人にはウケそうだけど、費用と市場を考えるとモトが取れそうにないのが難点。何より役者さんを揃えるのが大変だろうし。どうでもいいけど、出てくるバナナは多分みんなキャベンデッシュ。
地球娘による地球外クッキング / SFバカ本白菜編 / 1997年2月
 共同生活する三人の女、理沙と美花子と吉田。理沙はSFオタク、美花子は食い意地が張っていて、吉田は男も女も見境なし。そこに突然、UFOが飛び込んできた。洗面器ほどの大きさで、見事なアダムスキー型。裏にはご丁寧にも三つの半球がついている。しかも、すぐそばに親指ほどで緑色の宇宙人まで…
 UFOの大きさが洗面器ほど、宇宙人は親指サイズってのがミソかな。確かに、この程度の大きさなら、レーダーだって鳥と判断するだろうし、意外と表沙汰にならないのかも。
タタミ・マットとゲイシャ・ガール / 蚊―か―コレクション 2002年2月
 わたくしがターゲットとして選んだその家は、ジパングのこじんまりとした家でした。かつてはロンドンの街角で、わたくしは乙女たちを誘惑し、この牙にかけたものです。この世に一族の最後の者として残されたわたくしですが、まさかあの娘が囮とは…
 プレイステーション2用ゲーム「蚊」のノベライズ集からの収録。明らかにレ・ファニュの短編「吸血鬼カーミラ」を意識した作品。勘違いしたジャポニズムも、金髪美少女の「わたくし」言葉で語られると、なんかソレナリにいいモノみたく思えてくるw
テーブル物語 / 西城秀樹のおかげです 2000年6月
 25世紀。ある惑星の古道具屋に、そのテーブルはあった。相当に古いもので、職人が丁寧に作ったものらしい。問題はその形だ。天板の四隅には女性器が、四本の脚には男性器が彫られている。しかも、それぞれに特徴のあるモノが。
 思うんだが、これ、いっそ連作にしちゃってもいいんじゃないか。ケッタイなテーブルを巡る麗しい女海賊と深窓のお嬢様とか、テーブルに秘められた暗号を巡る女刑事と少女怪盗のナニとか、テーブルの所有権を巡ってカード勝負に興じる有閑マダムと女学生とか。
エロチカ79 / チューリップ革命 2000年1月
 中学三年の不良少女・池本麻里亜は、退屈しのぎの小遣いを巻き上げるために、二年生の美少女・花村美奈を脅し、体育用具倉庫に連れ込んだ。手馴れた脅しで怯えさせるものの、美奈は「勘弁してください、後生ですから……」と泣くばかり。そこに現れたのは、凛々しい生徒会長、山崎智子。
 うんうん、やっぱり、ギャグはこうでなくちゃ。大事なのはリフですよリフ。端正な顔立ちに強固な意志、準備万端整えて変化自在にコトにあたる智子ちゃんがよいです。つかその鞄、ドラ○もんのポケットかいw
 あとがき/文庫版のためのあとがき/解説・柏崎玲於奈

 なんとも、ギャグの評は難しい。ネタ割っちゃったら本編を読んで笑えないし、かと言って可笑しさを真面目に解説してもシラけるだけだし。にしても、「SFバカ本」シリーズから四本も収録してるのが嬉しい。

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