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2014年4月10日 (木)

レドモンド・オハンロン「コンゴ・ジャーニー 上・下」新潮社 土屋政雄訳 マルセラン語録

 コンゴ人民共和国(現コンゴ共和国)のテレ湖に住むと言われる、幻の怪物モケレ・ムベンベを訪ね、コンゴへ赴いた無謀なイギリス人レドモンド・オハンロン。道連れはアメリカ人の動物行動学者ラリー・シャファー博士。

 現地のガイドは、なんとモケレ・ムベンベを目撃したと主張する当人、マルセラン・アニャーニャ博士。留学経験もある生物学者で、動植物保護省の職員として密漁を取り締まる立場でもある。女出入りが激しく胡散臭い所はあるが、奥地の事情に通じていて顔も広く、多くの村の有力者とのコネを持つ頼れる男だ…いいコネばかりとは限らないが。

 そんな彼らの旅を、レドモンド・オハンロンの視点で綴ったのが、「コンゴ・ジャーニー」だ。

 本書中で、私が最も気に入ったのが、マルセラン・アニャーニャ博士。

 奥地に生まれて事情に通じ、フランス植民地時代に高等教育を受けて留学し、今は共産党政権の政府の職員として動植物の保護にあたるマルセラン博士。彼の人格は複雑だ。政府職員としてコンゴの発展を望む想い、教養人として世界的な立場からコンゴの現状を俯瞰する視点、そして世襲村長と呪術が支配するバンツー族の感覚を備えている。

 一筋縄じゃいかない性格だし、絡み合った鬱屈を抱えている上に、腹に何か一物隠し持っている様子なので、彼の言葉は素直に信用できない。が、彼の台詞は、混沌としたこの本の魅力に、更なる深みを与えている。

 という事で、マルセラン・アニャーニャ博士の台詞を、幾つか抜き出してみた。雰囲気を掴んで頂けると嬉しい。

●双子

「(コンゴの村で)双子が生まれるのは恐ろしい災いでな、母親が霊と寝たからだと言われている。一度に複数の子を生むなんて、獣と同じじゃないか。で、昔は呪い師が母親を殺して、赤ん坊を森に投げ捨てて、母親の持ち物を全部壊したものだ。その女は誰の先祖にもなれない。存在した事を取り消されるんだ。その日以後、誰も女の名前を口にしなくなる。女の実の母親でさえ名前を忘れる」

●理性と呪術

「フランス人に聞けば、自分たちは理性を信じていると言うだろうが、それは嘘だ。フランスではな、司祭の数たるや膨大なもので、それよりももっと多いのが占星術師さ。司祭と占星術師――魔術を信じるフランスの二大勢力だ。さて、この連中の正体は何だ?」
「その正体は、どちらも呪い師よ」

// 日本も似たようなモンです。
// なんたって、全国ネットのテレビ局で、朝から放送してるのが星占いなんですから。
// 地上波デジタルなんてハイテク使って、流す情報の中身はオカルト。
// エロや暴力より、よっぽど科学教育に悪影響があると思うんですが、
// その手の教育に興味を持つ団体が抗議したって話を、私は寡聞にして知りません。

●近視

「(あの子は)ひどい近眼なんだ」
「ここには眼鏡がない。眼鏡だけではなく、おまえが当たり前と思っているいろいろなものがない。あの子は一生を霧の中で過ごすことになる。狩りができないし、畑でも人並みには働けまい。できることは何もない。オフィスでの仕事、時計の修理――論外だ。当然、嫁の来手がない」

●派遣教師

「この国では、すべての教師が奥地の村で二年間勤めることになっているが、それは建前でな、これ以上行けないというこんな森の中に派遣されてくるのは、貧乏人の子弟ばかりだ」
「いつ病気で死ぬかもしれないし、殺されるかもしれない。急にいなくなっても、誰も気にしない。そんな場所に送られてくるのはなぜだ。家族に金もなく、影響力もない。政府に親戚もいない。だからだ。高原にあるサバンナの村みたいな安全な場所には生かせてもらえない」
「連中は、胸に深い恨みを抱えてここに来る。来て、コンゴの紅衛兵になる。当然、アメリカ人は敵だと子供たちに教える」
「だが、心配無用だ。だってな、誰もそんなことは信じていない。アメリカというのは、好きなだけ肉を食える国、ブルージーンズがもらえる国だ。すべての望みがかなうんだから、誰も呪い師のところになんか行かない」

●刑務所

「エベナに連行して、五日間だけ刑務所に入れておく。五日間というのは、家庭内の殺人や呪いによる殺人に適用される拘置期間なんだが、この辺じゃ、そのどちらでもない殺人なんてないからな」

// 家庭内の殺人の刑が五日間ってのも凄いですが、
// 呪いに殺人罪が適用されるってのも驚きです。
// いっそ、「目には目を、歯には歯を」の理屈で、
// 政府が呪い師を雇い、被告を呪えば丸く収まるのかも。

●政治委員

「どの村でも同じだ。政治委員はな、なるべく素性の卑しいのを選んで村の副議長にするんだ。もちろん、学校に行ったことがあって、共産主義者を名乗っていることが条件だがな。要するに、政府としては世襲村長の力を弱めたいんだ。生まれの卑しい連中は副議長側につくから、どの村も分裂状態にある」

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