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2014年4月 6日 (日)

森岡浩之「星界の断章Ⅲ」ハヤカワ文庫JA

「そのために陛下(エルミトン)がいるのではなくって? あたくしだって皇族(ファサンゼール)の存在意義がスポールに馬鹿にされるだけしかないなんて、不敬なことは思っていないのよ」
  ――「野営―ペネージュの場合―」

【どんな本?】

 遠未来を舞台に、超光速航法「平面宇宙航法」を駆り宇宙空間を支配する種族アーヴを描く、人気スペース・オペラ「星界の紋章」シリーズの番外編にして最新刊。DVD-BOXやCDドラマの付録として収録された「野営」「出奔」などのほか、SFマガジンに発表した「介入」「海嘯」に加え、書き下ろしの「来遊」を収録した短編集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年3月25日発行。文庫本で縦一段組み、約290頁。9ポイント39字×17行×290頁=約192,270字、400字詰め原稿用紙で約481枚。長編小説なら標準的な分量。文章そのものは読みやすい。ただ、長編シリーズの番外編であり、ファン向けの色が濃いので、星界シリーズを知らない人には辛いかも。

【収録作は?】

 / 以降は初出。

野営 /
 「野営―ドゥサーニュの場合―」 『EMOTION the Best 星界の紋章 DVD-BOX』付録(2010年5月)
 「野営―ペネージュの場合―」 『EMOTION the Best 星界の戦旗 DVD-BOX』付録(2010年6月)
 「野営―ノールの場合―」 『EMOTION the Best 星界の戦旗 Ⅱ・Ⅲ DVD-BOX』付録(2010年6月)
 修技館を志望する動機は、大きく分けて三つある。一つは義務として入学する者。第二に、特権を受け継ぐために受験する者。第三に、権利として入学する者。
 修技館のお野営地では毎日、掲揚式と降納式を行なう。式を執り行うのは訓練生から選ばれた衛旗士だ。任期は一日、降納式から翌朝の掲揚式まで、帝国旗を預かり一晩保管する。
 これぞ正しいキャラクター小説。同じ状況に三組のコンビを叩き込み、それぞれの反応の違いを楽しむお話。やはり傲岸不遜で豊かな罵倒の語彙をスポール閣下が披露する「野営―ペネージュの場合―」は、勢いがあって楽しい。「野営―ノールの場合―」は、大人気のあのお方が主人公を務め、鮮やかな噴火を披露してくれる。
出奔 / 『星界の断章オーディオドラマCDブック with 星界の紋章&星界の戦旗』(2011年3月)
 13歳の時、ドゥヒールは家を出ようと考えた。専用の交通艇はあるが、完全手動操縦はできない。それは翔士叙任まで待たねばならない。そこに、叔母のラムリュークが王宮に滞在するとの情報が入る。この機を逃す手はない、と考えたドゥヒールは…
 何かと姉ちゃんと比べられ、窮屈な思いをしているドゥヒール君が、一念発起してやらかすお話。考えてみると、周囲にいるのは老成した大人と優秀な姉だけって環境は、なかなか辛いもんがあるよなあ。
介入 / <SFマガジン>2013年5月号
 ベリサリア星系は、危機に陥っていた。スーメイ人が強制執行艦隊を擁し、取立てに現れたのだ。一標準年以内にサトゥルノ大陸を引き渡せ、と。政府交渉官のアルコ・アウゴは、伝令として自転車で走り回る。政府は地下の秘密政庁で大統領スキピア・ケセルや野党のグスト・コントが集まり…
 陰険な会話が巧いこの作者、この短編では政治家同士の「話し合い」の場面で筆が冴える冴える。特に乱入者のグスト・コント、彼の下心たっぷりの混ぜっ返しが、いかにも腹黒な野党政治家の憎ったらしさがよく出てる。
誘引 / <月と星の宴>2007年8月
 戦列艦<ボーリンシュ>の翔士食堂で、セスピーは列翼翔士および四等勲爵士に叙せられる。同時に、フェリーグにも。傍流とはいえスポールの気質を充分に持つフェリーグに、最初は戸惑ったセスピーだが、もう慣れたし、それほど嫌な奴でもない。
 うん、まあ、アレだ。スポールってのは、遠くから見ているからいいんであって、あまり近づいてはいけないのですね。
海嘯 / <SFマガジン>2013年10月号
 貨客船<ギューシュ・アルビゼラ>第一船艙に姿を見せたラムリューヌを、飼育官のスナカシュは喜んで迎える。ここには数百頭の山羊がいる。往還艇に乗せるため、睡眠槽から出していたのだ。さすがにこの数となると匂いも強烈で…
 会話が楽しいこの作者、ここではスナカシュとクファバールの対照が味わおう。いいずれも自分の職務に熱心に励んでる人なんだが、互いに極端な形でコミュニケーションがアレだったりする。私が勤めるならスナカシュと同じ職場がいいなあ。
離合 / <SFマガジン>2014年1月号 「岐路」改題
 <アーヴによる人類帝国>の都ラクファカールは陥落しようとしていた。特設工作艦<クニュムラゲール>の艦橋で、コンサ千翔長は独立戦隊を率いている…といっても、貨物船を特設工作艦と称した<クニュムラゲール>だけだが。
 大人気のあの方の出生の秘密が語られる作品。にしても、アーヴってのは、なんだってこう、偏った性格の人ばっかりなんだろうw
来遊 / 書き下ろし
 これは30番目の氏族の話だ。それは帝国の創建前。わたしロビート・ボイガは都市船<アブリアル>で星々を巡った最後の世代だ。その時に訪れた人類社会は、ラ・ゲルシスマという星系だった。人口も500万人ほど、科学技術も維持がやっとで、交易相手としては物足りない。<アブリアル>は補給のため8.1光年先の星系に立ち寄り…
 平面宇宙航法の誕生にまつわる話。偏った人ばかりが出てくるこの本でも、最後を飾るに相応しい人が登場する。イギリスだったかな? そこの数学研究所は、学者たちの交流を盛んにするために、部屋には扉がなくて、エレベーターにはホワイトボードが置いてあるとか。

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