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2014年3月30日 (日)

SFマガジン2014年5月号

「刑は執行されたんだ」きっぱりと、タクミは言う。「死刑囚の刑が執行されたということは、囚人は死亡している。わたしはではだれでしょう、そう警察に電話しろと、あんたは言っているわけだが、そんな話を相手がまともに受け取るわけがない」
  ――神林長平「絞首台の黙示録」

 280頁の標準サイズ。

 特集は「非英語圏SF特集」。小説三本に加え「非英語圏SFブックガイド」として日本語で読める非英語圏のSF小説14本を紹介。小説はフランスのロラン・ジュヌフォール「パッチワーク」稲松三千野訳,中国のスタンリー・チェン(チェン・チュウファン)「鼠年」中原尚哉訳,インドのヴァンダナ・シン「異星の言葉による省察」鈴木潤訳。

 小説は他に連載が四本、夢枕獏「小角の城」,梶尾真治の恩讐星域「大破砕」,神林長平「絞首台の黙示録」,円上塔「エピローグ」に加え、小田雅久仁の読みきり「廃り」。どうでもいいが日本語のSFも非英語圏だよね。

 ロラン・ジュヌフォール「パッチワーク」。シリーズ<オマル>の一編。このシリーズの舞台は惑星オマル。「平らな世界とも思えるほどに巨大で、(略)太陽はつねに天頂から動かない」って、そりゃラリイ・ニーヴンの…。まあいい。

 ヒト族・ホドキン族・シレ族の三種の知的生物が住む世界。種族間の諍いは絶えないが、共生を望む者もいる。三種族の棲域が交わるセルム高原地方のロプラットは、三種族都市として三つの種族が三つの地区に分かれて住んでいる。
 法医学者として死体解剖に携わるホドキン族のシズニー・オクテダ・シェンド医師のもとに、ヒト族の死体が持ち込まれる。持ち込んだのは顔なじみ、ヒト族のムスラーフ・ポガビ刑事。ホトケは三十歳の健康な男性、所見は心臓発作だが、シズニーは気づく。「脇腹の、この古い切り傷……・これは何だ?」

 この作品に出てくるのはヒト族とホドキン族。主人公のシズニーが、ホドキン族の中でも変わり者、という凝った位置づけ。「ホドキン族の目には中間色である、ごく薄い赤色の」なんて記述が、いかにもなエイリアンの感覚を伝えてくる。たぶん錐体細胞(→Wikipedia)が反応する波長が違うんでしょう。そうなったのは連中の母星の恒星のスペクトル分布が…まあいい。ヒト族代表のムスラーフ刑事が、口は悪いけど悪気のない俗物で、オタク気質のシズニーといいコンビになってる。

 作品云々の他に、フランスのSFを翻訳する人が出てきたのが嬉しい。フィリップ・キュルヴァルの「愛しき人類」は面白かったなあ。

 スタンリー・チェン(チェン・チュウファン)「鼠年」。大学を卒業したって、就職先がない。だから僕と小豆は鼠駆除隊に入った。序隊後の就職が保障されてるし。鼠ったって、タダの鼠じゃない。遺伝子改造で作られたネオラットで、図体が大きく普通の毒物は効かない。外貨を稼ぐため輸出用に作ったんだ。だが小豆は死んだ。

 中国語→英語→日本語の重訳だが、かなり訳文は自然。SF短編小説としても綺麗にまとまっていて、充分に日本やアメリカと同じ水準で張り合えるレベルだと思う。ラストは映画プラトーンを連想する。それ以上に、現代中国の風が伝わってきて、興味深く読めた。

 高学歴者の就職難や、政府のお題目を繰り返す小豆、そしてコネありの小夏に群がる野郎どもとかの、中国の若者事情が楽しい。また、「逃亡を防ぐために、鼠駆除隊の学生はかならず出身地から遠い地方に派遣されている」なんて記述は、人民解放軍の人事政策をうかがわせると同時に、この記述が検閲にひっかからない事に驚く。他にも軍や党を揶揄したと思える部分があって、中国の変化を感じさせる。

 ヴァンダナ・シン「異星の言葉による省察」。夕方、老いたビルハ婆さんは玄関の階段に腰掛け、犬の首に手を置き、回想にふける。若かった頃。エイリアンの巨大な要塞にの、隠された入り口は、彼女に反応したかのように開いた。そこにいたのは、行方不明になった兵士と、巨大な機械。

 7年に一度しか太陽が沈まない世界を舞台に、不思議な物語が展開する。宇宙船やエイリアンの機械などの言葉遣いはSFっぽいけど、お話の流れは、むしろファンタジイの感触が強い。

 梶尾真治の恩讐星域「大破砕」。ノアズ・アーク号が、分解しはじめた。オクラホマⅣとⅤの中間部分が大破砕をおこしたのだ。若いカンジ・ナシムラは、付き合い始めたスーザン・ペイジを心配していた。N-ホーンも繋がらない。確かオクラホマⅠで、老人たちのケアサービスの仕事に就いてるはずだが…

 終盤に向け盛り上がってきた恩讐星域、今回はノアズ・アーク絶体絶命の危機。ニュー・エデンにたどり着いたはいいが、現地の状況は不明のまま。シャトルによる移送計画は進まないのに、拠点となるノアズ・アークは崩壊を始める。カール・モーリー・ライリーの三人とティルダは、「ヴェールマンの末裔たち」の三人+1を思わせる。職人だなあ。

 神林長平「絞首台の黙示録」。実家に父はいなかった。来たのは、タクミと名乗る男。死刑囚だと言う。だが、脱獄はしていない、と。何を言ってるんだ。おれを脅しているのか。だが、その割に、この家の中をよく知っている。台所に立って、迷いもなく茶を入れる。食器や茶のありかを知っているんだ。何者なんだ、こいつは。

 読者にはタクミの正体がわかるんで、彼が誠実に語っているのがわかる。が、やっぱり勘ぐるよね、普通。おまけに「死刑囚だ」なんて言われたら、「ビビらせようって魂胆か?」と考えても仕方がない。などと変に気を回す語り手が、おかしいやらじれったいやら。

 円上塔「エピローグ<1>」。フィールドは、廃墟となった住宅地だ。朝戸連(アサト・レン)は、侵略者OTC(オーバー・チューリング・クリーチャ)の構成物質を手に入れるため、アラクネと共に任務についた。アラクネは中隊から貸与された備品だ。スマート・マテリアルで構成され…

 わけわからん芸風の円上塔、これもやっぱりわけわからない。人類から見たらOTCは侵略者だが、OTCか何を考え何をやっているのかは、全く見当もつかない。そもそも舞台が現実世界じゃないし。じゃ電脳世界かというと、それほど単純な話でもない。宇宙解像度とか、宇宙そのものの構造が変わっちゃってるらしいが…

 小田雅久仁「廃り」。久保家の者は、叔父の隆志の話をしたがらない。隆志は母の三つ下の弟だ。生前、母は小説を書いていた。その一つは「廃り」と題されている。私はその「廃り」を祖母から渡され、15の時に初めて読んだ。私にはわかった。これは母・結香と、叔父・隆志の物語だと。

 ヒトと同じ姿かたちをしていながら、色を持たず灰色の「廃り」。人は「廃り」を無視して生活している。「廃り」が始めて登場する場面は生々しくて、何か社会風刺を含んでいるのかな、と思ったんだが、判然としない。中盤から終盤に向かうにつれ、次第に幻想色が濃くなってゆくんで、考えすぎかも。先の「パッチワーク」もあって、「そもそも色とは…」などと野暮な事を考え始めると、余計わからなくなる。

 飯田一史「エンタメSF・ファンタジイの構造」第2回。「楽」と「哀」を満たすSF(?)作品――有川浩『図書館戦争』。ベストセラーになった「図書館戦争」を分析して、売れる作品のコツを洗い出してゆく。「売れる作品」として見ると、「図書館戦争」は学ぶ所が山ほどあって、どっから手をつけていいかわからん程。導入部は衝撃的で読者を一気に引きずりこむし、ギャグは冴えてるし、会話も勢いがあるし、文章も読みやすいんだけど、今回は小説全体の構造の話。政治的に鬱陶しい議論になりがちな作品だけに、飯田氏も苦労している模様。

 池澤春菜「SFのSは、ステキのS」、「明日は見えねど高楊枝」。今回はなんと守護霊の話。この人、本当に本業は役者なのかしらん。会話の文章、テンポよすぎ。いや笑った笑った。えっと、当然、守護霊だから、お風呂の時も…いえ、なんでもないです。つか日本語通じるんだろうか。

 タニグチリウイチのブックレビュウ、気になるのが片理誠の「ガリレイドンナ 月光の女神たち」。あの芸風であの作品をノベライズとなると、当然、私が大好きな王道の冒険SFに仕上がってるに違いない。

 って、次号も片理誠が載るのか。これは期待。

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