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2014年3月24日 (月)

フランツ・カフカ「カフカ・セレクションⅡ 運動/拘束」ちくま文庫 平野嘉彦編 柴田翔訳

期間中、昼も夜も中断なしに断食芸人に張り付くことは、誰にもできない。だから誰も、実際に断食が中断なく間違いなく続けられていたことを、自分自身の目で確かめることはできない。ただ断食芸人本人だけがその真相を知り得るのであり、従って、断食に完璧に満足する見物人となり得る可能性を持つのは、ただ彼自身だけだった。
  ――ある断食芸人の話

【どんな本?】

 1883年にオーストリア=ハンガリー帝国内のチェコのプラハに生まれたユダヤ系のドイツ語作家フランツ・カフカ(→Wikipedia)の、中編・短編を集めた三部作の第二巻。完成した小説ばかりでなく、未完の作品やタイトルのついていない断片までも集めた、マニアやコレクター向けの濃いセレクションでもあるが、短い作品から次第に長い作品へと並べた編集は、初心者にもとっつきやすい配慮となっている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年9月10日第一刷発行。文庫本縦一段組みで本文約289頁+訳者あとがき17頁。9ポイント37字×16行×289頁=171,088字、400字詰め原稿用紙で約428枚。長編小説なら標準的な長さ。

 やはり文章は比較的にこなれている。第一巻同様に内要は意味不明な作品が多いが、私が慣れたのか違う芸風の作品を集めたのか、特に後半は自分なりに解釈できる作品が多い気がする。この巻では、作品ごとに訳者が簡単な解説を付けているのが嬉しい。

【収録作は?】

〔私は最初の門番の前を〕/インディアンになりたいという願い/〔アレクサンダー大王〕/〔列車の車室に座って〕/〔夢幻騎行〕/〔公園の藪〕/〔牢獄の一室ではないのだが〕/アマチュア競馬の騎手諸氏のための考察/〔珍しくない出来事〕/天井桟敷にて/〔白馬が最初に姿を見せたのは〕/〔中庭への扉を叩く〕/〔セイレーンたちの沈黙〕/商人/ある夢/〔死者たちの家へ客に呼ばれ〕/石炭バケツの騎手/〔肉屋の兄妹〕/最初の悩み/街道の子どもたち/〔狩人グラフス〕/ある断食芸人の話/判決――ある物語/流刑地にて/〔巣造り〕/ブレッシアでの懸賞飛行
 訳者あとがき

 〔 と 〕 で囲った作品はタイトルがついていないので、訳者が仮に名づけたもの。

【感想は?】

 やはりよくわからない作品が多いが、どうせわからないなら、いっそ思いっきり自分勝手に解釈してしまおう。ということで、気に入った作品だけを身勝手な解釈で紹介する。

〔白馬が最初に姿を見せたのは〕
秋の日の午後、市街の大通りに白馬が姿を現した。誰の馬でもないが、足取りは落ちついて都市に慣れている模様で、目立ちはするが騒ぎにはならなかった。
日常の情景の中に、突然ケッタイなシロモノが現れたら、人はどうするか。「おお、珍しい」と思ってチョッカイ出す奴もいるけど、大抵の人は、自分の邪魔にならなきゃ放っておくもので。
〔セイレーンたちの沈黙〕
魔女セイレーンの歌声は、人を惑わし船を難破させる。彼女らの声に抗うためオオデュッセウスは耳に蠟を詰め、体を帆柱に鎖で縛り付けたと言われるが…
いきなり「そんな対策が役に立たないことも周知の事実だった」と、古の神話にみもふたもない突っ込みで大笑い。そりゃ、誰だって気がつくよな、その程度のアイデア。
最初の悩み
サーカスの花形、空中ブランコ。完璧な芸を求める空中ブランコ芸人は、その芸を磨くうちに、公演が続く限り昼夜を通し空中ブランコの上で暮し始め…
「空中ブランコの上で暮らす」という突拍子もない発想を、至極真面目に突き詰めて考え、描いていく。にしても、興行師の気前のいいこと。
〔狩人グラフス〕
一艘の帆船が港に入ってくる。二人の男が棺を担いで下りてくる。棺の中にいるのは、とっくの昔に死んだ男、狩人グラフス。ドイツのシュヴァルツヴァルトで羚羊(かもしか)を追って断崖から落ちた。だが彼の黄泉送りの船は航海に失敗し、この世の水路を航海し続けている。
意味はわからないながら、次の一節が気に入って。
 必要なら古い昔の祖先の人々と現在の人々との間で通訳だって務めることだってできますよ。
 しかしパトロン衆の思考過程が問題で、そこを理解することが私には出来ない。
私も訳文は理解できるけど、カフカの思考過程が理解できないw
ある断食芸人の話
かつては人気だった断食芸人。大人たちは流行に乗って見に来るだけだが、子供たちは真剣に見ていた。中には芸をあざける者もいたし、じっさい彼にとっては簡単な芸だった。
 そのプログラマはC言語に精通していた。K&Rは完全に暗記し、ソース・プログラムを見ればどんなコードが吐き出されるか直感的にわかった。際限なく続く前置きの*を易々と使いこなし、言語仕様の裏をかいてCPUクロックを節約するのもお手の物だった。しかし「unix使いならCは常識」だった時代はc++を経てJavaやRUBYへと移り、プログラマは仕事にあぶれ…
 と、先の「最初の悩み」同様、自分の芸を至上と考える偏った価値観の人と、常識的な感覚の興行主や観客との軋轢の話、として読んだ。プログラマはコードの綺麗汚いを気にするけど、経営者や発注者や利用者はトラブルなく動けば充分で、それよかダイアログやアイコンのデザインを気にしたりする。
流刑地にて
調査旅行の途中で、一兵士の処刑に立ち会うよう招待されたフィールド調査研究者。処刑を司る士官は、誇らしげに装置を調査研究者に解説する。
処刑装置に入れ込み、楽しげに装置を語る士官のイっちゃったフェチっぷりが楽しい作品。「見てよ、見てくれ、ああでもそんなに雑に扱わないで!」なマニアの気持ちがジワジワと伝わってくる。
〔巣造り〕
私は地中に見事な棲み家を造り上げた。四方八方に走る隧道を、私は隅々まで知っている。回廊のおよそ100メートルごとに、円形の小広間があり、私はそこで安らげる。なかでも最も誇らしいのは、中心的大広場で…
 大掛かりで野心的なシステム開発に着手する。今まで聞きかじりだった手法や、暖めてきたアイイデアを試すいい機会だ。まずツール類やライブラリの実装から始める。細かい部分を詰めてないアイデアや、面白そうだが詳細が不明だった技術も、開発しながら学び、やがてシステムが動き始め完成する。
 完成する頃には、開発者も成長している。開発の初期に苦労して作ったツールやライブラリも、今思うと幼稚で作りが雑だ。つか、そもそも基本設計がスマートじゃないよね。抽象化も、もう一段上げられるし。だいたいなんだよ HTML と CSS とJavaScript って。リストとアトムなら全部S式でイケるじゃん。でも今さら変えられないしなあ。
 って、余計わかんねえw
ブレッシアでの懸賞飛行
小説ではなく、ノンフィクション。若い頃のカフカが、友人と共に出かけたイタリアのブレッシアでの飛行機ショウの見物記録。これも次の一節が気に入った。
 それは完璧な仕事ぶりだった。だが完璧な仕事というものは、とかく正等に評価されないものだ。と言うのも、人々は完璧な仕事を前にすると、自分でもできる気がしてくる。仕事があまりに完璧だと、特別の勇気など必要ないように思えてくるのだ。
 使いやすいユーザ・インタフェースや、読みやすい文章は、作った人の作為を感じさせず、自然に理解できる。直感的に分かってしまうが故に、作るのも簡単だと思えてしまう。まあ、この辺は、断水したり停電したりすると、よく実感できます。巧く動いてるモノってのは、壊れた時に初めて存在が実感できるモンなんです。

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