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2014年3月 9日 (日)

井上信幸・芳野隆治「トコトンやさしい核融合エネルギーの本」日刊工業新聞社B&Tブックス

水の中には重水素が普通の水素のおよそ1/6700含まれていますから、地球上の水に含まれる重水素の量は膨大です。一方の三重水素はおよそ12年で数が半減する放射性物質なので、自然界にはほとんどありません。なのに、なぜ燃料が豊富と言えるのでしょうか。実はDT核融合炉は自分で三重水素を作るのです。

【どんな本?】

 未来のエネルギー源として嘱望され、SFでは太陽系何の宇宙船のエンジンとしてよく登場する核融合。それはどんな原理なのか。どうやってエネルギーを取り出すのか。燃料はどこからどうやって調達するのか。放射能や暴走の危険はないのか。発電所はそんな仕組みなのか。なぜ実現が難しいのか。今はどこまで研究が進んでいるのか。

 核融合発電の豊富な知識と経験を持つ著者が、日本の大型トカマク装置JT-60や国際熱核融合実験炉ITERを例に、核融合発電の原理から開発の鍵となるプラズマ制御、開発の世界的な協力体制から実用へのスケジュールまで、核融合発電の理論・現在・未来を総合的に語る、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2005年7月30日初版第1刷発行。単行本A5ソフトカバーで縦二段組、本文約146頁。独特のレイアウトなので、文字数は実質的に半分と見ていい。8.5ポイント25字×17行×2段×146頁/2=約62,050字、400字詰め原稿用紙で約156枚。単純に文字数だけ見たら、小説だと長めの短編の分量。

 技術・産業の難しいテーマを一般向けに出版する「トコトンやさしい」シリーズ、わかりやすさと親しみやすさのために、独特の工夫をしている。知識と経験は豊富な専門家だが、素人向けの著述には不慣れな人が著者だ。その欠点を補い知識と経験を引き出すため、編集・レイアウト面で徹底的な配慮をしている。以下は、シリーズ全体を通した特徴。

  • 各記事は見開きの2頁で独立・完結しており、読者は気になった記事だけを拾い読みできる。
  • 各記事のレイアウトは固定し、見開きの左頁はイラストや図表、右頁に文章をおく。
  • 文字はゴチック体で、ポップな印象にする。
  • 二段組みにして行を短くし、とっつきやすい雰囲気を出す。
    デザインの法則で、行が長いと堅苦しく、短いと親しみやすい雰囲気になる。
  • 文章は「です・ます」調で、親しみやすい文体にする。
  • 右頁の下に「要点BOX」として3行の「まとめ」を入れる。
  • カラフルな2色刷り。
  • 当然、文章は縦組み。横組みだと専門書っぽくて近寄りがたいよね。
  • 章の合間に1頁の雑学的なコラムを入れ、読者の息抜きを促す。

 と、編集では充分な配慮がされているが、それでも、かなり難しい。もちろん、数式・分子式もチョコチョコ出てくる。特に重要なのが、フレミングの法則(→Wikipedia)。原理的に「いかにプラズマを磁力で制御するか」がキモなので、どうしても必要なのだ。頁数こそ少ないが、内要は濃い。相応の覚悟で望もう。

【構成は?】

 はじめに
第1章 究極のエネルギー源、核融合炉
第2章 核融合炉の炉心は高温プラズマ
第3章 核融合炉実現への道を切り開いたトカマク
第4章 国際熱核融合実験炉ITER
第5章 核融合発電のさまざまな側面
 参考文献/索引

【感想は?】

 著者の熱意はわかる。わかるのだが、プラズマ制御の部分は、理解するのがかなり難しい。

 先に書いたように、専門家が執筆した本だ。著者は知識と経験は豊富で、開発の最前線の話題もよく知っている。反面、著述は素人なので、一般人向けにわかりやすく説明するのは不慣れだ。それを、徹底した親しみやすい編集の工夫で補うのが、このシリーズの特徴。

 著者は経験も知識も豊富なので、ネタにはこと欠かないし、熱意も感じる。「なるたけ沢山の正確な知識を伝えたい」という思いも伝わってくる。きっと泣く泣く切り捨てたネタも沢山あるんだろう。そんなわけで、親しみやすい表紙やレイアウトとは裏腹に、中身は相当に濃くなった。

 第一章は核融合の原理そのものを扱う。第二章から第三章は、核融合発電の技術の概要を、特にプラズマの制御を中心に説明する。第4章は国際的な協力関係を、第5章は今後のスケジュールや放射能関係の問題点を挙げてゆく。中で、最も歯ごたえがあるのが、第2章と第3章。いずれもプラズマの制御を扱う部分だ。

 つまりは「核融合炉の炉心で何が起きているか」という、核融合発電の心臓部に関する話だけに、どうしたって細かくなるのは仕方がないんだが、こんなに複雑だとは思わなかった。

 核融合の原理そのものは比較的にわかりやすい。燃料は重水素=D(陽子1個+中性子1個)と三重水素=T(陽子1個+中性子2個)が融合し、ヘリウム(陽子2個+中性子2個)と中性子1個になる。この時にエネルギーが解放され、熱になる。余った中性子はリチウム(→Wikipedia)と融合し、三重水素になる。重水素は沢山あるが、三重水素は少ない。けど、炉を運転すればリチウムが三重水素になるんで、自給自足できる。 

 この時点で、素人の私は早速驚いた。どんな水素でも使えるわけじゃないのだ。重水素と三重水素でなきゃいけない。しかも、三重水素はリチウムからの自給自足。ちょいと水を電気分解して水素を取り出し…ってわけには、いかない。

 そんな面倒くさい手間かけて何が嬉しいのかというと、取り出せるエネルギーがやたらと多いから、この本ではエネルギー欠損で説明しているが、「化学反応の場合は約1/1億」「DT反応の場合は0.38%」。化学反応って、つまりは火力発電で、DT反応は核融合。火力:核融合で見ると、1:38万。取り出せるエネルギーが、圧倒的に大きいのだ。

 とはいえ、核融合反応を起こす条件が厳しい。原子核同士は反発し合うので、正面から勢いよくぶつける必要がある。そのためには圧力と温度をあげる必要がある。太陽の中心では約2400気圧と高圧で、約1500℃で反応が進んでる。さすがに2400気圧は無理なんで、核融合炉は3~4気圧。その分、温度は高くて、なんと約2億度。

 ってな高温高圧のプラズマを、ドーナツ型の炉の中に磁力で閉じ込め、勢いよくブン回して核融合反応を継続させ、出てきた熱で水を蒸気にしてタービンを回して発電しよう、凄く荒っぽく言うと、そういう感じ。

 とまれ、二億度に加熱するにも電力が要るし、磁力で閉じ込めるにも電力が要る。「発電するのに電気がいるんじゃ意味ないじゃん」と思いそうだが、そこはソレ。自動車だって動かすにはセルモーターが要るようなもんで、動き始めりゃ使う以上の電力を取り出せるはず、ってのが今の計算。だいたい1の元手で50の売り上げがあれば黒字になるらしい。

 もっと厳しく見ると、建物や炉の減価償却や原材料の調達費、放射性廃棄物の廃棄費用とかもあるし、何より研究・開発費用が大きい。一国で開発費を賄うのはシンドイよね、ってんで決まったのが、国際熱核融合実験炉ITER(International Tokamak Explerimental Reactor、→Wikipedia)。本書では日・米・欧・ソ(現在はロシア)・中・韓とあるが、今はインドも協力してる。

 さて。本書には「これまでの研究では、追加熱によって高温プラズマが作られてきましたが、アルファ粒子加熱で燃えるプラズマができたことは一度もありません」とある。プラズマが勝手に燃えりゃ熱を加える必要はないんだが、今はそこまで行ってない、ってな意味だと思うんだが、WIRED.jp に「核融合に向けて一歩前進」なんて記事があった。トカマクじゃなくて、金属のカプセル内での話だが、一歩前進ではあるんだろう。

 とか書いてると分かってるっぽいが、本書の心臓部である第三章は、ほとんど歯が立たなかった。「磁力でプラズマの流れを制御したいんだけど、プラズマって言う事きかなくてアチコチにヨレるのよ」程度しか分かってないです、はい。

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