SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2014年版」早川書房
たとえば、自分が生まれ育った町のどこかで家が一軒建ったとしても誰も気づかない。そうやってひとつひとつ家が建っていくと、いつのまにかすごく大きな都市ができている。その過程で何かが失われていったことに誰も決して気がつかない……といったような。
――パオロ・バチガルピ
2013年に日本で発表されたSF関係の書籍・漫画・映画などから、傑作だったり印象的だったりする作品を選び、人気投票で遊んだり、注目作家にインタビュウしたりする、SFファンのお祭り本、または2013年のSF/ファンタジイのブックガイド。2014年2月15日初版発行。ソフトカバー192頁。
やはり気になるのは「ベストSF2013 国内篇/海外篇」。
国内篇では、「星を創る者たち」「Gene Mapper -full build-」といった、由緒正しいサイエンス・フィクションが上位に食い込んでいるのが嬉しい。また新鋭作家の進出が著しいのも、SFの未来の明るさを示している気がする。攘夷二位が、いずれも創元SF短編賞の出身なのにも注目。私は11位の深海大戦が気になる。
酉島伝法インタビュウ「酉島伝法のつくりかた」では、その創元SF短編賞を評して「SF版の日本ファンタジーノベル大賞」に納得。こういう「なんでもあり」な姿勢だと、SF者が好むケッタイなシロモノが出てくるよね。改稿では「ひたすらリターンキーを打ち続けました」に爆笑。
「Windup mapper 対談パオロ・バチガルピ vs 藤井大洋」は、テクノロジーに悲観的なパオロ・バチガルピと、50年代的な明るい姿勢の藤井大洋で、「げ、マズいんじゃね?」と思ったけど、意外と和やかでホッとした。Gene Mapper で描いたベトナムのネットワーク環境が、まんまで呆れてしまう。つか、ネットワークボードのメーカーどこよw Scrivener は使ってみたいなあ。
海外篇、刊行時期のハンデを振り切って2位に食い込んだ「ブラインドサイト」の活躍にびっくり。チャイナ・ミエヴィルの安定ぶり以上に、R・A・ラファティがベスト20に三作も入ってるのが驚き。でも気になるのは17位につけてるマックス・バリーの「機械男」。歯が人工物に置き換わりつつある私としては、かなり気になる。
小説以外で気になるのは、「人生なんて、そんなものさ―カート・ヴォネガットの生涯」。小説は毒がたっぷりで、エッセイはリベラルな知識人ぶりが目立った人だった。同様に評伝では、「<驚異の旅>または出版をめぐる冒険」が、ジュール・ヴェルヌと編集者のポエール=ジュール・エッツェルを扱っていて、興味津々。
コミックは「成恵の世界」が完結してしまった。「バーナード嬢曰く。」、今度読んでみよう。ちなみに1はリチャード・バックの「ONE」で←SFじゃねーし
ヤケになったとしか思えない特別企画「SFで読み解く2013年」は、2013年のトピックにかこつけてSF作品を紹介しようという、強引極まりない力技。ネタは「PSYCHO-PASS サイコパス」「あまちゃん」「進撃の巨人」「艦隊これくしょん -艦これ-」「半沢直樹」「パシフィック・リム」「風立ちぬ」「英国ロイヤルベビー誕生」「2020年東京オリンピック開催決定」「iPhone5s/5c発売開始」。
「きっかけはなんでもいいからSFを読んで欲しい」とゆー編集の無謀な熱情が伝わってくる企画、しかしSF者の思考回路は屈折しまくって。「艦これ」の一発目、提督への悪意に満ちてるw それと「進撃の巨人」、そういう基準なら「ガンパレード・マーチ」があったっていいじゃないか。あと「機神兵団」をどっかに突っ込んで欲しかった。
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