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2014年1月29日 (水)

SFマガジン2014年3月号

意識的に構築された表記表現でありながらも日常的に感じられるというありように端的に示されているように、口語体は著者の作為性を隠蔽することによって文語文以上に「真実らしさ」を技巧的に捏造する技法だということもできる。
  ――長山靖生 SFのある文学誌 第27回
      もう一つの言文一致 「演説小説」というスタイル『黄金時代』そのほか

 280頁の標準サイズ。ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞などを受け、特集は橋本輝幸監修の英米SF受賞作特集。パット・キャディガンの「スシになろうとした女」,アリエット・ボダールの「没入」,ジョーン・マクマレンの「九万頭の馬」。もうひとつ、映画「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」公開記念小特集でインタビュウ四人、ケビン・ファイギ/アラン・テイラー/クリス・ヘムズワース/トム・ヒドルストンに加え、堺三保「アメコミにおけるマイティ・ソー」と映画情報。小説は他に連載の夢枕獏「小角の城」&神林長平「絞首台の黙示録」と、読み切りの深堀骨「廿日鼢と人間」。

 パット・キャディガン「スシになろうとした女」嶋田洋一訳。ヒューゴー賞ノヴェレット部門&ローカス賞ノヴェレット部門受賞。あと一旬でオケケ・ハイタワー彗星が木星に衝突し、世紀のショウが始まる時期に、フライが木星の主環の氷山にぶつかって脚を折った。二足歩行者の中ではコンセンサス言語の習得が早いフライだったけど、とんでもない事を言い出した。「ねえ、アルター、わたしここまでだわ」「わたし、スシになろうと思う」
 「スシ」って何なのかと思ったら。木星はビッグJ、地球は泥球。ま、そういう言語感覚です。政治的な意図を深読みし始めるとキリがない。最初は独立戦争当事のイギリスとアメリカを思い浮かべたけど、アメリカとフィリピンかもしれないし、アメリカ国内の白人と黒人かもしれない。大陸横断超特急(→Wikipedia)はシャレが効いてて面白かったなあ。

 アリエット・ボダール「没入」小川隆訳。ネビュラ賞ショート・ストーリー部門&ローカス賞ショート・ストーリー部門受賞。鏡に映るあなたは、あなたが見たいと思うあなたの姿。もう自分が誰なのか思い出せない。アヴァターは、あなたを旅なれておしゃれな女にしてくれる。小柄でずんぐりした姿じゃなく。
 これまた、「スシになろうとした女」同様、深読み始めるとキリがない作品。ある意味では同じテーマ、つまり異なった文化の衝突を描いたもの。いずれの作品も、政治的・外交的に優位な方がアメリカを思わせるのも、共通している。「没入」は、もしかしてキャロル・エムシュウィラーの「順応性」と同じテーマなのかも。

 ジョーン・マクマレン「九万頭の馬」小野田和子訳。アナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞。1899年6月30日、ウォルター・シェルトンはヨークシャー・ダウンズで父親に復讐した。その事実は誰にも知られずにきた…1943年の今日に至るまで。だが、ついに沈黙を破るときがきた。なぜなら、この秘密には、英国の命運がかかっているのだから。
 「十九世紀最後の六月の最後の日」なんて言い回しが、いかにも大時代な英国を感じさせるスチーム・パンク。読み終えて思い返すと、複数の階層でスパイ物になってる、技巧を凝らした作品だ。ミステリとしては、かなり初めにネタが割れてる。むしろ焦点は、いかにして探偵がネタにたどり着くか、という点。この手の盲点って、現場だと、意外と思いつかなかったりする。ええ、私にもいくつか思い当たる経験があります。

 受賞作の長編部門は、ヒューゴー賞・ローカス賞がジョン・スコルジーの「レッドスーツ」で、ネビュラ賞がキム・スタンリー・ロビンスンの「2312」。「レッドスーツ」がネビュラ賞だとカスりもしてないのが、作品の傾向と賞の性質をよく現してる。つか、ブルー・マーズは出るのか?その「レッドスーツ」、作品紹介が笑える。

宇宙連邦の主力艦イントレビット号には妙な点がある。遠征チームはいつも危機に陥り、艦長ら特定士官の周りではやたら人が死ぬが、上級士官は誰も死なない。新任少尉のアンドルー・ダールはイントレビットに配属され…

 こうやって改めて考えると、確かに怪しい艦と連中だよなあ。

 友成純一の人間廃業宣言、シチェス・ファンタ2013レポート後編。ジェイド・カストロ監督のフィリピン映画「レミントンとオカマゾンビの呪い」が酷い←誉めてます。タイトルで想像つくように、問い詰められた小学生がその場しのぎの思いつきで書いたような、テキトーで意味不明で無茶苦茶なお話。学生が映研で作る類の、ノリが大事な映画なんだろうなあ。

 神林長平「絞首台の黙示録」連載第二回。父親の行方不明の報を受け、長野県の松本から実家の新潟へマツダ・ロードスターを走らせる作家のタクミ。やはりたどり着いた実家は無人で、父の姿はない。そして、客間には見慣れぬ仏壇。なぜか香炉の向うには、ぼく自身の写真が…
 前半のマツダ・ロードスターを走らせる場面が、クルマへの愛に溢れてて可愛い。こういう、ハンドリングやギア・チェンジの際のクセとかが、好きな人には愛おしいんだろうなあ。とか思ってると、出ましたよ神林節。ええ、やっぱりこうでなくちゃ。フムン。

長山靖生「SFのある文学誌」もう一つの言文一致 「演説小説」というスタイル『黄金時代』そのほか。杉山藤次郎の「文明之花」、お話はともかく、二院制で男議院と女議院って発想に驚いた。やってみたら面白いかも。それに続く、「話す言葉」と「読み書きする言葉」の分析が興味深い。日常で2ちゃん語を思わず使って冷や汗かいた経験が、私にもあります、はい。

 マイティ・ソー/ダーク・ワールド小特集のインタビュウ、アラン・テイラー。「最高に好きなのはラリイ・ニーヴン」って、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。好きな映画がキューブリックの「2001年宇宙の旅」とタルコフスキーの「ストーカー」って、もうSFにドップリ浸かってる人だな。

 堺三保「アメリカン・ゴシップ」、デベロップメント・ヘルって何? として、ハリウッドが原作を買っても、なかなか作品ができない、そして作品ができても原作とは似ても似つかないシロモノになる経緯の解説。うーん、これじゃ AKIRA の金田がオッサンになるのも分かる気が…。なんつーか、集団制作が向くモノと向かないモノがあるんだよなあ。でも、じゃなぜパシフィック・リムなんて偏りまくった作品が出来たんだろ?

 深堀骨「廿日鼢と人間」。我蠅は主張する。未だ発見されていない生物、それは廿日鼢(はつかもぐら)である、と。なぜ見つからないか。それには二つの理由がある。廿日鼢は寿命が短く、わずか廿日の生涯であること。そして、廿日鼢は人の目の届かぬ地中に住んでいること。そこで我蠅は廿日鼢を発見し…
 狂った発想の狂った人しか出てこない深堀作品、今回もやっぱり変な人しか出てこない。居酒屋で酔っ払いがクダ巻いてるかのような、イチャモンつけまくりでケンカ腰、しかも「なぜソコに拘る?」と変なモノに拘るオッサン臭い会話も相変わらず。

 吉富昭二「ニュートラルハーツ File2 電気少女の欲望」16頁。前回の衝撃的な最終頁を素直に受ける続き。4頁~5頁目、父娘の会話の両者の顔の向きに注目。5頁目、中段は右向きで下段は左向き。これだと、読者の視線は思わず左に向かい、自然と頁をめくってしまう。こういう、読者に頁をめくらせ無意識に次を読ませる仕掛けは、計算したのか偶然なのか。やはり7頁目の最後のコマ、5頁目では向き合っていたトーチャンと明美が、こっちじゃ同じ方向を向いている。これも二人の気持ちを表しているのか、偶然なのか。意図したものなら、魅惑のチッスお願いします。

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