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2014年1月25日 (土)

山本弘「MM9 destruction」東京創元社

「これはヒメの運命だけじゃなく、地球の運命を決める戦いだ――まさい地球最大の決戦だよ」

【どんな本?】

 舞台はこの世界とは少し違い、巨大怪獣が出現する世界。怪獣災害に対応するは、気特対こと気象庁特異生物対策部。歴史の裏でうごめく者達の手引きで襲来した宇宙怪獣を、再度のヒメの降臨でなんとか撃退したのはいいが、手引きした連中の正体は未だ不明なまま。そして、ヒメに隠された秘密とは…

 かつての怪獣少年やSF者を狂喜させる綿密な考証に加え、オカルト・マニアを唸らせる怪しげな歴史考察も織り交ぜ、煩悩まみれの少年少女が活躍する爽快娯楽怪獣小説シリーズ第3弾。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 初出は Webミステリーズ!2011年4月号~2012年8月号。書籍は2013年5月30日初版。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約385頁。9ポイント43字×20行×385頁=約331,100字、400字詰め原稿用紙で約828枚。長編小説としては長め。

 ベテランだけあって、文章はスラスラ読める。山本氏独特のアクも薄まっているので、比較的にクセがない。科学的にかなり突っ込んだ話も出てくる割に、スルスルと頭に入ってくるのが、この著者の強み。小学校卒業程度の理科の素養があれば、充分に理解できます。ただ、話も登場人物も素直に前の「MM9 invation」からつながっているので、出来れば「MM9 invation」から読んだほうがいいだろう。

 なにせ怪獣モノなので、昔の怪獣・特撮番組に詳しい人ほど楽しめるのは、まあ仕方がないw 主な舞台が茨城県の海岸沿いなので、地元の人は更に楽しめる。 ただ、巻末の地図は冒頭につけて欲しかった。

【どんな話?】

 案野一騎は、母の悠里・恋人の酒井田亜紀子とともに、リムジンに乗って常磐道を北へ向かっている。数人の私服警官に有無を言わさず連行されたのだ。ヒメと関係が深い以上、VIPとして保護する必要がある、という理由だ。行く先は知らされていないが、ヒメも同じ所に向かっているという。ヒメに聞いても、(着いてからのお楽しみです)とはぐらかされるばかりで…

【感想は?】

 前巻では曰くありげに匂わされたヒメの秘密が、いよいよ明らかになる興奮の第三巻。

 怪獣なんぞというゲテモノなシロモノを、出来る限り誠実かつリアルに描くこのシリーズ、今回も無駄に丁寧な考察が序盤から展開する。怪獣の死体の後始末だ。

 なんたって、身長50m、重量三千トンもの肉だ。放置したら大変なことになる。悪臭は漂い虫や細菌が繁殖し、近隣の衛生状態は最悪になってしまう。ってことで、誰かがなんとか始末しなきゃいけない。始末はなるたけ早いほうがいいが、怪獣の研究をしたい気特対はなるたけ資料が欲しい。この辺は、事故の後処理と共通するジレンマらしい。

 ってんで、活躍するはお馴染みの方々。肉はどうやって切るのか、骨はどうするのか。こういう下世話で現実的な場面の描写が、このシリーズの楽しいところ。

 これは最後のバトルも同じで、前巻じゃ意外なシロモノが活躍を見せた。昔の特撮怪獣シリーズだと、地球防衛隊とかは単なる露払いで、肝心の怪獣相手にはあまり活躍しない。ところが、このシリーズでは自衛隊が堂々としたバトルを展開するのが嬉しいところ。今回も、地味な準備作業から、ド派手なバトルまで、見せ場がたっぷり用意されてる。やっぱりね、緊急時の対応で見せる柔軟性は、彼らならでは。

 などといった前巻までの魅力に加え、この巻では新たな要素が大胆に導入されている。

 カバーに鳥居があるように、伝奇だ。異端の研究者・伴野英世が残した著書が「ヤマトタケルは女だった」。いいねえ、このネーミング・センス。昭和のカッパ・ノベルスに、いかにもありそうな扇情的な書名。と学会の会長を務めるだけあって、ソレっぽいセンスもキチンと抑えてる。内容も、なかなかアレで、なんとギリシア神話から始まる。

 うんうん、やっぱり神話・伝説の類は欠かせない。こういうモノから、予め想定した世界観に基づき、何を読み取り、何を歪め、何を切り捨てるか。真面目な学会などで比較的に支持されている説をうまいこと折り込み、それに独自の(そして往々にしてワンパターンの)強引な解釈を加え、奇矯な世界を再現してゆく。

 神話に出てくる神や怪物が、大抵は何らかの形で変形されているのは、かなり受け入れられやすい説だ。やたらとスケベで浮気に描かれるゼウスも、元は独立していた各部族・民族などの神々を、無理矢理に一つの神話に押し込めるため、「お前の部族の神様はゼウスの子なんだよ」的に懐柔し統合していった、みたいな解釈は多い。

 ここまでは、まあ常識的でよくある話なのだが、そこに伴野先生は一ひねりを加える。すると…。うんうん、オカルトかますなら、これぐらいのヒネリは見せてくれないと。そんな感じで、古の神々や英雄・怪物がゾロゾロと出てくるのが、この巻の美味しいところ。果たしてギリシア神話と鳥居と宇宙怪獣がどう繋がるのか。

 などのダイナミックな楽しみとは別に、ライトノベルの定番で、一騎少年の恥ずかしい煩悩も描かれているあたり、サービス精神旺盛というかなんというか。

 ヒメの正体、彼女の謎を握る美少女、宇宙怪獣襲来の目的、それを手引きする者たちの思惑。全ての謎が明らかになる、MM9シリーズの壮大なクライマックス。お馬鹿な設定を真面目かつ誠実に考証する、オタク魂あふれる熱くて暑苦しい小説だ。

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