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2013年11月27日 (水)

「WWセレクション 始まりと終わり ドイツ空軍の栄光 アドルフ・ガランド自伝」学研 並木均訳

 ジェット推進で初めて空を飛んだぞ! エンジンの振動はない。トルクもないし、鞭打つようなプロペラ音もない。汽笛のような音を伴って、私のターボ(トウルボ)は空中を突き進む。――後に、どんな感じだったかを問われ、「まるで天使が押してくれるようだ」と答えたものだ。
  ――残された可能性とは

【どんな本?】

 第二次世界大戦のドイツ空軍において、開戦当初は戦闘機のエースとして活躍し、1941年12月からは戦闘機隊総監としてドイツ空軍の戦闘機部隊を率い、ドイツ空軍の揺籃期から崩壊までを見取った著者アドルフ・ガランド(→Wikipedia)による、第二次世界大戦ドイツ空軍戦闘機部隊の熾烈な戦いの記録。

 華々しくデビューを飾ったスペイン内戦、ドイツ空軍の根本的な弱点が露わになったバトル・オブ・ブリテン、新鋭のドイツ空海軍が天下の大英帝国海軍に目のもの見せた雷電作戦、怒涛のように押し寄せる米英連合国の戦略爆撃、何も出来なかったノルマンディー上陸作戦、崩壊寸前の最後の輝き第44戦闘団まで、西部戦線を中心に語るドイツ戦闘機部隊の栄光と終焉の物語。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Die Ersten und die Letzten - Jagdfleger im Zueiten Weltkrieg, by Adolf Galland, 1953。日本語版は1972年にフジ出版社から「始まりと終り」として出たが、これはドイツ語→英語→日本語の重訳の上に、一部が割愛された抄訳版。学研版は2013年5月14日第1刷発行。ハードカバー縦一段組みで本文約691頁+訳者あとがき4頁。9ポイント46字×16行×691頁=約508,576字、400字詰め原稿用紙で約1272枚。長編小説なら堂々2冊分の大ボリューム。

 お堅い印象のドイツ語からの翻訳のわりに、意外と日本語はこなれていて、とっつきやすい。内要は軍記物なだけに、やはり第二次世界大戦の西部戦線の知識が多い人ほど楽しく読める。特にこの作品は空軍の話であり、第二次世界大戦当事のドイツ・イギリス・アメリカの軍用機が続々と出てくるので、レシプロ機マニアにはたまらない。

 自伝なので視点は限られる。とまれ、戦闘機隊総監としてドイツ空軍の戦闘機部隊を俯瞰する立場なので、当事のドイツの空の戦いは、ドイツ軍・連合軍ともに比較的に俯瞰した目で見ている。ただし、東部戦線の話は少なく、西部戦線の話が中心となる。

【構成は?】

KAPITEL 01 アルゼンチンの地の上で
KAPITEL 02 パイロットになろう……
KAPITEL 03 人生の厳しさは徐々に
KAPITEL 04 グライダーから動力機へ
KAPITEL 05 「『現役』にならんかね」
KAPITEL 06 「飛行士不適格」
KAPITEL 07 コンドル軍団に呼集
KAPITEL 08 共産勢力への低空攻撃
KAPITEL 09 スペイン内戦から閲兵式までの間
KAPITEL 10 西方戦役における戦闘機隊
KAPITEL 11 「バトル・オブ・ブリテン」の開始
KAPITEL 12 生死を賭した戦い
KAPITEL 13 『英国空爆』
KAPITEL 14 「アシカ」から「バルバロッサ」までの間
KAPITEL 15 戦略的新天地の上で
KAPITEL 16 悪夢が現実となる……二正面作戦
KAPITEL 17 東部戦線――空のヴェルダン
KAPITEL 18 戦争はクリケットの試合ではない
KAPITEL 19 陰鬱な出来事
KAPITEL 20 前進か後退か
KAPITEL 21 「雷電(ドナーカイル)作戦」
KAPITEL 22 突破
KAPITEL 23 ノルウェー戦からアフリカ戦までの間
KAPITEL 24 対岸観望
KAPITEL 25 本土防衛の時来たる
KAPITEL 26 爆弾の後追い
KAPITEL 27 屋根のない家
KAPITEL 28 ハンブルク――ドイツ空軍の分水嶺
KAPITEL 29 一難さってまた一難
KAPITEL 30 敵と指導部相手の戦い
KAPITEL 31 往復空襲に板ばさみのドイツ
KAPITEL 32 天罰
KAPITEL 33 ヨーロッパ侵攻作戦――終わりの始まり
KAPITEL 34 「ルフトヴァッフェはどこにいる」
KAPITEL 35 「大打撃」
KAPITEL 36 残された可能性とは
KAPITEL 37 ジェット戦闘機の悲劇
KAPITEL 38 終わり
 訳者あとがき/著者参考文献/アドルフ・ガランド略年譜

 最初の「アルゼンチンの地の上で」を除き、基本的に時系列順に話が進む。編注は各章の末尾にあるので、複数の栞を用意しておこう。できれば索引が欲しかったなあ。

【感想は?】

 歯に衣を着せぬ著者の作品だけあって、最高にドラマチック。

 ギムナジウムじゃ物理・技術・自然とスポーツが好きで、ラテン語とギリシャ語が嫌い。グライダーにうつつをぬかし、「必然的に、なんとも素晴らしいというか、1927年の春、私は落第した」。

 飛行気乗りってのは我が強い人が多いのか、この人も親爺さんの反対を押し切ってパイロットになり、軍に志願してる。何回か事故で頭に傷を負い、左目の視力が落ち、視力検査で窮地に陥るが、「左眼も全く問題ない」とお墨付きを貰う。「親友がこっそり入手してくれた視力検査表を、何週間もかけて徹頭徹尾、完璧に頭に叩き込んでいたのである」。

 スペイン内戦から、個人より組織よりの視点が入ってくる。ここでは旧式の He51(→Wikipedia) に苦労しつつ、若く柔軟な組織らしく、戦いの中から戦法・戦術を編み出し、洗練させてゆく。「今日のナパーム弾の先駆けも、私の整備員が発明したものだ」。頻繁な移動・設営に懲りて列車を常設本部に作り変えたり、偽装の重要性を体験したり。

 などと初期の部分は活気に満ちてユーモラス。これが中盤以降は立場も変わり口が多くなり、終盤では痛烈な毒舌へと変わってゆく。

 というのも、当事のドイツ空軍の性格によるもの。「ドイツでは、空軍を攻撃手段と見なす戦略概念が支配的だった。したがって、まずは爆撃機が必要とされたのである」。航空優勢や制空権の確立を求める戦闘機は軽視され、必然的に戦闘機部隊は冷や飯食らいとなり、防空用の戦闘機増強を望むガランドの意見は冷遇されてしまう。

 基本的に空軍を「射程距離の長い砲」として想定していたドイツ空軍は軽爆撃機ばかり、落下増槽もない戦闘機 Me109(→Wikipedia)も大陸でこそ活躍できたものの、ドーバー海峡を越える敵地では20分程度しか戦えない。イギリスの優秀なレーダー技術もあり苦戦したガランド、ゲーリングの「何が欲しい?」との問に思わず…

「わが航空団にスピットファイア(→Wikipedia)を装備していただければ」

 結局、バトル・オブ・ブリテンは挫折、バルバロッサ作戦が発動して恐れていた二正面作戦となる。などと苦しい状況が続く中で、一時の栄光が雷電(ドナーカイル・ツェルベルス)作戦(→Wikipedia)。

 フランスはブルターニュ半島の端ブレストにいる巡洋戦艦「グナイゼナウ(→Wikipedia)」「シャルンホルスト(→Wikipedia)」および重巡洋艦「プリンツ・オイゲン(→Wikipedia)」を、イギリスの鼻先ドーヴァー海峡をすり抜けノルウェイへ移す、というもの。いいトコなしのドイツ空軍戦闘機部隊にとって、このあたりは数少ない脚光を浴びる場面だ。

 が、以降は米英両国の四発重爆撃機に蹂躙される記述が続く。なぜにそこまでドイツの防空体制が無力だったのか、その理由が後半で明らかになる。つまりはドイツ軍そのものの性格だ。攻撃のみを重視し、防衛は考えない。だから防衛的任務の戦闘機は軽視する。また空軍は陸軍の支援的な役割に特化していて、軽爆撃機はあっても重爆撃機はない。

 その根本にヒトラーの考え方がある由を、鮮やかに象徴するのが悲劇のジェット戦闘機 Me262(→Wikipedia)。卓越した能力を誇りながらも、あまりに遅れた登場で戦局を覆すには至らず、その多くは敵に制空権を奪われた地上で破壊されてゆく。

 Me262 と、エース・パイロットを集めたJV44こと第44戦闘団の物語は、崩壊してゆく第三帝国の中で一瞬の閃光を放つ。軍ヲタなら、最後の3章だけでも一晩語り明かすだろう。ちょっと長いが、第44戦闘団の編成を命じられた際の、著者のパイロット魂が炸裂する言葉を引用して終わろう。

私は中尉として、中隊長としてこの戦争に臨んだ。そして中将として、中隊長として軍歴を終えるのだ! それが私に課せられた運命なのだ! 管轄に縛られることなく、いわば自由に空を飛べる戦闘機隊! 戦闘機隊のエリートとして選抜されるごく小数のパイロット! 現下の世界でこれ以上優秀なものはないとわれわれが信じて疑わないジェット戦闘機! そして、戦史上特筆すべき戦闘機中隊を編成し、指揮することを許された私という幸運な男!

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