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2013年11月29日 (金)

SFマガジン2014年1月号

山田正紀「PCだといつまでも直してしまう。でも原稿を直している時間は生産していない。新しく書く事からひたすら逃げているだけだ」
――池澤春菜 SFのSは、ステキのS 第42回 手書きの書に捧げる先行投資

 280頁の標準サイズ。特集は二つ。一つは「第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作発表!」として大賞受賞の六冬和生「みずは無間」第一部,最終候補作の下永聖高「オニキス」に加え、六冬和生インタビュウと最終選考委員選評。もう一つは《グイン・サーガ》正篇刊行再開記念小特集のクロス・レビュウとエッセイ。小説は他に神林長平の新連載「絞首台の黙示録」,夢枕獏の「小角の城」,森岡浩之の「星界の断章 岐路」。

 六冬和生「みずは無間」第一部。太陽系の彼方、ヘリオポーズを超え、黙々と外宇宙へと進む俺=探査機。少し前までは地球の時事ニュースも届いていたが、今は静かに思索にふけるAI…ではなく、なぜか会話の相手がいる。80年後に射出された、同じく探査機のAI、サーフだ。これが小うるさい17歳の小娘で…
 深宇宙を探索しつつ、退屈を紛らわすために自己を改造してゆく「俺」のパートと、「俺」の回想で描かれるちょいメンヘル入った恋人みずはとの生臭いパートが、鮮やかな対照をなしている。「俺」パートでは、まずサーフとの長距離会話のトリックに感じ入った。キャスリン・シュルツの「まちがっている エラーの心理学、誤りのパラドックス」に、ヒトの脳も似たような事をやってる、みたいな話があって、「おお、上手い」と感心したなあ。恋人パートは、最初は「なんか可愛いじゃん」と思ったみずはが、少しづつ印象が変わっていく語り口が巧い。東浩紀の選評にある「あまりに個性的な作品なので(略)今後の応募作の方向を狭めかねない」など、先が気になる。

 下永聖高「オニキス」。いつものように、通勤列車の中で本を読む由良。ちょうど百頁目で乗換駅に着いた。文庫本にしおりをはさみ、モノレールに乗り換える…と、「書き換え」に気がついた。さっきのしおりは百頁だったのが、今は98頁にある。記憶が書き換えられたのではない。現実が書き換えられたのだ。それに由良が気づいたのは、後頭部に差し込まれた小さな記憶保持装置のためだ。
 過去を改変してしまう物質「マナ」の発見と、それを巡る実験のモニタに参加した者たちを通して、タイム・パラドックスに挑む作品。ちょっとラファティの「われらかくシャッルルマーニュを悩ませり」を思わせるトリックだけど、放り投げちゃってるラファティに対し、この作品はキッチリと正面から向き合って描きこんでいる。

 両者とも、新人とは思えぬほど文章が巧く、読みやすい。特に「オニキス」は、ありがちな日常から入るためとっつきやすい。そこでナメてテキトーに読んでると、実はかなり込み入った構造の話なので、頭のギアの切り替えに苦労する。

 神林長平「絞首台の黙示録」。死刑が確定したおれは、残された少ない権利のひとつを行使して、宗教教誨師を要求した。別に今さら悔い改めたいわけじゃない。宗教に代表される<幻想>を、人が後生大事に信じているものを、叩き潰したかった、それだけだ。
 新連載の一回目なので、どっちに話が向かうのか見当もつかないんだが、今回は「人の死」がテーマになっているようだ。最初から死刑囚の独白で始まる上に、作品名も相まって、いかにも禍々しく陰鬱な雰囲気が漂う。とまれ文章はいつもの神林節のため、飄々とした軽さを生み出していて、暗いテーマの割に口当たりはいい。

 森岡浩之「星界の断章 岐路」。<アーヴによる人類帝国>の都ラクファカール陥落を目前として、その門のひとつクリューヴ門の防衛の任につく特設第1052独立戦隊。といっても、属するのは特設工作艦<クニュムラゲール>だけ。指揮を執る司令官はコリュア・ウェフ=ボーザク・コンサ千翔長。その任務は住民を避難させること、もう一つは軌道館のひとつを要塞に改造すること。改造するのは生家のコリュア館にしようと決めていたコンサだが…
 本編でも絶大な人気を誇る人物の秘話…って、扉でバレてますがな。相変わらずユーモラスな会話を書かせたら独自の味を出す森岡氏、今回もコンサとの会話(というより掛け合い漫才)は、絶妙のテンポで進む…というか、ボケとツッコミの応酬で話が進まないというかw

 池澤春菜「SFのSは、ステキのS」。山田正紀氏の言葉に頷くことしきり。いやホント、これプログラムも同じで、手元において改善してる間は、いつまでたっても完成しないんだよね。必ず直したい所が見つかる。だから、私の記事で誤字脱字があっても大目に見てください←結局それかい

 SF BOOK SCOPE/海老原豊のOVERSEAS。なんと河出文庫からマイクル・コーニイの「ハローサマー、グッドバイ」の続編「バクーラシの記憶」山岸真訳が出てる。何年ぶりだろ?

 MEDIA SHOWCASE/飯田一史のMUSIC。今回は Supercell の「ZIGAEXPERIENTIA」と Sound Horizon の「ハロウィンと夜の物語」。両者の共通点として三つ、キャッチーなメロディ・二次利用に寛容・私生活が謎めいてる点をあげてるのが印象的。作品は拡散させるけど、ミュージシャン自身のプライベートは守る、その対照が面白い。

 長山靖生「SFのある文学誌」、第25回は『蜃気楼』――女性の権利としての娼妓廃止議論と演劇改良。宇田川文海の明示19年の作品『蜃気楼』をネタに、当事の女子参政権問題と娼妓廃止議論を扱っている。ここで唸ったのが「粋と野暮」の話で、徹底した野暮はそれなりに認められるけど、半可通は嗤われる、って話。ああ、耳が痛い。思い当たる節が沢山あるんだよなあ、ニワカ軍ヲタだし。まあ軍ヲタはニワカを自認してるからいいけど、他にも色々と…

 SF MAGAZINE WORKSHOP 香山リカ「精神の中の物語」/プラナリアに思う「脳の外の記憶」。増頁かと思ったら、新連載なのね。二つにちょん切ったら二つとも再生するプラナリア。光を嫌うプラナリアに「光の方にエサがある」と仕込み、胴体から前後に切って再生すると、頭から再生した方は条件反射を思えてる。尾の方は条件反射を覚えちゃないけど、同じ条件反射を仕込むとモノ覚えが早い。ってんで、「カラダにも記憶があるんじゃね?」って話。
 体感的にも、暫く自転車に乗ってなくて、久しぶりに乗っても、ちゃんと体が覚えてるし、スキーも同じだって話がある。こういう「体中の筋肉を統合して動かす運動」ってのは、統合の具合をノーミソ以外の所が覚えてるのかも。

 SF MAGAZINE WORKSHOP 鹿野司「サはサイエンスのサ」/目で見ることと感じること(その3)。お話そのものも面白いが、それ以上に、自分の体験をキッカケに深く細かく調べ上げ、レポートとして読み物に仕上げる姿勢に感服。こういう、キッカケを掴んでは好奇心を発揮して調べモノにしていくあたりが、さすがプロだよなあ。 

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