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2013年11月12日 (火)

土木学会関西支部編「コンクリートなんでも小事典 固まるしくみから、強さの秘密まで」講談社ブルーバックス

なぜミキサー車がアジテータをぐるぐる回しながら走っているのかというと、生コンは、セメントと細骨材、粗骨材、水と、密度(比重)が大きく異なる材料が混ざってできているため、運んでいる間に生じる車の振動などで材料の分離という偏りが起こってしまうからです。

【どんな本?】

 建物や道路・橋・トンネルなど、我々の生活に欠かせない物となったコンクリート。それは、どんな原料から出来ているのか。なぜ固まるのか。固まるには、どれぐらいの時間がかかるのか。人はいつからコンクリートを使っているのか。どんな所で、どんな風に使われているのか。どんな性質があるのか。鉄筋コンクリートは何が嬉しいのか。コンクリートの建物はどれぐらい保つのか。高層ビルや長い橋はどうやって作るのか。今後もコンクリートは使われるのか。

 コンクリートに関わる基礎的な知識や意外なトリビアを集め、科学・技術・産業面を一般人向けに説明する入門書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2008年12月20日第1刷発行。新書版ソフトカバー縦一段組みで本文約283頁+あとがき3頁。9ポイント43字×16行×283頁=約194,704字、400字詰め原稿用紙で約487枚。長編小説なら標準的な分量だが、イラスト・写真・グラフなどを豊富に掲載しているので、実際の文字量は8割程度。

 専門家が一般向けに書いた本としては、日本語の文章は悪くない。内要も特に前提知識はいらない。一部に分子式が出てくるが、解らなくても特に問題はない。力学の話も少し出てくるが、全てイラストつきで説明しているので、頭に入りやすい。必要な前提知識は、以下3つぐらいなので、小学校の理科が分かれば充分に読みこなせる。

  1. 酸性とアルカリ性:理科の授業でリトマス試験紙を使った程度で充分。
  2. 圧縮力と引張力:圧縮力は押しつぶそうとする力、引張力は引っ張ってちぎろうとする力。
  3. 電磁力の概念:プラスとマイナスは引き合う、程度で充分。

 なお、土木学会関西支部編とあるが、巻末に各章の著者を明記している。企画物にありがちな、著者の正体を隠すために集団編集を装った名称ではないので、ご安心いただきたい。

【構成は?】

 まえがき
第1章 コンクリートとはどんなもの? 久田真
第2章 コンクリートのルーツをたどる 久田真
第3章 コンクリートのレシピ 小林茂広
第4章 強さの秘密 井上晋・三方康弘
第5章 現場の不思議発見 横山雅臣
第6章 いろいろな構造物 森田雄三
第7章 コンクリートの診断 葛目和宏・鎌田敏郎
第8章 コンクリートの維持管理 北後征雄
第9章 コンクリートと環境・未来 綾野克紀・西島達雄・市坪誠・宮本裕
 あとがき/参考文献/著者略歴(執筆分担)/さくいん

【感想は?】

 工事現場や建物を眺めるのが、少し面白くなる本だ。

 いきなり、自分の無知を思い知らされる。コンクリート,セメント,モルタルと呼び名があるが、それぞれ意味が違うのね。いわゆるセメント袋に入ってる灰色の粉、あれがセメント。

  • セメントペースト:水+セメント
  • モルタル     :水+セメント+砂
  • コンクリート   :水+セメント+砂+砂利

 つまり、セメントは接着剤みたいなモンなのだな…と思ったら、「セメント(cement)という言葉ですが、英語の辞書には、動詞で『接着する』とか『固める』とかいった意味が記してあります」。なるほど。で、あれ、乾いて固まるのかと思ったら、全然違う。水和反応という化学反応なので、「水中でも固まることができます」。しかもすぐには終わらず、「50年も100年もの長い間、ゆっくり継続し続ける」。

 そのせいか、早く乾かしゃいいってモンでもない。表面が固まって暫くはむしろ潤いが必要で、「湿らせた養生用マットや布等で覆うか、散水養生等により水分を与えます」。言われてみれば、建物のリフォームや補修などで、出来上がったコンクリートの部分に散水するのを見かけるような気が。あれが、養生なのか。なんで乾きかけてるのに水撒くのか不思議だったけど。

 なんとなく現代建築の申し子のように思っていたコンクリート、実は歴史がやたらと長い。これも説が三つあって。

  • 二千~三千年前の古代ローマ:浴場・コロッセオ・水道橋など。
  • 五千年前の中国:料きょう石を焼いて粉末にしたセメント
  • 九千年前のイスラエル:石灰を焼いたセメント+石灰石の粒(砂)+水

 さすが土木ローマ。
 現代の土木建築でよく使われる鉄筋コンクリート、あれ何が嬉しいかというと、両者の長所を活かせるから。コンクリートは圧縮に強く、鉄筋は引っ張りに強い。不思議だったのは、鉄筋の表面が凸凹してること。あれにもちゃんと意味があって、つまりコンクリートとしっかりくっつくため。スベスベしてたら鉄筋がスルリと抜けちゃう。

 面白いのがプレストレスって発想。繰り返すがコンクリートは圧縮に強いけど引っ張りに弱い。だから橋や高架に使うと、上を車が走った時、裏側にヒビが入っちゃう。これを防ぐため、常に圧縮の力がかかるようにしておく。

 コンクリートに鉄筋を埋める際、鉄筋を思いっきり引っ張っておく。固まった後に鉄筋を引っ張るのをやめる。鉄筋は縮もうとするから、コンクリートにも圧縮の力がかかるんで、後で車が通って引っ張りの力が加わった時、鉄筋の引っ張る力と打ち消しあう。その分、圧縮の力が強くなるんだけど、コンクリートは圧縮に強いから大丈夫。まあ、この辺、本はイラストで分かりやすく説明してる。

 高層ビルを作るタワークレーンも、なかなかの工夫。あれ、地上からキョッキリ生えてるのかと思ったら、全然違った。いや最初は地上から生えてるんだ。でも数階造ったら、自分で上の階に這い上がる。そしてさらに上の階を造り…と、シロアリが塚を作る感じで、自給自足っぽい雰囲気で上に積み上げてゆく。ほとんどロボットだね。ちなみに降ろす時は…

自らを吊るすことができる小さなクレーンを組み立て、建物外部に吊り下ろされ、その後、より小さなクレーンを組み立てて、吊り降ろされます。この作業を繰り返し、最後は、人力で解体し台車に載せエレベーターで降ろします。

 最後は台車ってのが可愛い。
 長い橋をトコロテン式に作っていくプロセスも楽しいが、やっぱりこの手の本のハイライトは、最新技術と未来技術を紹介する最終章。空隙率25%とスカスカのポーラスコンクリートは、河の堤防に使えば草が生えてきて緑化に役立つし、ビルも緑化できてヒートアイランドを抑えられる。道路に使えば雨が土に染み込むんで水はけがよくなる。

 そしてクライマックスは月での建築。材料で足りないのは水だけ、これは極から持ってくるか鉱物から還元するか。それ以外の真空と少重力は、むしろコンクリートに有利で、地震がないのも嬉しい。ただ昼と夜の温度差が…

 などと、コンクリートばかりでなく、超高層ビルや橋など、巨大建築のトリビアも入っていて、なかなか楽しい本だった。SF者なら、最終章だけでも立ち読みしてみよう。谷甲州や小川一水が好きなら、きっと楽しめる。しかし土建屋さんの描く未来のビジョンって、なんでこんなにワクワクするんだろう。

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