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2013年11月11日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 西海岸編 3」電撃文庫

「そういうぬしゃが一番、理屈っぽいの。岩田、例のアレ、使えるかの?」

【どんな本?】

 始まりは2000年9月28日発売の SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。斬新なシステムと濃いキャラクターがマニアの支持を受け、宣伝費ゼロのハンデを乗り越えロングセラーとなり、2010年にはPSP用のアーカイブで復活、今なお新しいファンを獲得し続けている。

 そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」を皮切りに始まった榊涼介の小説シリーズ、ゲームのシナリオに準じたストーリーは「九州撤退戦」で一段落するが、その後も番外編的な位置づけの「もうひとつの撤退戦」をはさみ続行、「山口撤退戦」以降は榊氏オリジナルのストーリーが展開し、ガンパレ世界を広げながらこの巻へと続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年11月9日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約274頁。8ポイント42字×17行×274頁=約195,636字、400字詰め原稿用紙で約489枚。標準的な長編小説の分量。

 ライトノベルのわりに、地の文章は素直で読みやすい。壮大な設定を積み重ねたシリーズ物なので、いきなりこの巻から読むのはさすがに無茶だろう。販売順に短編集「5121小隊の日常」または時系列順に「episode ONE」から読むのが理想だが、30巻以上では躊躇する人もいるだろう。その場合は「5121小隊の日常Ⅲ」または「西海岸編 1」からにしよう。世界設定と中心となる5121小隊の面々は引きついでいるが、舞台が移り周辺人物も入れ替わったので、一部リセットした状態になっている。

【どんな話?】

 1945年に突然現れた幻獣により第二次世界大戦は終結した。食事が不要で圧倒的な兵力を誇る幻獣は人類を席巻、撤退を続ける人類はユーラシアを失い、南北アメリカと南アフリカの一部、そして日本列島のみとなる。

 1999年、幻獣は九州に上陸。日本政府は14歳~17歳の少年兵を招集し、捨て駒として戦線に投入する。少年らの消耗で稼いだ時間で自衛軍を立て直すする目論見だった。各隊で持て余されたはみだし者を集め組織した5121小隊は、キワモノ兵器の人型戦車・士魂号を与えられ、予想外の活躍を見せる。

 だが幻獣の攻勢は押しとどめられず、5121小隊の働きにより多くの学兵を救うものの、日本は九州を失う。恒例の夏季休戦を破り山口へと上陸を始めた幻獣だが、岩国・広島の死闘を経て自衛軍は初の防衛戦に成功、勢いをかって九州の奪還へと進み、幻獣の一部戦力との和平に漕ぎつけた。

 首都・東京の政変と東北への幻獣上陸、そして北海道独立と危機を戦い抜いた5121小隊は、新大陸アメリカへと渡る。東海岸のワシントン政府と西海岸のシアトル政府に分裂したアメリカ。東海岸レイクサイドヒルで幻獣に包囲された市民を、海兵隊と共に救出した5121小隊は英雄となり、シアトルでも歓迎される。

 日本政府はワシントン政府と正式な国交があるが、シアトルとはない。国交樹立を望む政府、経済交流を願う財界。視察も兼ねシアトル入りした5121小隊は、煩悩まみれの少年らしい騒動を起こしながらも市民との絆を築くが、四人組みの少年銀行強盗に巻き込まれ、シアトル政府と軍の暗部を垣間見る。

 視察の口実で前線である南部のサンディエゴへと赴いた5121小隊は、なし崩し的に戦闘に介入してゆく。戦闘の現場で確認した軍の内部は、後方のシアトルからは想像もつかない状況だった。

【感想は?】

 前巻に引き続き、善行の腹黒さが光る巻。

 5121小隊で陰険眼鏡といえば、なっちゃんこと狩谷だが、彼が陰険さを発揮する時はいかにも悪党面の上目遣いなのに対し、善行は人の良さそうな微笑に隠し、奇想天外で壮大で狡猾な企みを働かせるからタチが悪い。負けるな、なっちゃん。しかし素姐といい若様といい、なんだって5121には、さわやかな笑顔の陰謀屋が揃ってるんだ。

 さて、お話は。シアトル政府の代表のオルレイ氏、いかにも合理的な好人物に見えて、肝心の危険からは眼を逸らすばかり。防衛を担う軍は、第一軍を預かるジャクソン大将が正統派で腰が重く、前線で戦う銀狼師団を率いるリーランド中将は優秀ながら腹に一物あり、犬猿の仲。日本の学兵にあたる補助兵を預かるグラント閣下が、クセは強いながら話のわかる人物、といった状況。

 主役の5121小隊は日本政府からは強硬に撤収を命じられ、お先真っ暗な状況で話が始まる。だがそこははみだし者揃いの5121小隊、おとなしく大人の事情に従うはずもなく。

 まあ、そんなわけで、冒頭では狩谷と壬生屋の口論が展開する。直情径行な突進乙女の壬生屋と、理論的な秀才計算屋の狩谷。しかも両名ともに強情だからタチが悪い。どう考えても思いっきり相性の悪い両名、果たして決着はどうなることやら。しかしゲームの仲人プレイでも、両名の仲を取り持とうってプレイヤー、いるんだろうか。

 相変わらずのコメディアン振りを発揮している滝川、この巻の初登場場面こそ間が抜けているものの、ハイスクール・ギャルにモテモテになる絶好のチャンス。しかし北海道といい、微妙な加減が要求される状況で士魂号の扱いの器用さに関しては、意外と5121小隊でも最高の能力を持ってるんじゃなかろか。退役後は森さんと建築会社でも作るとか。獲物は超硬度大ツルハシ。

 ヒマがあるとロクでもない事しか仕出かさない整備班の中でも、最もタチが悪いのが中村と岩田。小隊の日常Ⅲで地獄を見た筈なのに、懲りもせずケッタイなギミックを画策している様子。しかしイワッチ、向うでもあの奇妙な白衣型作業服で通してるのか。一体、何着持ってるんだろ。

 奇矯なファッション・センスと言えば茜もなかなか。この巻では善行さんについて回り、まっとうな議論を奇怪な理論で混ぜっ返し、相手を浮き足立たせる役割を担う。しかし生徒会長閣下といい、茜にはまっとうなエリートを狂わせる不思議な能力があるようで。器の小さい人は「理解不能→不愉快」と感情が動くのに対し、頭のいい人は「理解不能→興味深い研究対象」となるんだろうか。

 護衛の蓑田サーカス、この巻では珍しく久萬にも台詞がある。もしかしたら中西より多いかも。久萬も滝川同様、ギャルにモテるチャンスなのに、気づいているのかいないのか。新大陸編でもウエイトレスにモテてたし、意外と年上キラーなのか?しかし、そろそろ中西にも美味しい所を用意してあげて下さい。

 さてシアトル側。リーランド中将、今までは単なる曲者だったのが、この巻では意外な面を見せてくる。やはり曲者なんだけど、タダの曲者じゃない。前例もあることだし、今後、思ったより重要な役割を担いそうな雰囲気がある。前巻では鮮やかな舞台を演じたグラント中将、ここでも彼なりの貴族趣味を覗かせる。

 短編「Take me out to the ball game」で堂々の主役を演じたセルジオ君、この巻でも出ずっぱりで動きまわる。まあ、サンディエゴがあの状態じゃパドレスはなさそうだけど。

 熾烈さを増すサンディエゴ前線、不気味な幻獣の動き、そして次第に姿を表す善行の凶悪な陰謀。今まで巻き込まれるばかりだった5121小隊が、ついに他人を巻き込む新展開を見せそうな次巻に期待。

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