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2013年10月27日 (日)

SFマガジン2013年12月号

「わたしも悪党どもとは何度もやりあっています。いい会計責任者は死んだ会計責任者だけです」
  ――ジャック・ヴァンス「世界捻出者」中村融訳

 280頁の標準サイズ。特集は二つ、ジャック・ヴァンス追悼特集&金子隆一追悼特集。他に小説は草上仁「ウンディ」とチャールズ・ストロス「パリンプセスト」後編。

 ジャック・ヴァンス追悼特集は小説三本。「世界捻出者」中村融訳、「ミス・ユニバース誕生!」酒井昭伸訳、「暗黒神降臨」酒井昭伸訳に加え、酒井昭伸の特殊解説「ありがとう、そしてさようなら」と酒井昭伸&牧眞司の「ジャック・ヴァンス年譜」。

 「世界捻出者」中村融訳は、なんとデビュー作。実績はあるが、規則無用の態度で持て余し者のラナークが受けた仕事は、ネヴァダ女囚刑務所から逃亡したイザベル・メイの捕獲。イザベルの父親アーサーは巧妙な暗号システムを考案したが、報酬を巡るトラブルがあった。問題に備え暗号の鍵を娘のイザベルに預けたのだが…
 ハードボイルドな探偵と、ワケあり女の逃亡犯のチェイス。一見ハードボイルドな探偵物のように始まる物語は、すぐに宇宙へと飛び出してゆく。冒頭の引用にあるように、気の効いた台詞が読みどころ。この台詞回しの妙は、タイトルにある「世界捻出者」の登場で一気に冴え渡る。コロコロと変わる舞台、イケメン俳優と美人女優のコンビ、派手なクライマックス・シーンと、ハリウッドのアクションSF映画の原作にピッタリなお話。

 「ミス・ユニバース誕生!」酒井昭伸訳。カリフォルニア州三百年記念博覧会の呼び物として、実行委員長のハードマン・クラウデルと秘書のトニー・ルグランは美人コンテストを企画しする。ただの美人コンテストじゃない。銀河系全体から候補を募集するのだ。確かに問題は沢山ある。宇宙には様々な種族がいて…
 ユーモア短編とは言いつつ、次々と紹介されるエイリアンの異様さにも注目。この作品で挙げた5項目は、まんまエイリアン創造のテンプレートとして使えそうなぐらいに充実してる。これで美人コンテストなんか、どうやるんだか。まあ深々の気鋭に富むカリフォルニアだし。ハードマンとトニーの陰険漫才は序の口で、各ミスが登場してからギャグは加速する。

 「暗黒神降臨」酒井昭伸訳。原題は To B or Not to C or to D。悪名高い探偵マグナス・リドルフの、今回の依頼者はコワモテの鉱山主ハワード・サイファー。彼の持つ惑星ジェクス・ジェカは岩ばかりで空気も生命もない。だが地上の四ヶ所に水が湧く。嫌気生物のタルリアンを労働者に使い採鉱していたが、彼らの食費を節約するため泉を使って自給自足体制を整えようとしたのだが…
 前に読んだマグナス・リドルフ物はSFマガジン2012年四月号の「蛩鬼」だった。腹にイチモツ持つごうつくばりな依頼人と、腹黒さじゃヒケをとらないマグナス・リドルフの、陰険な騙しあいが楽しいシリーズ。今回も、いきなり依頼人のアワードと報酬をめぐってジャブの打ち合い。いやあ、ビジネスって大変ですねえ。

 酒井昭伸の特殊解説「ありがとう、そしてさようなら」にある、「すべてを他人事として長めているような、超然とした雰囲気がつきまとう」に唸った。そうそう、ヴァンスの面白さの一つは、俯瞰した視点で、司馬遼太郎に少し似てる。ただ描き方が対照的で、司馬遼太郎は解説者のようにわかりやすく伝えるのに対し、ヴァンスは読者に悟らせる。

 もう一つの特集は金子隆一追悼特集は、小林伸光と林譲治の追悼エッセイに、未発表原稿「中生代のシー・モンスター第一章」、そして「センス・オブ・リアリティ」再録6編。SFの文脈で語られる事の多い人だけど、私は科学解説者として楽しみにしていた。これからなのに。

 草上仁「ウンディ」。ウニア・ハイ以来、長くバンドを組んでる三人。ドラムのゲンバとキーボードのズート、そしてウンディのシロウ。なんとか食えてるが、いまいちパッとしない三人は、ホウジョウ・ギグ・コンテストにエントリーした。それぞれキャリアも実力も充分で、仲も悪くない。ただ、シロウは今でもエントリー・モデルのセブンを使い続けていて…
 心地よい音楽小説。プロともアマとも言い切れない、微妙なポジションにいるベテラン・バンドの、息はあってるけどユルい雰囲気が、とってもよく出てる。いや本当のところは知らないけど。特に泣けてくるのは、シローがウンディにかける想い。彼がルーンと初めて交わす会話が、ウンディ・プレイヤーのクセを見事に表現してる。もちろん、音を描く場面にも注目。

 チャールズ・ストロス「パリンプセスト」後編。二億五千万年後、<ステイシス>は太陽系の改造にのりだした。小惑星帯のケレスを分解し、多数のソーラーセイル宇宙機を建造、太陽系の内側へと軌道を変え…。一方、<最終図書館>へ向かう羽目になったピアスは、シリにひとまずの別れを告げ…
 「アッチェレランド」もそうだったけど、舞台の滅茶苦茶なスケールの大きさと、感情につき動かされる人間の対比が、この人の作品の特徴。舞台がいきなり二億五千万年なんて馬鹿デカいスケールで始まったと思ったら、更にエスカレートしてとんでもない所までいってしまう。にも関わらず、主人公のピアスが拘ってるのは…。

 長山靖夫「SFのある文学誌」、「新しい女」と新世界――ロビダから服部誠一『二十世紀 新亜細亜』へ。アルベール・ロビダの「新二十世紀」から、その翻案である服部誠一の二十世紀 新亜細亜」、そして当事の各国の女性の地位のお話。自転車と女性のファッションの関係が実に意外。共産主義国の政府は自動車を歓迎しなかったみたいだし、移動手段ってのは、自由と大きな関係があるんだろうなあ。

 最新作「誰に見しょとて」刊行記念の菅浩江インタビュウ。連載のブランクに気をもんだけど、インタビュウを読む限り今は「仕事よこせ」な感じなので、これから楽しみ。でも野尻・先生ナニやってんすか・抱介の二の舞にはならないで。「表現」をテーマにするあたりが、いかにもで納得。カフェ・コッペリア収録の「千鳥の道行」での、最新技術の使い方は意表をつかれた。

 Sense of Reality、香山リカ「コミュニケーション、その活況の先に」。今回はブログの炎上のお話。イヤほんと、耳が痛い。私なんか匿名でやってるんだし、イザとなりゃスラかれば実生活には影響ないんだから、もちっと明確に意見を言ってもいいかな、とは思うんだけど、長くやってると、なんか出来ちゃうんだよね、自分の中で、「ネット上の人格」が。ズラかるってのは、ソレを殺す事になるわけで、なかなか思い切れない。でも「沈黙のらせん(→Wikipedia)」も怖いしなあ。

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